まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「Heaven Knows」レズリー・ダンカン(1975)

 おはようございます。

   今日はレズリー・ダンカンの「Heaven Knows」。あまり広く知られていないですが、本当に素晴らしいシンガー・ソングライターです。


Lesley Duncan - Heaven Knows

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I still care, heaven knows I do
The sun don't shine, when it does wrong for me and you
You're still there, lovin' all you do
No way of leavin' you behind


You touched and gained control
Opened up the heart and soul in me
The wild bird lives in you
Spreading out your wings, you flew
You're free, free...


Free to cry, wonder if you do
This empty feeling in my heart was left by you
Softly die, melancholy blue
No place of refuge for my mind


You touched and gained control
Opened up the heart and soul in me
The wild bird lives in you
Spreading out your wings, you flew
You're free, oh...

 

You touched and gained control
Opened up the heart and soul in me
The wild bird lives in you
Spreading out your wings, you flew
You're free, free, oh...


I still care, heaven knows I do
The sun don't shine, when it does wrong for me and you
You're still there, lovin' all you do
No way of leavin' you behind


Heaven knows I do, heaven knows I do
Heaven knows I do, heaven knows I do

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今も気になる 私のすることを神様は知っているんじゃないかって
太陽は輝かない、私とあなたのことを誤解しているなら
あなたはまだそこにいる、自分のやること全てを愛しながら
あなたを残して行けない


あなたが触れ、主導権を握って
私の中の心と魂を開いた
あなたの中に野生の鳥がいる
翼を広げて、あなたは飛んだ
あなたは自由だ、自由なの、、、


泣くのも自由、あなたはそうするだろうか
私の心のこの空虚な感覚は、あなたが残していったもの
そっと死んでゆく、メランコリーブルー
私の心に逃げ場所はない


あなたが触れ、主導権を握って
私の中の心と魂を開いた
あなたの中に野生の鳥がいる
翼を広げて、あなたは飛んだ
あなたは自由だ、自由なの、、、


あなたが触れ、主導権を握って
私の中の心と魂を開いた
あなたの中に野生の鳥がいる
翼を広げて、あなたは飛んだ
あなたは自由だ、自由なの、、、


今も気になる 私のすることを神様は知っているんじゃないかって
太陽は輝かない、私とあなたのことを誤解しているなら
あなたはまだそこにいる、自分のやること全てを愛しながら
あなたを残して行けない


私のすることは誰も知らない 誰も知らない
神様だけが知っている 神様だけが知っている

             (拙訳)

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   1975年の作品ですから、この後に来るAORやメロウ・グルーヴの流れの先駆けのひとつだと言ってもいいじゃないかと僕は思います。

 

  この曲が収録されていたアルバムのタイトルは「Moon Bathing」。月光浴。

 当時の国内盤には「月影に想う••••」なんてタイトルがついていたようです。ジャケット写真の彼女を浮かび上がらせているのは”月の光”だというわけです。

  「Moon Bathing」は1960年代後半から70年代半ば頃の女性シンガーソングライターが好きな方には是非聴いていただきたい、まぎれもない”隠れた名盤”です。

 

 彼女は1960年代から活動を始めて、イギリスでは最初の女性シンガー・ソングライターの一人と評されています。

   まず1962年にルシール・スターというシンガーが彼女の書いた「I Want a Steady Guy」という曲を取り上げ、翌63年、彼女もレズリー・ダンカン&ザ・ジョーカーズという名義でこの曲でデビューします。


LESLEY DUNCAN and the Jokers | I WANT A STEADY GUY | (Duncan) | single | 1963

  グループはこの1曲のみでしたが、その後も彼女は60sのアメリカン・ポップス風の曲を書いていきます。


Lesley Duncan - See That Guy

  しかし、シンガーとして成功できなかった彼女は徐々にソングライターにシフトしていきます。1966年にはダスティ・スプリングフィールドに曲を提供しています(シングルのカップリング曲)。


Dusty Springfield - I'm Gonna Leave You

 彼女のことを”イギリスのキャロル・キング”と評した人もいるようですが、こういう曲を聴くと納得できますね。

 また、彼女はセッション・シンガーとしても活動をし始め、のちにピンク・フロイドの「狂気」を始め様々な作品に参加するのですが、その中に僕の好きなものがあります。けっこうマニアックなんですが、、。1960年後半イギリスに、”ニルヴァーナ”(もちろん、カート・コヴァーンとは違います)という二人組ユニットがいて、彼らの「Love Suite」という曲で彼女がリードボーカルをとっています。これは、ソフト・ロックの隠れた名曲じゃないかと僕は思っています、、、。 

