まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ドント・ゲット・ミー・ローング(Don't Get Me Wrong)」ザ・プリテンダーズ(1986)

 おはようございます。

 今日はザ・プリテンダーズの「Don't Get Me Wrong」。調べてみたら邦題が当初「ドント・ゲット・ミー・ローング」でした。”Long”じゃなくて ”Wrong”だってことを当時の日本の担当者はなんとか伝えたかったんでしょうね。でも、ローングだと、ロングよりもっと長い、なんて思っちゃうのは僕だけでしょうか、、。

www.youtube.com

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Don't get me wrong
If I'm looking kind of dazzled
I see neon lights
Whenever you walk by


Don't get me wrong
If you say hello and I take a ride
Upon a sea where the mystic moon
Is playing havoc with the tide
Don't get me wrong


Don't get me wrong
If I'm acting so distracted
I'm thinking about the fireworks
That go off when you smile


Don't get me wrong
If I split like light refracted
I'm only off to wander
Across a moonlit mile


Once in a while, two people meet
Seemingly for no reason
They just pass on the street
Suddenly, thunder showers everywhere
And who can explain the thunder and rain?
But there's something in the air


Don't get me wrong
If I come and go like fashion
I might be great tomorrow
But hopeless yesterday

Don't get me wrong
If I fall in the mode of fashion
It might be unbelievable
But let's not say so long
It might just be fantastic
Don't get me wrong

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誤解しないで 
もし私が眩しそうな顔をしていても 
ネオンの光を見てるだけだから
あなたが通りかかるたびに

 

勘違いしないで  
もしあなたに声をかけられて私がドライヴに行っても
海に浮かんだ神秘的な月が  
潮の満ち引きを乱しているせい
誤解しないで


誤解しないで 
私がすごく落ち着かないのは
花火のことを考えてたから 
あなたが微笑めば爆発するの


勘違いしないで
屈折した光のように私がいなくなったら
私はさまうために出かけただけ
はるか月明かりの向こうへ


時々、二人の人間が出会う
一見、何の理由もなく
街でただすれ違うだけ
突然、雷雨がそこら中にふりそそぐ
その雷と雨を誰が説明できるの?
でも空気の中に何かがあるの


誤解しないで
もし私が流行みたいに移り変わっても
明日は素晴らしいかもしれない
昨日は絶望的だったとしても

勘違いしないで
もし私が流行の波に乗ったら
そんなの信じられないかもしれないけど
さよならは言わないでいよう
それはただ素晴らしいことかもしれないから
誤解しないで

 

       (拙訳)

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  このPVに出てくるドラマの映像は「The Avengers」という1960年代にイギリスで放映されたスパイのものTV番組で、日本では「おしゃれ㊙︎探偵」というタイトルで放送されていたそうです。

 近年映画が大ヒットしているアメコミと同じタイトルですが違っているようで、ちなみにこちらは1998年にユマ・サーマンなどが出演してリメイクされています。

 

 この曲を和訳されているサイトをいくつか見ると、”ツンデレ”という視点でこの曲を捉えているものがいくつかあって、なるほどなあ、と思いました。

 

 さて、この曲を作って歌っているザ・プリテンダーズのクリッシー・ハインドはパンク・ブームが吹き荒れる1978年のロンドンのロック・シーンに颯爽と現れて以来、現在まで活躍し続けるまさにレジェンドです。

 

 彼女は子供の頃の自分は、決して女の子っぽくなくいつもおてんばだった、と以前のインタビューで答えています。

「裁縫には本当に夢中になって、人形に着せる服とか作ったわ、でも他の女の子たちがキックボールで遊ぶ男の子たちを見に行くと、私は馬になったフリをしたものよ」

 

 このエピソードは、この曲の歌詞の”素直になれない”ことから感じる可愛らしさと繋がっているように思えます。

 

 ツンデレは完全に”テクニック”ですが、この曲の主人公の場合は”どうしようもなくそうしてしまう”性癖みたいなもので、それは彼女のパーソナリティと直結した率直さなんだと思います。その”嘘のなさ”がまた魅力になっているんじゃないでしょうか。

 

