まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲を選曲しました(苦笑)。古今東西のポップ・ソングをエピソード、歌詞の和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。みなさんの音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの情報や思い出話などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「トーン(TORN)」ナタリー・インブルーリア(1997)

おはようございます。

今日はナタリー・インブルーリアの「トーン」です。


Natalie Imbruglia - Torn (Official Video)

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I thought I saw a man brought to life
He was warm, he came around like he was dignified
He showed me what it was to cry
Well, you couldn't be that man I adored
You don't seem to know, or seem to care what your heart is for
But I don't know him anymore


There's nothing where he used to lie
My conversation has run dry
That's what's going on
Nothing's fine, I'm torn


I'm all out of faith
This is how I feel
I'm cold and I am shamed
Lying naked on the floor
Illusion never changed
Into something real
I'm wide awake and I can see
The perfect sky is torn
You're a little late
I'm already torn

 

So I guess the fortune teller's right
Should've seen just what was there
And not some holy light
But you crawled beneath my veins, and now


I don't care, I had no luck
I don't miss it all that much
There's just so many things
That I can touch, I'm torn


I'm all out of faith
This is how I feel
I'm cold and I am shamed
Lying naked on the floor
Illusion never changed
Into something real
I'm wide awake and I can see
The perfect sky is torn
You're a little late, I'm already torn
Torn
(Ooh, ooh-ooh, ooh)


There's nothing where he used to lie
My inspiration has run dry
That's what's going on
Nothing's right, I'm torn

 

I'm all out of faith
This is how I feel
I'm cold and I am shamed
Lying naked on the floor
Illusion never changed
Into something real
I'm wide awake and I can see
The perfect sky is torn


I'm all out of faith
This is how I feel
I'm cold and I'm ashamed
Bound and broken on the floor
You're a little late, I'm already torn
Torn

 

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夢に描いていた人が現れたと思ったの
温かくて、威厳がある雰囲気でやってきて
泣くってどんなことかも教えてくれた
ああ、あなたは私が憧れていたような人であるわけない
あなたは知らないし、気にもしていないみたい
自分の心が何のためにあるのか
だけど、もう彼のことは知らないわ


彼が横たわっていた場所には何もないし
会話ももう尽きた
それだけのこと
いいことなんてない、心は引き裂かれてる


すっかり信じる心を失った
そんな気持ちなの
裸で床に横たわりながら、寒さと惨めさを感じる
幻想は決して現実には変わることはないの
私はすっかり目を覚ましてちゃんと見えるの
完璧な空は引き裂かれて
あなたは少し遅かった
私はもう引き裂かれている

 

だから、占い師は正しいのね

聖なる光ではない
でも、あなたは私の血管の下を這った、そして今


どうでもいい、運がなかったんだ
そんなに恋しくもない
私にはどうにもできないことが多すぎて
心は引き裂かれている


すっかり信じる心を失った
そんな気持ちなの
裸で床に横たわりながら、寒さと惨めさを感じる
幻想は決して現実には変わることはないの
私はすっかり目を覚ましてちゃんと見えるの
完璧な空は引き裂かれて
あなたは少し遅かった
私はもう引き裂かれている
引き裂かれているの


彼が横たわっていた場所には何もない
私のインスピレーションは枯渇している
それだけのこと
何もかもしっくりしない、心は引き裂かれて

 

すっかり信じる心を失った
そんな気持ちなの
裸で床に横たわりながら、寒さと惨めさを感じる
幻想は決して現実には変わることはないの
私はすっかり目を覚ましてちゃんと見えるの
完璧な空は引き裂かれて


すっかり信じる心を失った
そんな気持ちなの
床の上で縛られ打ちのめされ、寒さと惨めさを感じる
あなたは少し遅かった
私はもう引き裂かれている
引き裂かれているの

       (拙訳)

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 アメリカのあるDJはこの曲を”90年代の NO.1ラジオ・ヒット”と言ったそうですが、日本でも良く耳にしました。

 しかし、1997年に大ヒットしたこの曲が書かれたのが実は1991年だったそうです。ナタリーが歌うまでに実は様々なアーティストが取り上げているんですね。今日はそこに焦点を当ててみたいと思います。

 

 まず、フィル・ソーナリーというプロデューサーがいました。もともとはビートルズトッド・ラングレンを敬愛していてソング・ライター志望でしたが、高校卒業するとすぐにスタジオで働き始め、お茶汲みなどの雑用から始めて、アシスタント・エンジニア、そしてエンジニアという風にキャリア・アップしています。

 1980年代にはデュラン・デュラン、トンプソン・ツインズなどのエンジニアを務めながら、プロデュース業も始めザ・キュアーやプリファブ・スプラウトなどを手がけています。また、ジョニー・ヘイツ・ジャズ のメンバー兼エンジニアだった時期もあったようです。

 しかし彼はソング・ライターとしての夢も捨てずに曲を書き続けていたようで、彼の曲作りのパートナーの一人にスコット・カルターがいました。スコットは1988年にブレンダ・ラッセルの「ピアノ・イン・ザ・ダーク」という曲を共作してグラミー賞にノミネートされた実績がありました。


Brenda Russell - Piano In The Dark (Official Video)

