まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ラヴ・スイート(Love Suite)」ニルヴァーナUK(1969)

 おはようございます。

 今日はニルヴァーナUKの「ラヴ・スイート」です。

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Why am I behind the door

Walking up and down the floor

 

He never comes ,every night is the same

Just passing time and asking who is to blame

I end up saying love is just a game

 

Love is just a game to play

A chance to win or go away

I always lose, broken up like a toy

I don’t deserve to have to sit and cry

Just hanging round waiting for a boy

 

Everyday I brush my teeth

Wear clean socks and wash my feet

I’m always smart when I’m out on the town

And not bad looking still they are letting me down

I’d like to find a girl who’ll stick around

 

I’m afraid that I’m too shy

To talk to girls as they go by

It’s always hard when I try tome friends

I say hello and then it’s always the end

I’m always sad so why should  I pretend

 

We fight, we scream out loud but we’re in love

We sing, we dance so high yes I love you

We’re sick, we’re sad but still we’re always glad

For love, for life it’s ours it can’t be bland

We’re old, we’re young the end will never come

We’re doubt, we’re dead but we are way ahead

 

If love is a game where you win or you lose

Can you explain the consequences right here

‘Cause we have found that love is always near

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どうして私は扉の影にいるの?

床の上を行ったり来たりしながら

 

 

彼はきっと来ない 毎晩同じこと

やだ時間が過ぎるだけ、誰のせいなのかたずねてみる

最後は、愛なんてただのゲームだと口にする

 

愛はなんてただのゲーム

勝つか負けて立ち去るかのどちらか

いつも私の負け、まるで人形のようにボロボロになる

ただ、男の子を待ちながらうろついて

じっと座って泣くしかないなんて私には似合わない

 

毎日、歯を磨いて

清潔な靴下を履き 脚をきれいにする

街に出かけるときは、僕はいつだってスマートさ

 

見た目は悪くないのに まわりにはがっかりさせられる

僕につき合ってくれる女の子を見つけたいんだ

 

通り過ぎてゆく女の子たちに話しかけるには

僕はシャイ過ぎるのかもしれない

友達を作ることはいつだって難しい

僕がハローと言ったら、それでもう終わり

僕はいつだって悲しいんだ

だから どうして平気なふりをしなきゃいけないんだろう

 

 

二人はケンカする、大声で叫ぶ、だけど愛し合っている

二人は歌う、思いきり踊る、そう、あなたを愛している

二人が病気で 悲しくたって、それでもいつもうれしい

愛にしても、人生にしても、それは二人のもの 味気ないはずはない

二人が年老いても、二人が若くても 終わりは決してこない

信じられなくなっても、死んでしまっても、

二人ははるか先に行っている

 

 

 

もし愛が勝つか負けるかどちらかのゲームだとしたら

今ここにある結末を説明できる?

だって、私たちは愛がいつもそばにあることを見つけたの

                      (拙訳)

 

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 ニルヴァーナUKと表記していますが、本来は”Nirvana"。カート・コヴァーンのバンドが有名になりすぎて、日本では間違わないように便宜的につけたんでしょうね。もちろん、こちらのほうが先に”ニルヴァーナ”と名乗ったバンドなのですが、、。

(ちなみに、アメリカのニルヴァーナが出て来たときに、バンド名の使用権を巡って両者は争い裁判になり、結局どちらも使ってもいい、ということになったのだそうです)

 

 グループの中心人物はアイルランド出身のパトリック・キャンベル=ライオンズとギリシャ出身のアレックス・スパイロポロウスの二人。他のメンバーは流動的で、セッション・プレイヤーを使うことが多かったようです。

 

 パトリックはエルトン・ジョンポール・マッカートニーロキシー・ミュージックなどを手がけた大プロデューサー、クリス・トーマスがまだ無名だったころに一緒にバンドを組み、バンド解散後はコンビで曲を書き、シングルの二枚リリースしています。

 

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 この曲は、パトリックのアイドルだったエヴァリー・ブラザーズが1967年にカバーしています。

 