 プリテンダーズはイギリスでデビューしたバンドですが、クリッシーは アメリカのオハイオ州で生まれ育っています。16歳からバンド活動を始め、19歳で大学を中退し世界を旅し始めます。そして1973年からイギリスに住み始め、有名なロック評論家と付き合うことで彼女も音楽誌のライターの仕事をすることになります。それに並行して、セックス・ピズトルズの仕掛け人だったマルコム・マクラーレンとデザイナーのヴィヴィアン・ウエストウッドが共同で経営するブティックでも働き、そのとき店にはパンクのアーティストが次々と来たようです。

 彼女によると、パンク・シーンは”男社会”では決してなかったとのことで、女だからという差別がなく楽器が弾ければいいということもあって、自分もやってみようと思ったそうです。

 しかし、ブティックで培ったミュージシャンの人脈があり、仲間はみんなバンドを組めたのに、彼女だけがなかなかバンドが組めませんでした。そして、毎晩ギターを抱えてありとあらゆるクラブを巡って、メンバーを探したそうで、そしてようやくできたのがプリテンダーズでした。

 そして、デビューした時、彼女は27歳でした。

 (ヴァネッサ・カールトンは自身が若くして成功したことでの挫折があったせいで”デビュー・アルバム作るのは28歳が最適説”を説いていましたが、その歳に近いクリッシーが息長く成功していることを考えると、あながち間違ってないかもなあ、などと思ってしまいます)

 

 彼女の魅力は、まず声、そしてソングライティングにも長けている、という音楽的な資質はもちろんですが、それを支える”彼女の姿勢”にもあるように思います。

 男に負けまいという過剰な反応はせず、女性であることを高らかに掲げることもないし、逆に媚びることも微塵もない。あくまでもナチュラルで率直であることを貫いています。そして、そこからブレのない説得力が生まれているように思います。

 だから、たとえソリッドでエッジの効いたロックンロールの中であっても、とても自然に彼女らしい女性らしさがにじみ出てくるわけです。

 

 パッと聴くとモータウン調の売れ線のポップスっぽく聴こえるこの曲も、それだけでは決して終わっていない、味わい深さがありますよね。

 

 ちなみに彼女は”Ultimate Classic Rock Nights”というラジオ番組のインタビューで、この曲は、元テニスプレイヤーのジョン・マッケンローのために書いたと語っていたそうです。

 

「”ジョンのために曲を書きたいと思ったの、彼のことを昔から知っていたから、彼はいつもトラブルに巻き込まれている--そう聞いてたから "とハインドは言った。"私は彼がテニスをするのを特に見たことがないし、テニスをあまり好きじゃないから。私はそれを認めたくないのよ、そのことを彼があんまり気に入ってないと思うから。彼はよく、"僕と一緒にいるときはスポーツに夢中になっているふりをすることはできないの?"って言っていたわ」

 

「”彼はギターを弾くのが大好きだった”と彼女は続けた。”彼は音楽が大好きで、よくライブに来てくれて、バンドとも仲良くしてくれていたから、それで彼と知り合いになったわ。彼に演奏してもらうために、この曲を書こうと私は思っていたの。何年かして、ブリティッシュ・エアウェイズに乗ったとき、機内アナウンスを聞いたんだけど、この曲のある程度は飛行機の中で書いたから、頭上に流れるアナウンス「ドンドンドンドン・・・ブリティッシュ・エアウェイズへようこそ」っていうやつから歌のメロディーのひとつをパクったんだと思う”」

 ( UCR  December 5, 2018)

 

 ジョン・マッケンロー。意外な人物が出てきましたね。それじゃあ、この曲から彼を連想させるものは何だろうと、考えると、やっぱりタイトルですかね。

 ”悪童(Bad Boy)”とあだ名をつけられてトラブル・メイカーだと世間から思われていた、そんな彼が「誤解しないで」と歌ったら面白い、ってクリッシー・ハインドは考えたのでしょうかね?

 
 それでっは、最後にこの曲のカバーを二つ紹介します。

  1980年代後半から90年代前半にかけて活動したドイツの ネオ・ロカビリー・バンド”SPEEDOS"。


Speedos - Dont get me wrong

  そして、「キス・ミー」のシックス・ペンス・ナン・ザ・リッチャーのボーカル、リー・ナッシュ。なかなかいい感じです。


Leigh Nash - Don't Get Me Wrong (Lyric Video)

 

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