まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「アイ・ジャスト・ワナ・ストップ(I Just Wanna Stop)」ジノ・ヴァネリ(1978)

 おはようございます。

今日はいわゆる"AOR"と呼ばれるものの中で僕が最も好きな曲「アイ・ジャスト・ワナ・ストップ」です。

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When I think about those nights in Montreal
I get the sweetest thoughts of you and me
Memories of love above the city lights
Oooh, I've tried so hard to take it
But alone my heart won't make it

I just wanna stop and tell you what I feel about you, babe
I just wanna stop
I never wanna live without you, babe
I just wanna stop for your love. Oooh

For your love
For your love

When I think about the way the world must turn
I get the saddest thoughts of you and me.
Memories of life and times go on and on
Oooh, I've tried hard to forget it
But alone my mind won't let it

I just wanna stop and tell you what I feel about you, babe
I just wanna stop
The world ain't right without you, babe
I just wanna stop for your love

 

Oooh, I've tried so hard to take it
But alone my heart won't make it

I just wanna stop and tell you what I feel about you, babe
I just wanna stop
The world ain't right without you, babe
I just wanna stop for your love

Stop. 
I just wanna stop.
I just wanna stop and tell you what I feel about you, babe
I just wanna stop
The world ain't right without you, babe
I just wanna stop

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モントリオールで過ごした夜のことを考えると
君と僕の最高に甘い想いが蘇る
街の灯の上に浮かぶ愛の記憶
ああ、一生懸命それをつかもうとした
だけど、一人じゃ、僕の心はうまくできない

僕はただ時を止めて 君への気持ちを伝えたいだけなんだ
ただ止めたいんだ
君なしでは生きられないんだ、
君への愛のために時を止めたい

君への愛のために
あなたの愛のために

世界は動き続けなくてはいけないことと思うと
君と僕について悲しすぎる考えが浮かんでしまう
人生と時代の記憶はずっと続いてゆく
ああ、なんとか忘れようした
だけど、一人ぼっちの、僕の心がそうさせないんだ

僕はただ世界を止めて君への気持ちを伝えたいんだ、ベイブ
ただ止めたいんだ
君のいない世界はしっくりしないんだ、ベイブ
君へ愛のために時を止めたい

 

ああ、なんとかそれをつかもうとした
だけど、一人ぼっちの、僕の心じゃうまくできない

僕はただ時を止めて君への気持ちを伝えたいんだ、ベイブ
ただ止めたいんだ
君のいない世界はしっくりしないんだ、ベイブ
君へ愛のために時を止めたいんだ

止めて 
ただ止めたいんだ
ただ時を止めて 君に気持ちを伝えたいんだ ベイブ
ただ止めたいんだ
君のいない世界はしっくりしないんだ、ベイブ
僕はただ止めたいんだ

     (拙訳)

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 この"STOP”は自動詞なのか他動詞なのか、他動詞なら何を止めたいのか、いろいろ考えましたが、歌詞の状況を考えると、愛する人と離れたままどんどん動いてゆく状況を止めたいんだろうと、思いました。状況を止めるだと、歌詞っぽくないので、安直ではありますが、時を止めたい、にしてみました。

 

 ジノ・ヴァネリはイタリア系カナダ人。父親がモントリオールのビッグ・バンド・ジャズ・バンドのボーカルだったということで、ジノは兄ジョー、弟ロスとともに音楽的な環境の中で育ちました。彼は最初にドラムを始め、その後ピアノやギターも学んだようです。

 

   元々はジャズをメインにクラシックもやっていましたが、フォーシーズンズ、ビーチ・ボーイズなどのポップ・ミュージックに惹かれはじめ、その後ビートルズストーンズ、そしてジェイムズ・ブラウンオーティス・レディングに夢中になり、それが彼のベースになっているようです。

 

 キーボーディストで機材オタクでもあるジョーとジノはR&Bバンドを組んだりしていたようですが、1970年、彼が18歳の時に”Vann-Elli”という芸名でメジャーから一枚シングルをリリースしていますが、カナダのチャートで92位という結果で終わってしまいます。