 パトリックとクリスをバックアップしていた会社に、同じように曲を売り込んで買ってもらったのが、近くのアートスクールに通っていたアレックスで、彼らはカフェで知り合い、意気投合しました。

 一緒に曲を書いていた二人はやがてバンドも組むことにします。二人とも、当時流行していた東洋哲学や仏教、ヒンドゥー教に興味を持ち、ラヴィ・シャンカールなども聴いていたことからパトリックが「カルマ」という名前を提案し、後日アレックスが「ニルヴァーナ(涅槃)」のほうがいいんじゃないかと言ってきたそうです。

 

 そして彼らはアイランド・レコードのオーディションを通過し、レーベルの主宰者クリス・ブラックウェルのプロデュースでシングル「Tiny Goddess」デビューします。

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 同じ年にデビュー・アルバム『ザ・ストーリー・オブ・サイモン・シモパス』をリリース。これはザ・プリティ・シングスの『S.F.Sorrow』、ザ・フーの『Tommy』、ザ・キンクスの『Arthur』などのストーリー性のあるコンセプト・アルバムよりも早くリリースされた、最初の物語性のあるコンセプト・アルバムのひとつであると言われています。

 そして1968年リリースの彼らの3枚目のシングル「Rainbow Chaser」が全英34位のヒットになります。これは、当時アイランドレコードによく出入りしていたミッキー・モスト(アニマルズやハーマンズ・ハーミッツなどを手がけるヒットメイカー)が、強く推してシングルに決まったと言われています。

 

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  そして、翌1969年この「ラヴ・スイート」の収録されたサード・アルバム「トゥ・マルコス・スリー(TO MARKOS III)」が制作されますが、この作品には不遇な境遇にあったものでした。

 彼らが制作中のアルバムを聴いたクリス・ブラックウェルから”フランシス・レイ『男と女』みたいだ”と酷評され(フランシス・レイに失礼ですね!)、リリースしないと宣言されてしまったのです。

 

 アルバムをなんとか完成させリリースしたいと思った彼らが経済的に頼ったのが、ギリシャに住むアレックスの叔父”マルコス三世”でした。彼の援助で、彼らは新たにキャット・スティーヴンスの育ての親であるマイク・ハーストをプロデューサーに迎え、アルバムを完成させました。

 

 アルバム・タイトルの「トゥ・マルコス・スリー(TO MARKOS III)」というのは、助けてくれた”マルコスおじさんに捧げる”という意味なんですね。

 

 そして彼らはロサンゼルスのレーベルと契約し、そこを通してイギリスでも発売しようとしたそうですが、そのレーベルが発売後に倒産してしまうという悲劇に見舞われます。アルバムは250枚しかプレスしなかったという話もあります。

 苦労して完成させ、リリースまでこぎつけたのに、まさに、”ただ出しただけ”で終わってしまったんですね。

 

 打ちのめされたアレックスはギリシャに帰ってしまい、パトリックはひとりで”ニルヴァーナ”を守っていくことになりました。

 その後ニルヴァーナは3枚のアルバムをリリースしています。

 

 さて、この「ラヴ・スイート」の女性ヴォーカルはレズリー・ダンカン。イギリスの女性シンガー・ソング・ライターのパイオニア、UKのキャロル・キングとも呼ばれる人で僕も大ファンです。

 彼女がシンガーソングライターとして名を上げるのは1971年からで、この頃はバックコーラスや作曲家の仕事をしていました。声がまだかわいらしい感じがします。

 

 また不遇に終わってしまった「トゥ・マルコス・スリー(TO MARKOS III)」というアルバムもすごくいいんですよね。1969年という激動のロックの時代には、複雑で洗練されたポップスは認められなかったんでしょうね。

 海外のサイトには、ペットサウンズのブライアン・ウィルソンだって凌駕するとまで熱く絶賛している記事もあるほどで、僕はさすがにそこまでは言いませんが、埋もれさせるのは本当にもったいないなあ、と思います。

 

 このとてもレアな「ラヴ・スイート」という曲を見つけ出し、サンプリングしたのがD.Jシャドウです。1996年の彼のデビュー作にして代表作『エンドトロデューシング』に収録されていました。

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レズリー・ダンカンの名作

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