まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「憧れのラジオ・ガール」南佳孝(1980)

 おはようございます。

 今日は南佳孝の「憧れのラジオ・ガール」です。

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 彼には「サウス・オブ・ザ・ボーダー」や「セヴンス・アヴェニュー・サウス」といった、素晴らしいクオリティを誇る名盤がありますが、僕が彼を知ったのは、テレビにもよく出ていたヒット・シンガーとしてでした(今考えると彼の中ではその時代が異色だったわけですが)。

 

 「モンロー・ウォーク」〜「憧れのラジオ・ガール」〜「スローなブギにしてくれ」そして少し間が空いて「スタンダード・ナンバー」、という流れですね。

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 彼のインタビューを読むと、大学時代はジャズ・ギタリストを目指していて、音楽の世界に入ったときには作曲家としてやっていくつもりだったようです。

 彼の曲を聴くときに、最も強く印象に残るのは独特の節回しのあるボーカルだと思いますが、彼自身がもっともこだわっているのは”メロディ”だと語っています。

 ネオ・シティ・ポップのバンド”1983”との対談でも彼は彼らへの助言を求められ”メロディ”と断言しています。

 上記のヒット・シンガー時代の曲を聴いても、彼が売れる強いメロディを書こうとしていたことがよくわかります。

 この時代彼は2時間寝て起きて曲を書いて、また2時間寝る、という「分割睡眠法」をしながら死ぬほど曲を書いていたそうです。

 

 余談ですが、総じて今のポピュラー・ミュージックはメロディが弱いですよね。ヒップホップが業界全体を飲み込んでしまったアメリカは納得できるとして、メロディ大好きなはずの日本もそうですよね。昔のシティポップ大好きという若いアーティスト達ですら、サウンドは素敵ですが、メロディの輪郭が薄い。

 くっきりしたメロディはダサいと思っているのかもしれません。あとはパソコンで音楽を作るというのも大きいのでしょう。サウンドの組み立てが曲作りの中心になって、その後歌詞を考えるので、メロディだけと格闘するプロセスが脆弱になったんじゃないかと。

 強いメロディを考えると言うのは、体力も必要なんだと思います。南佳孝が分割睡眠法をやったように、自分に相当な負荷をかけてとにかく作りまくる。そして、あるときにスラスラっと短時間で書けた曲がスタンダード・ヒットになる、このブログで紹介した多くの名曲がそうやってできているんですよね。

 メロディだけと必死に格闘するクリエイターが減っていけば、この先もどんどんメロディは弱くなっていくんだろうなと僕は予想します。

 

 さて、話を戻します。

 今では名盤と呼ばれている「摩天楼のヒロイン」も「サウス・オブ・ザ・ボーダー」も当時は商業的にはまったく成功せず、彼に注目が集まったのは「モンロー・ウォーク」からです。有線でじわじわと人気が上がり始めたところに、郷ひろみが「セクシー・ユー」というタイトルでカバーして一気にブレイクしました。

 彼は他のアーティストに先がけて、これからは夏や海をテーマにした歌が流行るんじゃないかと1976年のアルバム「忘れられた夏」から、そういうアプローチを続けてきたわけで、それが実を結んだのが「モンロー・ウォーク」だったといえます。

 

 そして、そのようやく吹いてきた追い風の中でリリースされたのが「憧れのラジオ・ガール」でした。通常なら「モンロー・ウォーク」の延長線上で”夏、海”の路線にいきそうなものですが、ここで彼は、当時流行し始めていたニュー・ウェイヴやテクノ・ポップにアプローチするんですね。しかも、アレンジは坂本龍一、ドラムス高橋幸宏、マニピュレーターが松武秀樹というYMO一派。1980年といえば、YMOが猛烈に売れていた時代です。

 

 「この頃は”都会”とか”海”から少し離れて、バグルスの「ラジオスターの悲劇」みたいなのをやりたいと思って。髪型も、サーファーからテクノ・カットになって、友だちから「裏切り者!」とか言われてね(笑)」

(「クロニクル・シリーズ ジャパニーズ・シティ・ポップ」)

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 「ラジオ・スターの悲劇」はビデオの流行がラジオDJの人気を殺してしまうというネガティヴな内容ですが「憧れのラジオ・ガール」はラジオの女性DJを賛美する歌でしたから、当時FMでもよくかかっていました。

 「モンロー・ウォーク」からサウンドとしては大きくシフトしたはずですが、当時僕が聴いてもすごく変わったというイメージはありませんでした。

 それはやはり、彼のボーカルの”強さ”によるものじゃないかと思います。そして、もちろん「サウス・オブ・ザ・ボーダー」で全曲アレンジをして以来、南の特性をよく知る坂本龍一が、テクノだけれどシティ・ポップ感もしっかりある、という絶妙なアレンジをしているのも間違いないと思います。

 

 

 

 

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