まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「君は天然色」大瀧詠一(1981)

 おはようございます。

 今日は大瀧詠一の「君は天然色」です。


[Official] 大滝詠一「君は天然色」Music Video (40th Anniversary Version)

 

 素晴らしい”ポップス”というのは、実は高度で難解なことを手間をかけてやっているのに、聴く側には全くそれを感じさせないほど、わかりやすく親しみやすい”かたち”におとしこまれているもの、だと僕は思っています。

 そういう意味では、日本のポップスの究極の作品はこの「君は天然色」じゃないでしょうか。21世紀に入っても、必ず何かのCMで耳にする”スタンダード”になっている曲でもあります。

 

 僕が初めてこの曲を聴いたのは高一の時でしたが、印象は「楽しい曲」、でも他の日本のポップスと「何かすごく違っている」という感じでした。

 やがて、この曲の制作の秘密が明らかになることで、僕がなぜ「他の日本のポップスと違っている」と感じた理由もわかりました。

 ひとつは、演奏。楽器の編成。アコギ5人、パーカッション5人、鍵盤5人など総勢20名くらいのミュージシャンが全員スタジオに入って、”せ〜の”で演奏しています。これは日本では前代未聞、いまだに同じようなことをやっている人は誰もいません。

 これは、このブログでも紹介したことのある「ダ・ドゥ・ロン・ロン」のプロデューサー、フィル・スペクターが行った方法を元に、大瀧流に大幅にアップデートしたものです。

 

「Da Doo Ron Ron 」The Crystals

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  フィル・スペクターの場合は、モノラルで、全部の楽器の音が混ざり合い、それとスタジオの反響音が一体となって、摩訶不思議な「音の壁」となったわけですが、大瀧の場合はレコーディング機材が格段に進歩した1981年らしく、ステレオでクリアな音になっています。編成は似ていてもサウンドとしてはかなり違うわけです。

 

 これを、フィル・スペクターへのオマージュとか言って、忠実な「再現」で終わっていたら、マニアは大喜びすると思いますが、今のような広く愛される曲にはなっていなかったでしょう。当初、印象的なジャケットのイラストのイメージと相まって、アルバムは”夏のリゾート・ミュージック”として売れたので、サウンドは洗練されたクリアであることは必須だったわけです。

 

 当時の他の日本のポップスとの大きな違いのもうひとつは、「元ネタ」。洋楽の参照、引用です。もともと日本のポップスは洋楽を「元ネタ」に作られてきたものですが、基本的に時代的に近い曲を元ネタにします。いま向こうで売れている曲を、日本的に取り入れてヒットさせよう、ということですから当然です。古いものだったら、ビートルズモータウンといった定番を引用するものはもちろんありました。

 

 でも彼の場合はややマニアックなものをチョイスします。それもたくさんの曲を、ここのパートはこれ、この部分はこれ、という風に確信犯的に、緻密に曲の中に「仕掛け」のように組み込んでいくんです。この曲も、いろんな識者、好事家が元ネタを探り当てていますが、まだまだ知られていない「仕掛け」「元ネタ」はありそうです。ご本人は残念ながら亡くなられているので永遠の謎のままですが、、。

 

 超マニアックなこだわりで作られながら、わかりやすく、クリアでメジャー感のあるサウンドにするという着地点がぶれなかったことが、大ヒットにつながった要因だと僕は思います。

 

 ちなみに、以前紹介したウィザードの曲も、元ネタの一つではないかと言われています。

 

「See My Baby Jive」Wizard

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 彼は日本でポップスに関しては、誰よりも知識と愛情持っていた人として知られています。この曲の制作前、彼は自身のレーベルを作り、音楽仲間を集め、音楽以外でも喜劇、野球など様々なジャンルで博識である彼の趣味嗜好性を追求した作品を作っていました。(「趣味趣味音楽」なんて曲も作ってました)

 ただ、そういうやり方ではビジネスとして立ち行かなくなってしまったようで、レーベルを閉鎖することにします。そして、彼は「売れる作品を作る」とまさに背水の陣で、この曲の入ったアルバム「ア・ロング・バケーション」の制作にのぞんだそうです。

 

 そして、彼は、かつて一緒に「はっぴいえんど」というグループを組んでいた盟友で、当時超売れっ子でもあった作詞家松本隆に作詞を依頼しました。しかし、一度は快諾した松本も、とても大事にしていた妹さんが心臓の病で倒れて看病するため、歌詞が書けなくなり、大瀧に断りの連絡を入れます。しかし、大瀧は、アルバムの発売を半年延ばすから、また書けるようになるまで気長に待つさ、と答えたそうです。

 

 アーティスト生命をかけた作品ですから、きっと焦らないはずはありません。しかし、松本の歌詞は絶対に必要、ということで腹をくくったわけです。

 

 その後間もなく残念ながら妹さんは亡くなってしまったようですが、松本は3ヶ月後に盟友の思いに応えるべく歌詞を書き始めます。

 

”想い出はモノクローム 色を点けてくれ 

もう一度そばに来て はなやいで美(うるわ)しのColor Girl"

 

 「君は天然色」の歌詞は、妹が亡くなってから目にするものすべてが色を失っていたような状態だった松本の彼女への思いがこめられている、と言われています。

 

 大瀧詠一松本隆、という日本の音楽史に残る偉大な才能が、本当にその時期、そのタイミングにしかなかったような<特別な気持ち>を込めて作ったのがこの曲というわけです。

 楽しくて親しみやすいのに、深みも同時に感じさせてくれるように思います。

 もし誰かに、ポップスってなんですか?と訊かれたときに、真っ先に聴かせたい曲です。

 

 

 

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