まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます

「トーン(TORN)」ナタリー・インブルーリア(1997)

おはようございます。

今日はナタリー・インブルーリアの「トーン」です。


Natalie Imbruglia - Torn (Official Video)

 アメリカのあるDJはこの曲を”90年代の NO.1ラジオ・ヒット”と言ったそうですが、日本でも良く耳にしました。

 しかし、この曲が書かれたのは1991年だといいます。ナタリーが歌うまでに実は様々なアーティストが取り上げています。今日はそこに焦点を当ててみたいと思います。

 

 まず、フィル・ソーナリーというプロデューサーがいました。もともとはビートルズトッド・ラングレンを敬愛していてソング・ライター志望でしたが、高校卒業するとすぐにスタジオで働き始め、お茶汲みなどの雑用から始めて、アシスタント・エンジニア、そしてエンジニアという風にキャリア・アップしています。

 1980年代にはデュラン・デュラン、トンプソン・ツインズなどのエンジニアを務めながら、プロデュース業も始めザ・キュアーやプリファブ・スプラウトなどを手がけています。また、ジョニー・ヘイツ・ジャズ のメンバー兼エンジニアだった時期もあったようです。

 しかし彼はソング・ライターとしての夢も捨てずに曲を書き続けていたようで、曲制作のパートナーの一人にスコット・カルターがいました。スコットは1988年にブレンダ・ラッセルの「ピアノ・イン・ザ・ダーク」という曲を共作してグラミー賞にノミネートされた実績がありました。


Brenda Russell - Piano In The Dark (Official Video)

 スコットにはまたアン・プレヴェンというパートナーがいて、彼女はアーティスト志望だったので、彼女のデモ曲を3人で書いてみようということになり、出来上がったうちの1曲が「トーン」でした。

 イギリスにいるフィルのところへ、アメリカに住むスコットとアンが行って曲は作られました(時差ボケがひどくて暗めな曲になったとアンは言っています)。

 歌詞を書いたのはアンで、その頃彼女はジョニ・ミッチェルに夢中で、彼女になった気持ちで書いたのだそうです。

 しかし、「トーン」の入ったアンのデモに反応したレーベルはなかったそうです。

 スコットとアンは”エドスワップ”というバンドを一緒にやっていたので、ライヴでは「トーン」をやっていたそうです。

 この曲を最初に気に入ったのはポール・ブランというデンマークのA&Rで、1993年にデンマークのシンガー、リズ・ソレンセンに歌わせます。


Lis Sørensen - Brændt (Official Music Video)

 そして、1995年にはエドスワップのデビュー・アルバムにも収録されました。


Ednaswap - Torn

   1997年のセカンドアルバムにも別アレンジで収録しています。エドスワップニルヴァーナパールジャムみたいなバンドを目指していたそうです。


Ednaswap-Torn

 1996年にはケリー・クラークソンもカバーした「Just Missed The Train」(これもスコット・カルターの作品)で知られるノルウェイのトリーネ・レインがカバー。


Trine Rein - Torn (Official Music Video)

   まだ、無名のスコットとアンを抜擢したスーパースターがいます。それはマドンナです。1994年の「ベッドタイムストーリー」で「サンクチュアリ」という曲を彼らはマドンナとプロデューサーの、ダラス・オースティンと共作しています。


Madonna - 09. Sanctuary

 そして、いよいよナタリー・インブルーリアの登場です。

 彼女はオーストラリア出身で最初は女優としてキャリアをスタートさせ人気TV番組やコカコーラなどのCMにも出ていたそうですが、歌手を目指すためにイギリスへ移住していました。

  彼女を紹介されプロデュースをすることになったフィルは、「トーン」の権利を持つ音楽出版社からこの曲をカバーさせたらどうかという提案を受け、いいアイディアだと思った彼は実行に移すことにしました。

 ナタリーのヴァージョンが大ヒットしたことについてフィルはこう語っています。

「(曲がヒットするために)必要な要素がすべて揃うのを待たなければいけないこともあるということなんだ。

 明らかに彼女はポップスターで、女優としてのバックグラウンドがあるから、曲の主人公のように見える。彼女はすごくいいPVにする方法がわかっていたし、声質がこの曲にぴったりだったんだ。曲自体はかなり不安を感じさせるものだけど、彼女の声はすごくかわいらしい。それがとても魅力的に結びついたんだと思う」

 

 

 ”トーン(Torn)”、心が引き裂かれる、という意味で、内容は100%のハートブレイク・ソングですが、確かにナタリー以前のカバーは歌詞にかなり引っ張られるように、重苦しいトーンが強いですよね。しかし、ナタリーは可愛らしい声で軽快に歌っています。

 ジョニ・ミッチェルの「ビッグ・イエロー・タクシー」が人間の自然破壊への警告を軽快なポップ・ソングのスタイルとして歌われたように、一見、ミスマッチと思えるものが予想以上に効果的だったりします。

 悲しい歌は悲しそうな声で悲しそうな演奏でやればいいか、というとそういうことでもないんでしょうね。

 人間は相反する感情が絡み合ったまま、それを抱えている生き物ですから、”ミスマッチ”を内包している楽曲のほうが、実は多くの人々にアピールするのかもしれません。

 ちなみに、ナタリーのヴァージョンのアレンジは、フィルとスコットとアンが一番最初に作ったデモのアレンジに似ていたそうです。少しテンポが速くなって、キーが高くなっただけだとスコットは思ったと語っています。

 YouTubeエドスワップが1997年にラジオ局に配ったプロモーションCDに入っている「トーン」の音源がアップされています。これは、その最初のデモに近いものかもしれません。


Ednaswap - Torn - 1997 "radio mix" RARE!

 その後、スコットとアンはソングライターとして活躍し、映画「ドリームガールズ」でビヨンセが歌った「Listen」などを書いています。


Beyoncé - Listen [Official First Video]

 

 

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