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 その後、1972年にジョーとジノは二人でカナダからLAに移り住みますが現実は厳しく生活も苦しくなったようです。

 二人はサンセット大通りにある小さなホテルに滞在していましたがお金が尽きてしまい、翌日には出ていかなければいけませんでした。追い込まれたジノは起死回生の策として、A&Mレコードの代表、ハーブ・アルパートにデモテープを渡すために会社の入り口の前で待ち伏せをします。

 

 そして2、3時間待つとハーブが現れたので、彼が近づいていくと警備員が出てきて追いかけられたそうですが、なんとかデモテープを渡すことに成功しました。そして、ハーブから30分後にまた来るように言われ、戻ると彼の前で曲を披露し、見事A&Mからのデビューが決まります。

 

     そして、セカンドアルバムからのシングル「People Gotta Move」が全米22位のスマッシュヒットになります。


Gino Vannelli - People Gotta Move (1974)

 R&Bフィーリングが強くあったことから白人ながら「ソウル・トレイン」にも出演し、スティーヴィー・ワンダーのツアーの前座もやったそうです。

 しかし、その後ヒットが続きませんでした。

 

   当時はジノが曲をすべて書き、ジョーがピアノやシンセ、アレンジを担当し、二人で共同プロデュースをするというスタイルで作品を作っていました。

 何とかヒットを出したいと思っていた時期に、それまでバック・コーラスやギター・プレイヤーとしてジノを手伝っていた弟のロスが作って彼とジョーに聴かせたのがこの「I Just Wanna Stop」でした。彼らは聴くやいなやヒットを予感し、レコーディングを終えると、そこでまたヒットを確信したそうです。

 

 そして、彼らの予想通りこの曲は全米4位、カナダでは1位を獲得する大ヒットになりました。

 それ以降、ジノの作品は三兄弟で一緒にプロデュースするかたちになります。

 ロスはその後もジノのアルバムで少し曲は書きますが、曲をたくさん書けるタイプじゃなかったようで、その後はジノのステージの音楽監督など裏方に徹しているようです。しかしジノは今でもロスのことを自分よりいい曲を書く、と評しています。

 

 「アイ・ジャスト・ワナ・ストップ」に惹かれてアルバムや、その他の曲を聴いた人は良くわかると思いますが、ジノ・ヴァネリ本人はいわゆる”AOR"のアーティストではありません。けっこう実験的でサウンドにも凝った、もっと“難解な曲”も多いんです。

 

 ジノ・ヴァネリのもう一つの代表曲「Living Inside Myself」はジノの自作ですが、「アイ・ジャスト・ワナ・ストップ」みたいな曲を自分でも書いてみようと思って作った、と本人は語っています。弟のジョーに触発されたわけですね。

 

 「Living Inside Myself」(1981年 全米6位)


Gino Vannelli - Living Inside Myself (Official Video)

 ちなみに、昨日このブログに登場したエヂ・モッタもこの曲をカバーしています。


Living Inside Myself

 ジノ・ヴァネリの代名詞である「アイ・ジャスト・ワナ・ストップ」と「Living Inside Myself」の2曲は、実は弟”ロス”のテイストだった、というところがミソですね。そしてサウンドは兄ジョーが作っていたわけです。

 そして、兄弟でプロデュースしていたことも考えると、多くの人がイメージするジノ・ヴァネリとは”ヴァネリ三兄弟”のことだったとも言えるのではないでしょうか。

 

「アイ・ジャスト・ワナ・ストップ」の収録されたアルバムのタイトルが「ブラザー・トゥ・ブラザー」というタイトルにしたというのも、それを象徴していると僕には思えます。

 

  最後は、彼の曲の中で、僕が「アイ・ジャスト・ワナ・ストップ」の次に好きな「Crazy Life」(1973)を。

 

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「アイ・ジャスト・ワナ・ストップ」収録のアルバム

ブラザー・トゥ・ブラザー

「Living Inside Myself」収録のアルバム

 

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