 スコットにはまたアン・プレヴェンというパートナーがいて、彼女はアーティスト志望だったので、彼女のデモ曲を3人で書いてみようということになり、出来上がったうちの1曲が「トーン」でした。

 イギリスにいるフィルのところに、アメリカからスコットとアンがやってきてこの曲は作られました(時差ボケがひどくて暗めな曲になったとアンは言っています)。

 歌詞を書いたのはアンで、その頃彼女はジョニ・ミッチェルに夢中で、彼女になった気持ちで書いたのだそうです。

 しかし、「トーン」の入ったアンのデモに反応したレコード会社はありませんでした。

 スコットとアンは”エドスワップ”というバンドを一緒にやっていたので、ライヴでは「トーン」をやっていたそうです。

 この曲を最初に気に入ったのはポール・ブランというデンマークのA&Rで、1993年にデンマークのシンガー、リズ・ソレンセンに歌わせます。


Lis Sørensen - Brændt (Official Music Video)

 そして、1995年にはエドスワップのデビュー・アルバムにも収録されました。


Ednaswap - Torn

   1997年のセカンドアルバムにも別アレンジで収録しています。エドスワップニルヴァーナパールジャムみたいなバンドを目指していたそうです。


Ednaswap-Torn

 1996年にはケリー・クラークソンもカバーした「Just Missed The Train」(これもスコット・カルターの作品)で知られるノルウェイのトリーネ・レインがカバー。


Trine Rein - Torn (Official Music Video)

   まだ、無名のスコットとアンを抜擢したスーパースターがいます。それはマドンナです。1994年の「ベッドタイムストーリー」で「サンクチュアリ」という曲を彼らはマドンナとプロデューサーの、ダラス・オースティンと共作しています。


Madonna - 09. Sanctuary

 そして、いよいよナタリー・インブルーリアの登場です。

 彼女はオーストラリア出身で最初は女優としてキャリアをスタートさせ人気TV番組やコカコーラなどのCMにも出ていたそうですが、歌手を目指すためにイギリスへ移住していました。

  彼女を紹介されプロデュースをすることになったフィルは、「トーン」の権利を持つ音楽出版社からこの曲をカバーさせたらどうかという提案を受け、いいアイディアだと思った彼は実行に移すことにしました。

 ナタリーのヴァージョンが大ヒットしたことについてフィルはこう語っています。

「(曲がヒットするために)必要な要素がすべて揃うのを待たなければいけないこともあるということなんだ。

 明らかに彼女はポップスターで、女優としてのバックグラウンドがあるから、曲の主人公のように見える。彼女はすごくいいPVにする方法がわかっていたし、声質がこの曲にぴったりだったんだ。曲自体はかなり不安を感じさせるものだけど、彼女の声はすごくかわいらしい。それがとても魅力的に結びついたんだと思う」

 

 

 ”トーン(Torn)”、心が引き裂かれる、という意味で、内容は100%のハートブレイク・ソングですが、確かにナタリー以前のカバーは歌詞にかなり引っ張られるように、重苦しいトーンが強いですよね。しかし、ナタリーは可愛らしい声で軽快に歌っています。

 ジョニ・ミッチェルの「ビッグ・イエロー・タクシー」が人間の自然破壊への警告を軽快なポップ・ソングのスタイルとして歌われたように、シリアスなテーマをあえて軽快に歌うことがかえってアピールすることもあるんですね。

 

 悲しい歌は悲しそうな声で悲しそうな演奏でやれば伝わるか、というとそうでもないんでしょう。そこがポップ・ソングの面白さでもあります。

 

 人間は相反する感情が絡み合ったまま、それを抱えている生き物ですから、”ミスマッチ”を内包している楽曲のほうが、実は多くの人々にアピールするのかもしれない、などと思ったりもします。

 

 ちなみに、ナタリーのヴァージョンのアレンジは、フィルとスコットとアンが一番最初に作ったデモのアレンジに似ていたそうです。少しテンポが速くなって、キーが高くなっただけだとスコットは思ったと語っています。

 YouTubeエドスワップが1997年にラジオ局に配ったプロモーションCDに入っている「トーン」の音源がアップされています。これは、その最初のデモに近いものかもしれません。


Ednaswap - Torn - 1997 "radio mix" RARE!

 

  ナタリーの「トーン」は本国オーストラリアやイギリスで2位、スウェーデンでは1位になり大ヒット、しかしアメリカではビルボードのエア・プレイ・チャートでは11週間も1位を続けながらも、最高48位に終わっています。

 

   ナタリーのシンガーとしての成功のピークはこの「トーン」で、その後少しずつ失速していきますが、女優業と合わせてコンスタントに活動は続けているようです。

 

 その後、スコットとアンはソングライターとして活躍し、映画「ドリームガールズ」でビヨンセが歌った「Listen」などを書いています。


Beyoncé - Listen [Official First Video]

 

 

 追記(2022年2月19日)

 アマゾン・プライム・ビデオで日本版もやっていた「ザ・マスクド・シンガー」、本国イギリス版の3rdシーズンにナタリーはパンダの着ぐるみで登場し優勝したそうです。

www.youtube.com

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