まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「愛に生きる二人(Ready to Take a Chance Again)」バリー・マニロウ(1978)

 おはようございます。

 今日は「やさしく歌って」を作ったノーマン・ギンベル(作詞)チャールズ・フォックス(作曲)の作品「愛に生きる二人」です。

 歌っているのはバリー・マニロウ。当時大変に人気のあったコメディ女優ゴールディー・ホーンとTV「サタデーナイト・ライヴ」の人気者チェビー・チェイスが出演したサスペンス・コメディ映画「ファール・プレイ」の主題歌としてヒットしました。

 

  この曲が流れる映画の最初の方のシーンを。


Barry Manilow Ready to take a chance again Foul Play 小迷糊闖七關

 

  "君は気づかせてくれた 僕が殻に閉じこもって

 過去から身を守っていたことを

 そして、それでも構わないけれど 

 たいしていいことでもないってことを

    ショックも驚きもなく 危険なことも起きない

    僕の人生は成り行きまかせ

 それも僕には全然いいんだけど

 素晴らしいこととは言えないね

 

 だからもう一度チャンスをつかんでみたいんだ

 君となら傷つく覚悟はできている

    それを示すものもないまま生きてきたけど

 行動を起こさなきゃ、何も手にすることはできない

 だからもう一度チャンスを掴む準備はできた

 

 彼女が僕を絶望の中に取り残して去っていったとき

 僕はただこらえ続けた

 望みはすべて消えて そして僕は君に出会えた

 

 僕はもう一度チャンスをつかんでみたいんだ

 僕はもう一度チャンスをつかんで見たいんだ 君と ”(拙訳)

 


”It's all very nice  But not very good” 

 very nice だけどvery goodじゃない、百戦錬磨の作詞家ノーマン・ギンべルらしい言い回しが出てきます。

 そこで調べてみました。その中に、niceもgoodも「良い」だけど、niceは主観的でgoodは客観的だと説明されている方がいて、なるほど、と思いました。

 

 歌詞の内容も、殻に閉じこもったまま傷つかないで生きていくのは、自分にとっては居心地のいいものだけど、客観的に見たら素晴らしいことはない、と解釈するとしっくりきます。

 

 そして、この曲を聴くとチャールズ・フォックスは本当に美しいメロディを書く人だと再認識できます。彼の代表作「やさしく歌って」もそうですが、インストでも十分惹きつけられるメロディだと思います。

 

 というわけで、今日はチャールズ・フォックスについて書きます。

 この人、ポップス・マニア、特に渋谷系あたりの影響でソフト・ロック好きになった人には興味深いプロフィールを持っています。

 

 まずは、彼のキャリアの初期に映画「バーバレラ」の音楽を担当しています。

 ジェーン・フォンダ主演のコミカルでちょっとセクシーなSF映画渋谷系ブームの時には、このサントラ盤は大人気でした。


Barbarella

 この作品はフォー・シーズンズのプロデューサーとして有名なボブ・クリューの仕事として知られていますが、彼はあくまでもヒット勘とアイディアにあふれたプロデューサーで(それからシンガーでもありました)、音楽を正式には学んでいなかったようなので、彼一人で作曲やアレンジはできなかったと思われます。

 

 それで彼は、音楽の素養の高い相棒を常にそばに置いて、自分のイメージする音楽を具現化してもらうというスタイルで仕事をしていました。

 そして、チャールズはボブの相棒に抜擢されたんですね。

 素晴らしいメロディを書く人や、職人的に素晴らしいアレンジをする人というのは、大抵”ヒット勘”のようなものには欠けているものです(それは当然、作品に没頭するため客観的な目線を持ちづらいからだと思いますが)。

 フォーシーズンズのメンバーで大ヒット曲をたくさん書いたボブ・ゴーディオは素晴らしいメロディ・メイカーですが、ヒット曲に仕上げるコツについては相当プロデューサーのボブ・クリューから学んだのだと思います。「バーバレラ」もチャールズ・フォックスにとっても良い経験になったはずです。

 

 そして翌年、ソフト・ロックを代表するグループ、アソシエイションが参加したことでも知られる映画「さよならコロンバス」の音楽も彼は手がけています。

 


Love Has a Way

 

 その後、彼はコンスタントに映画音楽を手がけていく、幅広いジャンルで職人的な手腕を発揮していきますが、「やさしく歌って」の影響でしょうか、ボーカルものに関しては物憂げで美しい曲が目立ちます。

 

 1975年「あの空に太陽が」の主題歌。オリビア・ニュートン・ジョンが歌い、オスカーの歌曲賞にもノミネートされましたが、権利関係の問題でシングルにはならなかった、いわば”レアな”作品です。


A Window to the Sky(1975) - Richard's Window

 

 そして1977年、「ジェレミー」などで日本でもちょっと人気のあった俳優ロビー・ベンソン(その後TV、映画の監督、プロデューサーとして大活躍しています)のバスケットボール映画「ワン・オン・ワン」。「想い出のサマー・ブリーズ」のシールズ&クロフツをボーカルに迎え、作詞はポール・ウィリアムスが担当しています。


My Fair Share (from the One On One OST) - Seals & Crofts

 

 アメリカでは「やさしく歌って」の他に、「ラブ・ボート」というTVドラマのテーマ・ソングを書いた人として彼は広く知られているようです。「愛に生きる二人」は「やさしく歌って」に次ぐ彼のヒット曲(全米11位)ということになります。

 

 彼はジャンルを問わず映画やTVの音楽を手がけた”職人”であったわけですが、バカラックミシェル・ルグランを目指し、彼らのような美しいメロディーの曲をたくさん書き残したいと思っていたんじゃないかと僕は想像するのですが。

  

  

 

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