まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ラジオ・スターの悲劇(Video Killed the Radio Star)」バグルス(1979)

 おはようございます。

今日はバグルスの「ラジオ・スターの悲劇(Video Killed the Radio Star)」です。


The Buggles - Video Killed The Radio Star (Official Video)

 

I heard you on the wireless back in '52
Lying awake, intently tuning in on you
If I was young, it didn't stop you coming through

They took the credit for your second symphony
Rewritten by machine on new technology
And now I understand the problems you could see

 

(Oh-a oh-a)I met your children
(Oh-a oh-a)What did you tell them?


Video killed the radio star
Video killed the radio star
Pictures came and broke your heart


And now we meet in an abandoned studio 
We hear the playback and it seems so long ago 
And you remember the jingles used to go


(Oh-a oh-a)You were the first one
(Oh-a oh-a)You were the last one

Video killed the radio star
Video killed the radio star
In my mind and in my car
We can't rewind, we've gone too far
(Oh-a-a-a-oh. Oh-a-a-a-oh)

Video killed the radio star
Video killed the radio star
In my mind and in my car
We can't rewind, we've gone too far
Pictures came and broke your heart
Put the blame on VCR

You are a radio star
You are a radio star
(You are) Video killed the radio star (A, a radio star)
(A radio star) Video killed the radio star、、、

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僕が電波であなたの声を聴いたのは1952年のこと
横になったまま眠らずに、夢中であなたにチューニングを合わせた
もし僕が若かったら、あなたを聴き続けただろうに

 

彼らはあなたの2番目の交響曲の手柄を奪ったんだ
新しいテクノロジーの機械で書き替えて
今、僕はあなたが直面している問題がわかるよ

 

僕はあなたの子供たちに会った
あなたは彼らに何て話したの?


ビデオがラジオスターを殺した
ビデオがラジオスターを殺した
画像が現れて、あなたの心を壊した


そして今、僕らは廃墟となったスタジオで出会う 
プレイバックを聴いていると、遠い昔のことのように思える 
ジングルが流れていたのを覚えているかい?


あなたが最初だった
あなたが最後の一人だ

 

ビデオがラジオ・スターを殺した
ビデオがラジオスターを殺した
心の中も 車の中も
もう巻き戻せない、僕らは遠くへ行きすぎた

 

ビデオはラジオスターを殺した
ビデオはラジオスターを殺した
心の中で、車の中で
巻き戻せない、遠くへ行きすぎた
画像が現れて、あなたの心を壊した
VCR(ビデオ・カセット・レコーダー)のせいなのさ    (拙訳)

 

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 今では、この「ラジオ・スターの悲劇」は80年代ポップスの先駆けになった重要な曲として不動の地位を得ています。

 

 伊藤銀次も当時これが来るべき80年代の音楽を予感させる曲だと感じたようです。

 

「デジタルなノリ、それこそが80年代で、ゆるいノリだった70年代とこれからを分ける分水嶺だと思っていました」

              (「伊藤銀次自伝 MY LIFE , POP LIFE」)

 

 優れた演奏能力、アレンジ力を持つミュージシャンたちによる<ヒューマンなノリ>が全盛だった1970年代のポップ・ミュージックに対し、まさに1980年代はデジタルでポップな曲が隆盛を極めましたから、まさにこの「ラジオ・スターの悲劇」のスタイルが先駆けになったと言って間違いじゃないでしょう。

 

 しかも、ビデオの登場がラジオ・スターを殺す、というテーマは、1980年代のMTVの大流行を予言していたようで驚いてしまいます。実際に1981年にMTVがスタートした際にその記念すべき1曲目としてこの曲が選ばれたのです。

 

 バグルストレヴァー・ホーンジェフ・ダウンズの二人組。イギリスのグループです。ダウンズは自分たちが、ペットショップ・ボーイズなどに先駆けた最初の”テクノ・デュオ”だったと自負しています。

 

 トレヴァー・ホーンがティナ・チャールズというシンガーと付き合っていたことがきっかけになり、バグルスはスタートします。

 

ティナ・チャールズはイギリスのディスコ・クィーンと呼ばれたシンガーで「愛の輝き(I Love to Love (But My Baby Loves to Dance))」という曲が1976年に全英1位になっています。

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 また、古い洋楽ファン(?)の中には夏目雅子が歌った「Oh!クッキーフェイス」のオリジナル・シンガーとして覚えている方もいるでしょう。

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 ちなみに、ティナ・チャールズを手がけたのがインド人ながらロンドンで活動していたプロデューサー、Biddu(ビドゥ)で、カーク・ダグラスの「カンフー・ファイティング」を大ヒットさせた人です。

 トレヴァー・ホーンは「愛の輝き」のバック・トラックを研究し、それをバグルスの曲作りに役立てたそうです。

 トレヴァーはこう回想しています。

「僕は彼女のためにツアー・バンドを組んだんだ。ジェフ・ダウンズは僕がオーディションを受けた14人目のキーボード奏者だった。友達がギタリストにブルース・ウーリーを推薦してくれて、僕らは意気投合した。僕が歌詞を書いたら、ブルースがそれに曲をつけてくれた。その2曲後に『Video Killed the Radio Star』が出来上がった。ブルースがソロ契約をして脱退すると、ジェフと私はバグルスになった」

