まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「Kiss Me(キス・ミー)」シックス・ペンス・ナン・ザ・リッチャー(1998)

 おはようございます。

 今日はシックス・ペンス・ナン・ザ・リッチャーの「キス・ミー」。日本でもTVやラジオでよく耳にした大ヒット曲です。


Sixpence None The Richer - Kiss Me (Official HQ)

 

Kiss me out of the bearded barley
Nightly, beside the green, green grass
Swing, swing, swing the spinning step
You wear those shoes and I will wear that dress, oh

Kiss me beneath the milky twilight
Lead me out on the moonlit floor
Lift your open hand, strike up the band
And make the fireflies dance, silver moon's sparkling
So kiss me


Kiss me down by the broken tree house
Swing me upon its hanging tire
Bring, bring, bring your flowered hat
We'll take the trail marked on your father's map


Kiss me beneath the milky twilight
Lead me out on the moonlit floor
Lift your open hand, strike up the band
And make the fireflies dance, silver moon's sparkling
So kiss me


Kiss me beneath the milky twilight
Lead me out on the moonlit floor
Lift your open hand, strike up the band
And make the fireflies dance, silver moon's sparkling
So kiss me

*******************************************************************

キスして 髭を蓄えた麦畑を抜けて
夜な夜な、青い青い草原のかたわらで
くるっくるっくるっと回転するステップで
あなたはその靴を履いて、私はそのドレスを着るの

 

キスして 乳白色の黄昏の下で
リードして 月明かりに照らされたフロアへと
あなたが手のひらを挙げれば、バンドの演奏が始まる
そして、蛍を踊らせ、銀色の月はきらめく
だから、キスして

 

キスして壊れたツリーハウスのそばで
吊り下げられたタイヤに乗った私を揺らして
ねえ、ねえ、持ってきて あなたの花飾りのついた帽子
あなたのお父さんの地図に記された道を旅しましょう

 

キスして 乳白色の黄昏の下で
リードして 月明かりに照らされたフロアへと
あなたが手のひらを挙げれば、バンドの演奏が始まる
そして、蛍を踊らせ、銀色の月はきらめく
だから、キスして

 

                    (拙訳)

*******************************************************************

 彼らはクリスチャンのグループなんですね。ボーカルのリー・ナッシュと、ギターとソングライティングを手がけるマット・スローカムがキリスト教の修養会で出会ったことが結成のきっかけになっています。

 

 バンド名も『ナルニア国物語」の著者で熱心なキリスト教の伝道者でもあったC・S・ルイスの『キリスト教の精髄』という著作に書かれている話からとられました。『キリスト教の精髄』は、ルイスがラジオ番組でキリスト教の本質をわかりやすく語りかけたものを本にまとめたもののようです。その中の例え話に"6ペンス"が出てきます。

 

 幼い子供から自分ためのプレゼントを買うために6ペンスほしいと言われた父親が、子供が買ってきたプレゼントにすごく喜んだのですが、元々は自分のお金ですから、そのことによって6ペンス分の得をしたわけではない、ことに気づくという話です。それをルイスはキリスト教における神と人との関係と比較し、神からの贈り物を謙虚に理解し信仰することを説いたのだそうです。

 

 さて、カントリーのメッカ、テキサス州で生まれ育ったリーは、やはりカントリー・ミュージックを聴き育ったようで(他にメキシコ音楽のマリアッチも)、12歳から自ら演奏し歌うようになったそうです。

 そして、1990年代前半にマットと出会いデモを作り始め、1992年ごろバンドを結成し、1994年にインディーズからアルバム『The Fatherless and the Widow』をリリースします。

 

 1995年に発売されたセカンド・アルバム「This Beautiful Mess」からのシングルがクリスチャン・ミュージックのチャートに入り、少しずつ知名度を上げていきます。

 

www.youtube.com

 

 1997年には三枚目のアルバム「Sixpence None the Richer」をリリース。「Kiss Me」はこのアルバムに収録されていました。

 翌1998年にシングルとしてリリースされますが、3ヶ月後にアメリカの人気青春TVドラマ「ドーソンズ・クリーク」に、翌99年には青春映画「シーズ・オール・ザット」に使われ、一気にティーンエイジャーから大人気の曲になります。

 僕はリアルタイムで見ていなかったのですが、この時期はちょうど青春ドラマが少なかった時期らしく、それだけ注目が集まりやすかったのでしょう。

 ちなみにテイラー・スウィフトが始めてギターで覚えた曲がこの「Kiss Me」だったそうで、この当時アメリカで”アコギ女子”がたくさん生まれ、そのきっかけになった曲だったのかもしれません。

 

 「Kiss Me」は日本人が好きな”ネオ・アコ””ギター・ポップ”系の曲ですが、彼らのアルバムを聴いていくと、他はもっと落ち着いたアーティスティックな曲が並び、「KIss Me」が異色だったことがわかります。彼らの本質は、もう少し地道なスタイルだったのだと思います。

 

 しかし、この予想外の大ブレイクで、彼らはまさに嵐の中に巻き込まれ、とうとうバンド活動を停止せざるを得なくなります。

 その当時のことは、ただただ飛行機にばかり乗っていた記憶として残っていると言っていたリーですが、そのヒットのおかげで自分は長く音楽活動ができているのだから感謝しかないとも語っています。

 

 あと、日本人には「Kiss Me」は(その当時の)今風の若者のラブ・ソングっぽく聴こえるんじゃないかと思いますが、歌詞を見てみるとかなり詩的です。

 この曲を書いたマット・スローカムは詩を愛好していたようで、W.H.オーデンやディラン・トマスといった昔の詩人に影響受けていて、「Kiss Me」を書いたときはディラン・トマスを読んでいたようです。(具体的には「The School for Witches」という作品だったという記述が見つかりました)

 

 ともかく敬虔なクリスチャンでカントリー・ミュージックと古い詩を音楽に反映させるという、ある意味トレンドから遠く離れたスタイルの彼らが、最新のヒット・アーティストになったわけですから不思議なものです。

 しかも、これまたその頃は主流じゃなかった青春ドラマがきっかけでブレイクしたというわけですから。

 いつの世にも本当はニーズがあったのに満たされていなかったポイントがきっとあって、そこに<ピタッとはまる>ことになるアーティストというのがいるんですね。

 

↓日本でも大人気だったこの曲、日本のレーベルからのリクエストで日本語ヴァージョンも作っています。


Sixpence None The Richer [Japanese]

 

リーはソロ・シンガーとしても活動していますが、バンドでは今のところ、2012年のアルバムが最新の作品になっています。

 


Sixpence None the Richer - Sooner Than Later

 

 

 

Kiss Me

Kiss Me

  • Word Entertainment
Amazon