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 そして、彼女のバック・コーラスの仕事の中に、若き天才、エルトン・ジョンがいました。彼女は彼のセカンドアルバム「Elton John」(邦題「僕の歌君の歌」)から4作目「Madman Across The Walter」(「マッドマン」)まで参加しています。

 そして、デビューアルバムからずっと自作を歌ってきたエルトンが三枚目のアルバム「Tumbleweed Connection(「エルトン・ジョン3」)で初めて、他の人の曲を取り上げます。

 それがレズリーの書いた「Love Song」という曲で、彼女のシングルとしてひっそりとリリースされていたものでした。

 この曲で彼女はコーラスだけじゃなく、アコギも弾いています。


Love Song - Elton John (Tumbleweed Connection 7 of 10)

  天才ソングライターであり、卓越したピアニストでもあるエルトンが、彼女の曲を彼女の弾くギターに合わせて歌っているわけですから、相当この曲を気に入ったのでしょう。そして、当然彼女に注目が集まります。

  しかも、エルトンのヴァージョンの後半には、子供達が海辺で遊んでいるような音がクロスしてくるのですが、レズリーのオリジナルも曲の途中から話し声やノイズがクロスしてきます。ただ、すごく編集が雑なんです。


Lesley Duncan - Love Song (Original version)

 さて、これは全く僕の推測です。

 エルトンはこの曲をすごく気に入った、しかしレズリーのシングルの録音のいい加減さに腹を立てたんじゃないかと思うんです。せっかく素晴らしい曲なのに、レズリーがかわいそうだ、と。だから、ただ曲をカバーするだけじゃなく、レズリーをしっかりフィーチャーする形でこの曲を録音しようと思ったんじゃないでしょうか。

 

 それはさておき、エルトンがカバーした結果、それまで安い予算でシングルだけ作って彼女を放ったらかしにしていたレコード会社が手のひらを返したように、彼女のアルバムを制作することを決めます。

 そのアルバム「シング・チルドレン・シング」にはエルトン・ジョンがピアノで参加しています。もちろん「Love Song」も録音し直されて、収録されています。


Lesley Duncan - Love Song

 1974年、エルトンのロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールのライヴにもレズリーはゲストで参加してこの曲を共演、「Here and There」というライブアルバムに収録されています。ここではエルトンのピアノによる「Love Song」のデュエットが聴けます。


Elton John & Lesley Duncan "Love Song"

 「Love Song」はオリビア・ニュートン・ジョンなど多くのアーティストがカバーしています。あのデヴィッド・ボウイもエルトンよりも早い1969年にこの曲のデモを録音していて、それがのちに発表されています。

 


DAVID BOWIE LOVE SONG 1968

 

 その後、彼女はアラン・パーソンズ・プロジェクトのアルバムなどでも歌い、オフィシャルで聴ける彼女の最後の歌は、プログレバンド出身の二人組”MITCHELL/COE MYSTERIES"の1980年のアルバム「EXILED」に収録されていた「Hold On To Love」と言う曲です。


Hold On To Love - Lesley Duncan

 レズリー・ダンカンは、結局アーティストとして大きな成功を収めることはできませんでしたが、「Love Song」をきっかけにして1970年代に質の高いソロ・アルバムを何枚か制作することができました。そのうちの一枚が「 Heaven Knows」が入った「Moon Bathing」で、レズリー自身一番気に入っているアルバムでもあったそうです。

 彼女は1978年に音楽プロデューサーとの結婚をし、1996年にスコットランドのマル島に移住することを決め、それを機に音楽業界からきっぱりと身を引いたそうです。

 2010年に彼女は病気で亡くなってしまいましたが、彼女のシンガー・ソングライターとしてのキャリアを知る人はマル島にはほとんどいなかったそうです。彼女は一切話さなかったのです。

 そして、彼女は日々庭仕事をしていて、快活でよく笑う女性として知られていたそうです。

 

 

名盤!

 

彼女のベスト・アルバム

 

未発表曲集

 

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