   (the Guardian Tue 30 Oct 2018)

 

 「ラジオ・スターの悲劇」については、ブルース・ウーリーとトレヴァーが基本的に曲を書き、アレンジをジェフが考えたようです。

 

 そして、ブルースはソロになると彼らに先駆けて、この曲をリリースします。 ブルース・ウーリー&ザ・カメラ・クラブというグループでメンバーには、80年代に活躍するトーマス・ドルビーがいました。

 

 こちらがブルース・ウーリー&ザ・カメラ・クラブのヴァージョン。


Bruce Woolley - Video Killed The Radio Star

 キャッチーでストレートな、悪くないい仕上がりですよね。でもバグルスほどのインパクトはないとは思います。

 

 この曲の作曲の中心だったと思われるブルースはこんなことを語っています。

「この曲を見てみると、実はアンドリュー・ゴールドの「ロンリー・ボーイ」とコードがかなり関連があるんだ。うん、マジで。アンドリュー・ゴールドには内緒だ、彼はもう亡くなってしまったけど。盗作じゃなくて、作曲そのものがアンドリュー・ゴールド、10cc、スーパートランプ、ABBA、そういうポップなものにルーツがあったんだ」

                     (INSIDEHOOK June 7, 2018 )

アンドリュー・ゴールド「ロンリー・ボーイ」

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 ブルースは王道のポップソングを意識して書いたから、自分で歌うときにもストレートなアレンジにしたわけですね。きっと。

 

 しかし、バグルスの二人の狙いは、ブルースとは違っていました。

この頃、彼らに大きな影響を与えたのがクラフト・ワークの『人間解体(The Man-Machine)』でした。

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 ブルースはその時代にすでに巷にあふれていたニューウェイヴっぽいバンド・サウンドで、バグルスはその先を見据えたテクノ・サウンド、この差が大きかったんですね。

 ポップスにおいて、曲のアレンジ、プロデュースがいかに大事かを思い知らされるエピソードです。

 

 もう一つ、この曲の大きな魅力は歌詞、テーマ設定です。

 これについてはトレヴァーもブルースも大きな影響を与えたものとしてあげているのが、イギリスの作家、J・G・バラードの短編「音響清掃(Sound Sweep)」です。

 

 「彼の小説『音響清掃』は、アコースティックな音楽が求められなくなったために仕事を失ったオペラ歌手の話だ。私たちがこの曲を書いた当時は、フリート・ストリート(何世紀にもわたってロンドンの新聞社が伝統的にあった場所)が閉鎖され、大きな印刷機が危機に瀕していたため、「新しいテクノロジー」という言葉がニュースになっていたのさ」

   ブルース・ウーリー(INSIDEHOOK June 7, 2018 )

 

「僕がほとんどの歌詞を書いたよ、例えば、"They took the credit for your second symphony, rewritten by machine on new technology"とか。JGバラードを読んで、レコード会社が地下にコンピューターを持って、アーティストを製造しているような未来像を思い描いていたんだ」

   トレヴァー・ホーン(the Guardian Tue 30 Oct 2018)

 

  全体的に解釈の難しい歌詞ですが、その中でも

"They took the credit for your second symphony"の「symphony」(交響曲

ってどういう意味だろうと思ったのですが

「音響清掃」にこういう一節が出てきます。

 

「今から十年前、彼女が最後に出演するはずだったショウがキャンセルされて、レイ・アルトの『完全交響曲』に席を譲ったといういきさつがあるんだから」

 (「音響清掃」吉田誠一訳 J・G・バラード短編全集 1 時の声) 

 

 この小説で描かれている未来は、世界からノイズや肉声が排除され、音楽は超音波に変換されたものだけが聴かれるようになり、仕事がなくなった女性オペラ歌手と、彼女の大ファンである音響清掃人(掃除機でノイズを町中の雑音を消去する仕事)の話で、

『完全交響曲』(total symphony)とは超音波音楽の作品を指しています。

 

 超音波音楽に取って代わられたオペラ歌手のストーリーを、トレヴァーはビデオに仕事を奪われたラジオ・スターに変換した、というわけですね。

 (ちなみに「音響清掃」はとても面白い短編でした、、)

 

 

 ティナ・チャールズの「愛の輝き」、アンドルー・ゴールドの「ロンリー・ボーイ」、クラフトワークの「人間解体」、J・G・バラードの「音響清掃」、と実に多様な要素がミックスされて、このエポックメイキングな大ヒット曲が生まれたということなんですね。

 

 

 最後はこの曲のカバーの中でも、ブルース・ウーリーが曲の再評価に重要な役割を果たしたと語っている、1998年のザ・プレジデンツ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカのヴァージョンを。バンド・アレンジでこけてしまったブルースとしたら、彼らのカバーは嬉しかったんでしょうね。アウワ〜アウワ〜とか、バグルスのキャッチーな仕掛けは生かしてますけどね。

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ラジオ・スターの悲劇+9

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