おはようございます。
今日は須藤薫の「つのる想い」です。
須藤薫は2013年に残念ながら病気で亡くなられてしまいましたが、1980年代を中心に1960年代のアメリカン・ポップスをベースにした上質な楽曲をたくさん歌っていて、個人的に大好きなシンガーでした。その時のメイン作曲家は杉真理、アレンジ、プロデュースは松任谷正隆でした。
杉真理の曲に最もフィットしていた女性シンガーは間違いなく彼女だったと思います。
松任谷正隆とのつながりで松任谷由実とも交流があり、彼女の最もポップ色の強いアルバム「SURF&SNOW」に収録されていたクリスマスの定番曲「恋人がサンタクロース」にもコーラスで参加していました。
また彼女の「あなただけI LOVE YOU」という曲は大瀧詠一が作詞、作曲、編曲(弦アレンジは松任谷正隆)を手掛けたもので、曲調、サウンドは「A LONG VACATION」につながるものだと大滝自身も語っていて、日本のポップス史の中でも貴重な作品でした。
実は僕が彼女の作品で一番好きなのは小西康陽がサウンド・プロデュースした「Tender Love」というアルバムでした。ピチカート・ファイブが「女王陛下のピチカート・ファイブ」をリリースした年のリリース。ということで、高浪慶太郎がストリングスとホーンのアレンジを手掛け、田島貴男がコーラスで参加しています。
ピチカート・ファイヴのアルバムの中で「カップルズ」「ベリッシマ」という2枚だけが、スタンダード・ポップスを目指した”例外的な”作品と言われていて、その後からリミックス、コラージュするような作風へと変わっていくわけですが、この「Tender Love」はその2枚ととても近い存在として僕は認識しています。
50'sから60'sのポップスへのオマージュがふんだんに散りばめた、言わば小西康陽が大瀧詠一的なスタンスに取り組んでみた一枚と言えると思います。
中でもシングルになった「つのる想い」。大瀧以外の日本の”フィル・スペクター風”作品のなかで、個人的にかなり好きな曲です。
あと、このアルバムには、スペクター作品の最高峰と呼ばれるアイク&ティナ・ターナーの「River Deep Mountain High」をモチーフにした「恋のマニュアル・ブック」という曲も入っています。
小西のこのアルバムでのサウンド・アプローチは、有名曲のイントロなどを巧みに引用してマニアをニヤッとさせるところがありますが、わざと元ネタを教えるようなスタイルを選んでいます。
ご本人としては若い時代の”習作”的にとらえているところもありそうですが、僕はかえってこのストレートさが、彼女にぴったりだったと思えます。
あと、彼女は明るいアメリカンポップスっぽさを得意としながら、声のトーンにはかすかに憂いと言うか、儚げなところがあって、そういう特徴も「つのる想い」にはしっかり反映されているというのも大事なポイントです。
ちなみに「つのる想い」は、フィル・スペクター自身がメンバーだったグループ”テディ・ベアーズ”の全米NO.1ヒット「To Know Him Is To Love Him」のカバー曲につけられた邦題ですので、確信犯的につけられたものですね。
ちなみにテディ・ベアーズのオリジナルには「会ったとたんに一目ぼれ」という邦題がついていました。
「つのる想い」「恋のマニュアル・ブック」を収録
「あなただけI LOVE YOU」「裸足のままで」を収録