おはようございます。
今日はコリーヌ・ベイリー・レイの「プット・ユア・レコーズ・オン ( Put Your Records On)」です。
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三羽の小鳥が部屋の窓辺にとまって
私に言ったの 心配はいらない、と
夏がやってきた まるでシナモンのように、とても甘く
少女たちはコンクリートの路上で縄跳びで遊ぶ
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彼女はイギリスのリーズ出身。父親はカリブ海と大西洋に間に浮かぶ小さな島、セント・クリストファー・ネービス出身で、母親はヨークシャー出身の白人。シャーデー・アデュのように黒人と白人の二つの文化をルーツを持っています。
子供の頃からクラシック・ヴァイオリンを習い、教会で歌う楽しさをおぼえたそうです。その教会の知り合いからエレキ・ギターをプレゼントされたことがきかっけにロックに興味を持ち始め、レニー・クラヴィッツ、レッド・ツェッペリン、ジミ・ヘンドリックスなどに夢中になったそうです。
15歳でインディ・ロック風のバンドを始めますが、彼女はR&Bにも興味を持つようになっていったそうです。バンドは10年近く活動したそうですが解散を機に、ソロとして歌い始め、地元の実業家であるボブ・ミラーという人物のバックアップもあり、レコード会社にアプローチしますが最初はどこも興味を示さなかったそうです。
ミラー氏はのちにこう語っていたそうです。
"彼女の歌が聴けるようになるために、必要なら家だって担保に入れていたよ"
ブレイクするアーティストの周りには、必ずといっていいほど彼のような半端じゃない情熱を持った人物がいるものです。自分の人生そのものを賭けちゃうような。
その熱量は、作品作りそのものには影響はないのでしょうが、そのアーティストのチャンスを引き寄せるとか、そういう引力として大きな役割を果たすように僕は思います。
そんな熱意を持った人物の後押しで、彼女はロンドンに行きインディーズでレコーディングをします。そして、レコーディングがほぼ終わったころにメジャーから声がかかり、録音はほとんどそのままのかたちでメジャーデビューを果たします。2005年、彼女が26歳の時でした。
デビュー曲は「ライク・ア・スター」。彼女がまだバンド活動をしていた時に作った曲なのだそうです。
この曲は全英32位、全米では最高56位まであがりました。
そして、その次のシングルとして全英2位の大ヒットになったのがこの「プット・ユア・レコーズ・オン」でした。
あらためて聴いても、メッセージは等身大でナチュラルで、曲調はアッパー過ぎず、リズムには無理のない高揚感があって、今の時代に人の心をさりげなく励ます歌として、最も適しているんじゃないかと思えるほどです。
ポップ・ミュージックは、目新しいこと、過剰にすること、目立つこと、を長年にわたって競ってきたわけですが、”ナチュラルでちょうどいい”ことが、かえってシーンの中で際立って見える、そんなことを教えられた曲でもありました。
僕がこのブログで洋楽の歌詞を使うときに主に利用している”Genius"というサイトに彼女のこの曲についてのコメントがありました。
歌詞に”Tell me your favourite song”に合わせて、あなたのフェイヴァリット・ソングは?という質問に
「子供の頃は、マライア・キャリーの「ビジョン・オブ・ラヴ」という歌が大好きだったの。鏡に向かってヘアブラシを持って歌ったわ、”彼女は素晴らしい!”なんて言いながら。パパがCDプレイヤーを買ったばかりで、1990年代始めの頃ね、私はその1曲を1時間くらいずっと繰り返して聴いていたわ」
しかし、彼女は自分の声質は違うことに気づきます。そして、ビョークやビリー・ホリデイやエリカ・バドゥといったシンガーに出会います。
「当時正統派とみなされていたホイットニー・ヒューストンやマライア・キャリーみたいに歌う必要も、その反対側に位置するマドンナやカイリーみたいに歌う必要はないんだと気づくことが出来た。その中間というか、もっとデリケートで、親しみが持てて、傷つきやすいようなニュアンス。まるで会話をしているような、そういう歌い方が私に適しているんじゃないかと思ったの」
(「コリーヌ・ベイリー・レイ」日本盤ライナー・ノーツより)
「プット・ユア・レコーズ・オン」の自然な励ましに説得力があるのは、歌詞や曲調サウンドだけじゃなく、何より彼女自身が自分らしさに気づいたスタイルで歌っていることが大きいのかもしれませんね。
先にあげた”Genius"という歌詞サイトで、彼女は”favorite songs”についてこう説明しています。
「一人の若者として、私は音楽は自信を見出し、自己表現を見つける素晴らしい方法だと気づきました。誰もがいつも”これは自分の曲だ”と思える歌を見つけることができます。そんな人は私の感じることを正確に理解できると思います。ある種のポップ・ソングなんです。音楽をかけると、無敵ですごく自信に満ちて大胆な気分になって、音楽に身を委ねるんです。私にとっては、お気に入りの歌とはそういうものです。曲がかかり、その歌の中に生きているような感じになると、シャイで自意識過剰で落ち着きのなかった人間が、大胆で自信を持てるようになるのです」
最後は、2020年に男性ソロ・プロジェクト”リット・モムニー”がこの曲をカバーしたヴァージョンを。彼はインタビューで「もし誰かに今思い浮かぶ一番ポジティヴで助けになる歌は何かときかれたら、それはいつだってこの曲だと僕は感じている」と語っています。