まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「哀しみのマンディ(Mandy)」バリー・マニロウ(1974)

 おはようございます。

 今日も昨日に続いて作曲家リチャード・カーの作品。バリー・マニロウの「哀しみのマンデイ」です。


Barry Manilow - Mandy (Audio)

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I remember all my life
raining down as cold as ice.
Shadows of a man,
a face through a window cryin' in the night,
the night goes into

Morning just another day;
happy people pass my way.
Looking in their eyes,
I see a memory I never realized
how happy you made me.

Oh Mandy, well
you came and you gave without taking,
but I sent you away.
Oh, Mandy ,well
kissed me and stopped me from shaking,
and I need you today. Oh, Mandy!

I'm standing on the edge of time;
I've walked away when love was mine.
Caught up in a world of uphill climbing,
the tears are in my mind
and nothin' in rhyming.

Oh Mandy, well
you came and you gave without taking,
but I sent you away.
Oh, Mandy well,
kissed me and stopped me from shaking,
and I need you today. Oh, Mandy!

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僕の人生はずっと 氷のように冷たい雨が降っていた

一人の男の影が 窓越しに見える顔が 夜通し泣いている

そして夜はやがて、、

 

いつもと同じような朝がくる

幸せそうな人々が僕の行く手を通り過ぎてゆく

彼らの瞳をのぞきこめば

気づかずにいた想い出が見える

君が僕をどれだけ幸せにしてくれたのか

 

ああマンデイ 

君はやってきて 何も奪わずただ与えてくれた

なのに、僕は君を追いやってしまった

ああマンデイ

君はキスをして 僕の震えを止めてくれた

いま君にいてほしいんだ マンデイ

 

時の行き止まりで立ち尽くしている

愛を手にしていたのに 僕は立ち去ってしまった

坂を登るような世界に巻き込まれて

心で涙を流し なにもかもがしっくりこないんだ

 

ああマンデイ 

君はやってきて 何も奪わずただ与えてくれた

なのに、僕は君を追いやってしまった

ああマンデイ

君はキスをして 僕の震えを止めてくれた

いま君にいてほしいんだ マンデイ            (拙訳)

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 バリー・マニロウの初めてのヒットにして、全米1位に輝いたのがこの「哀しみのマンディ」です。

 しかし、この曲は彼がオリジナルではありませんでした。

 最初に歌ったのはこの曲の共作者でもあるスコット・イングリッシュ。1971年に発売され全英12位まで上がるヒットになっています。

 タイトルは「Mandy」ではなく「Brandy」でした。


Scott English - Brandy

  スコットは1960年に歌手としてデビューし、その後ソングライター、プロデューサーとしても活動していました。

 この曲について彼はこう語っています。

「この曲は妻と別れることを怖れている僕自身について歌っているんだ。実際に別れてしまったんだけど。でもそれは別れる前に書いた。みんなが好きな”君はキスをして 僕の震えを止めてくれた”という歌詞は、実際に僕の最初の奥さんが、キスして震えを止めてくれたことがあったんだ。彼女は僕を路上から連れ出して、家を与えてくれた。僕は恩知らずだったんだ、それとも飽きたのか、自分でもわからないけど。僕の父について書いたところもあるよ ”窓越しに見える男”それが僕の父なんだ」

 

「MIDEM(世界最大の音楽見本市)で曲を書き始めて、ロンドンに戻ってからリチャード・カーと一緒に仕上げた。僕のピアノは修理中だったので、ピアノがあるか近所中探したよ。家主さんが一台見つけてくれたんだけど、調律が狂っていてね。だから、調律が狂ったまま「ブランディ」を完成させたんだよ。僕らはリチャードの歌でデモを作ったんだけど、誰も気に入ってくれないみたいだった、それは、彼の声に合ったアレンジじゃなかったから」

                 (MUSIC WEEK 2018 11月)

 

 しかし、スコットが制作契約をしているいくつかのレコード会社をあたって実際にセッションする中で、彼自身がこの曲を歌ってリリースすることになります。

 そして、イギリスの国民的音楽番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」に出演するとチャートの12位まで上がり、番組から再び出演依頼が来たそうですが、組合に出演を阻止されてしまったのだそうです(ライヴ活動が十分じゃなかったという理由だそうです)。曲の勢いは止まり、”キャット・スティーヴンスみたいになるチャンスだったのに、、”と彼は悔やんでいます。

 

 大ヒットになりきれなかった曲”ブランディ”に新たな命を吹き込んだのはクライヴ・デイヴィスでした。

 曲の出版権を持つ音楽出版社(スクリーン・ジェムス)が売り込みのため、”ブランディ”のレコードを彼の机の上に置いていたそうです。

 

 そして彼はこの曲を自分が立ち上げたレコード会社”アリスタ”の一推しアーティストのバリー・マニロウに歌わせることにします。

 バリーはアルバムの中の1曲としてならやると言ったそうですが、クライヴはテンポを落としてバラードにしようと提案し、しかもシングルにしたいと言ってきたそうです。

 バリーはこう語っていたそうです。

「ぼくは新人がバラードを出すのは危険だと思ったけど、彼は、これは特別なバラードなんだ。よくきいてくれ、って言った。それでぼくは彼の言う通りにしたんだ」

   (「ビルボード・ナンバー1ヒット1971-1975」)

 

 そして、この曲をレコーディングするときに、1972年にルッキング・グラスというバンドが「ブランディ(Brandy(You're a Fine Girl))」と言う曲を全米1位の大ヒットにしていたので、混同を避けるためにタイトルを「Mandy」に変更することにしました。


Looking Glass - Brandy (You're a Fine Girl) (Audio)

 ちなみに、この曲もクライヴ・デイヴィスがCBSレコードの社長時代に彼らが歌うのを聴いて気に入ってリリースしたものなのだそうです。

 音楽業界史上最高の”ヒットの耳を持つ男”と呼ばれるクライヴ・デイヴィス、本当にすごいですね。

 

 さて、当のスコット・イングリッシュはそのことを知らなかったようで、何気なく手に取った業界紙に自分が書いた「Mandy」という曲が紹介されているのを見て、そんな曲書いたおぼえがないと思ったそうです。

 

 2003年にはアイルランド出身の人気ボーイ・グループ、ウエストライフがこの曲をカバーし全英NO.1に輝いています。


Westlife - Mandy (Official Video)

 

  最後に2011年頃のスコットのライヴを。「Mandy」をアルバムでカバーしたハービー・アームストロングというアーティストのライヴでゲスト出演したときのもののようです。

 最初は「Mandy」と歌うのですが、2番では「Brandy」と歌って観客が笑っているところがポイントですね。


Herbie Armstrong & Scott English - "Mandy / Brandy"

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