まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲を選曲しました(苦笑)。古今東西のポップ・ソングをエピソード、歌詞の和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。みなさんの音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの情報や思い出話などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「愛という名の欲望(Crazy Little Thing Called Love)」クイーン(1979)

 おはようございます。

 今日はクイーンの「愛という名の欲望」です。


Queen - Crazy Little Thing Called Love (Official Video)

 

  ” この”愛”ってやつは 全く手に負えないぜ

     この"愛”ってやつを なんとかしなくちゃな

     でもどうしたらいいんだろう 

             ”愛”という名のクレイジーでカワイイやつ

 

     この”愛”ってやつ 一晩中ゆりかごで泣くんだ(赤ちゃんみたいに)

     そいつはスウィングしてジャイヴして

     クラゲみたいに全身揺らすんだ オレはそれが好きなんだ

     ”愛”という名のクレイジーでカワイイやつ

    

      あの娘がやってくる    彼女はロックンロールのやり方をわかってるんだ 

      オレを夢中にさせるんだ    そして、のぼせさせたり落ち込ませたりした後

    オレは取り残されるんだ 冷たい汗をかいて

    

    もっとクールになって リラックスして

    流行に乗って 自分の調子でいかなきゃな

    (気持ちを落ち着かせるために)

    ヒッチハイクで後ろの座席に乗るとか

    オレのバイクで遠くまで行ってみるとか

    心の準備ができるまで

    ”愛”という名のクレイジーでカワイイやつ” (拙訳)

 

 

  Little Thing 〜ささいなこと、ですが、映画なんかで女の子に対して”カワイコちゃん”っぽいニュアンスで使うのも見るので、その中間くらいのニュアンスで訳してみました。

 

 さて、この曲をはじめて聴いた時、自然と僕はこの曲を思い浮かべました。フレディ・マーキュリーの歌い方、曲のリズム、そして歌詞(どちらも主人公は女の子に翻弄されています)。


Elvis Presley - Don't Be Cruel

 メンバーのブライアン・メイはこの曲は、フレディがエルヴィスに捧げたものだととらえています。フレディはエルヴィスやクリフ・リチャードが好きだったそうです。

 

 また、この曲を作った時のことについてフレディはこう語っています。

「”愛という名の欲望”を書くのに5分か10分しかかからなかった。ギターで作ったんだよ、全然弾けないのに。ギターのコードは少ししか知らなくて、そういう制限があったことがある意味良かったんだ。小さな枠組みの中で曲を書かなければいけないというのはいい訓練になるんだよ。僕はたくさんのコードを使って上手く書くことはできない、だから、そういう制約のおかげで僕はいい曲が書けるんだって思っている」

                   (「メロディーメイカー」1981年5月2日) 

 

 しかも、彼がドイツ、ミュンヘンのホテルで風呂に入っている時に突然思いついて、スタッフからギターを受け取りタオルにくるまったまま一気に書いたのだそうです。

 

 制限がある方がいい曲ができるというのは一つのセオリーでもあるようで、僕が思い出したのがヘンリー・マンシーニの名曲「ムーン・リバー」(「愛という名の欲望」と曲調のギャップが無茶苦茶ありますが、、、)です。

 30日かかっても曲ができなかったマンシーニが、オードリー・ヘプバーンが以前に歌った曲がわずか1オクターヴと一音でできていることに気づいて、その音域でしかもピアノの白鍵だけをたどっていくうちにわずか30分で「ムーン・リバー」ができたのだそうです。

 

 これは彼らのような天才に限ったことじゃなく、一般人の日常の中でも”制約”があったほうがアイディアが浮かぶということはありますよね。”なんでもあり”というのは意外に不自由なものです。

 

 

 それにしても、有名な曲がたくさんあるクイーンのレパートリーの中で、この曲は相当浮いていますよね。一歩間違えれば、単なるエルヴィスのパロディで終わった可能性だってあったと思います。しかし、そうはならなかった。やっぱりエルヴィスへのリスペクトを持って”本気”でやったからなのでしょうか。かつてのオーセンティックなロックンロールを忠実に蘇らせながら、全然クイーン風のスタイルじゃないのにクイーンっぽさもしっかり感じる、という実に絶妙なところに着地しているように僕には思えます。

 

 もうひとつ、この曲は1980年という”ロックンロール復興の年”の幕上げを飾ったという意味で重要なものです。

 誰も言わないので僕ひとりで主張しているのですが、1980年のポピュラー・ミュージックの大きな潮流のひとつが”ロックンロール・リバイバル”でした。引き金はパンク・ニューウェイヴでした。

   「愛という名の欲望」と同時期、アメリカで1980年1月(イギリスでは1979年12月)にパンクというよりオーセンティックなロックンロールを思い起こさせるクラッシュの「ロンドン・コーリング」が発売されます。

 またブルース・スプリングスティーン(「ザ・リバー」)、トム・ペティ(「破壊」)ボブ・シーガー(「奔馬のごとく(Against The Wind)」)といったロック・ヒーローがブレイク。

 ビリー・ジョエル(「グラス・ハウス」)、リンダ・ロンシュタット(「マッド・ラヴ)」なんて人たちまで本気でロックンロールをやり始めます。

 

 そして、その年を締めたのがジョン・レノンの「スターティング・オーヴァー」。やはりわざとエルヴィスっぽい歌い方をしていて、クイーンのメンバーは「愛という名の欲望」の影響だと語っています。その真偽はわかりませんが、1980年を象徴する2曲だと僕は思います。

 ジョンが亡くなってしまうとともに、ロックンロール復興の波もおさまってしまったように当時の僕は感じたものです。

 

 とにかく、フレディは自分の作風とは全然違うものを突然思いつき、それがまた時代の潮流の先駆けになったわけで、ちょっと神がかったインスピレーションの持ち主かな、などと僕は思ってしまいます。

 

 

 最後に、1982年の日本公演の映像があるのでそちもぜひ。


Queen - Crazy Little Thing Called Love (Live in Japan '82)

ザ・ゲーム

ザ・ゲーム

  • アーティスト:クイーン
  • 発売日: 2011/06/22
  • メディア: CD