まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「ワイルドフラワー(Wildflower)」スカイラーク(1973)

 おはようございます。

 今日はスカイラークの「ワイルドフラワー」です。

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She's faced the hardest times you could imagine
And many times her eyes fought back the tears
And when her youthful world was about to fall in
Each time her slender shoulders bore the weight of all her fears
And a sorrow no one hears still rings in midnight silence in her ears

 

Let her cry for she's a lady
Let her dream for she's a child
Let the rain fall down upon her
She's a free and gentle flower growing wild

 

And if by chance I should hold her
Let me hold her for a time
But if allowed just one possession
I would pick her from the garden to be mine

 

Be careful how you touch her, for she'll awaken
And sleep's the only freedom that she knows
And when you walk into her eyes, you won't believe
The way she's always paying for a debt she never owes
And a silent wind still blows that only she can hear
And so she goes

Let her cry for she's a lady
Let her dream for she's a child
Let the rain fall down upon her
She's a free and gentle flower growing wild

Let her cry for she's lady
Let her dream for she's a child
Let the rain fall down upon her
She's a free and gentle flower growing wild

She's a flower growing wild
She's free

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彼女は君が想像つかないほどの辛い思いをしてきた

そして、何度も彼女の瞳は涙をこらえてきたんだ
青春の世界が崩れ落ちそうになった時
彼女の細い肩ですべての恐怖の重さを耐えるたびに
誰も聞こえない悲しみが真夜中の静けさの中彼女の耳で鳴り響く

 

泣かせてあげよう、彼女はレディだから
夢を見させてあげよう 彼女は子供だから
彼女に雨を降らせてあげよう
彼女は野生で育った自由で優しい花

 

もし僕に彼女を抱きしめるチャンスがあれば
しばらくの間、抱きしめさせてください
だけど、もし1つだけ所有することが許されるなら
庭から彼女を摘んで僕のものにするだろう

 

彼女に触れるときは気をつけて 目を覚まさないように
眠ることが彼女が知るたったひとつの自由
彼女の瞳の中に入ると、君は信じられないだろう
彼女が借りてもいない負債をいつもどうやって払っているかを

彼女だけに聞こえる静かな風が今も吹いている
そして、だから彼女は行くのさ

 

泣かせてあげよう、彼女はレディだから
夢を見させてあげよう 彼女は子供だから
彼女に雨を降らせてあげよう
彼女は野生で育った自由で優しい花

 

泣かせてあげよう、彼女はレディだから
夢を見させてあげよう 彼女は子供だから
彼女に雨を降らせてあげよう
彼女は野生で育った自由で優しい花

彼女は野生で育った花
彼女は自由さ

               (拙訳)

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 スカイラークは1971年にカナダのバンクーバーで結成されたバンドで、デヴィッド・フォスターが在籍していたことで知られています。

 わずか二枚のアルバムを残して解散してしまいましたが、この「ワイルドフラワー」は全米9位の大ヒットになっています。

 

 「ヒットマン デヴィッド・フォスター自伝」によると、当時ロニー・ホーキンスのバックで演奏していたフォスターがクビになったあとに、恋人でシンガーのBJという女性から、これからどうしたいのか、完璧なバンドを組むとしたらメンバーは誰がいいのか、とたずねられ、地元にいるベストのメンバーの名前を挙げると、彼女が電話をかけまくって集められたのが、スカイラークだったそうです。

 ギターのダグ・エドワーズ、ドラムのダリス・マックスウェル、ボーカルのドニー・ジェラルド、ベースのスティーブ・パグスレイ、パーカッションのカール・グレイヴスそれにキーボードのフォスターという面々だったようです。

 

 そして十分なリハーサルの後に作られたデモ・テープの中にこの「ワイルドフラワー」も入っていました。

 そのデモを聴いたのがバリー・デ・ヴォーゾン。デモを作ったスタジオのオーナーの知り合いで、LAから遊びに来ていたのです。

 バリー・デ・ヴォーゾンはアソシエーションと契約したレーベルのオーナーであり、このブログでは日本の”ジャニーズ”が「ネバー・マイ・ラヴ」をレコーディングしたときに総指揮をとった人物として紹介しました。彼はまた、シンガーであり、ソングライター(イーグルス「イン・ザ・シティ」)であり、TVや映画音楽作曲家(「Theme from S.W.A.T」「ザナドゥ」)など大変多才な人物でした。

 

 「ワイルドフラワー」は大ヒットすると確信したバリーは、フォスターとBJをLAに招き、各レコード会社に懸命に売り込んだそうです。そこで決まりかけたレーベルもありましたが、フォスターがアドバンス(前払い)を要求したために白紙になったそうです。

 最終的にガールフレンドのBJが動いて契約が決まることになったそうですが、フォスターはLAこそが自分のいるべき場所だと気づいたそうで、バリーは自分の人生のキーパーソンだったと語っています。彼にとって最大の貢献者はBJですが、そこに至るために状況を大きく動かした人物がバリーだった、ということなのでしょう。

 

 さてこの曲を作曲したのはギターのダグ・エドワーズですが、作詞したデイヴ・リチャードソンはフォスターの友人で、なんと警察官でした。

 子供の頃から詩や歌を書くのが好きだった彼は、まだ十代だったフォスターがよく演奏していたカナダのヴィクトリアのナイトクラブの常連客だったそうです。

 この歌詞を書いたときのことを彼はこう回想しています。

 

「1970年に僕は看護師と付き合っていて、彼女は1971年に結婚することになったんだ(でも、それは4年しか続かなかった。二人ともそういう深い関わりをする準備ができていなかった)。ある夜、彼女と出かける約束をしていたので、彼女のアパートに迎えに行ったんだ。彼女がドアを開けると、泣きそうなほど動揺している様子だった。彼女は部屋着を着たままで、シャワーを浴びた後で髪をタオルで巻いていた。彼女の話によると、病院で世話をしていた2人のおばあさんが、その日のうちに仕事中に亡くなってしまって、長い間親しくしていただけに、とても悲しい気持ちになったそうだ。とにかく、彼女は自分の気持ちを吐き出し、僕はただそれを聞いていた。終わった後、彼女は聞いてくれたことに感謝し、デートの準備をすると言った。彼女は寝室に入ってドアを閉め、私は座ってテレビを見ながら彼女が出てくるのを待ったんだ。彼女が戻ってこなかったので、ドアをノックしたけど返事がなかったので、中に入ってみると、彼女は部屋着を着たまま、タオルを頭に巻いて、ベッドの上で眠っていた。感情的な一日の後で、彼女は疲れ切っていたのだろうと僕は思った。それで、彼女を起こさないように毛布をかけてやり、家に帰ってから15分くらいで歌詞を書いたんだ。完全に霊感のようなものに導かれたんだ。僕がやったことはペンを握っているだけで、神様が書いてくれたのだといつも感じている。"彼女に触れるときは気をつけて 目を覚まさないように(Be careful how you touch her, for she'll awaken) "のパートは、僕が彼女に毛布をかけたときのことさ。"彼女が借りてもいない負債をいつもどうやって払っているかを(The way she's always pay, for a debt she never owes...)" - 二人の女性が亡くなったのは彼女のせいではないのに、彼女は二人に申し訳ないと思って泣いていたんだ」

 (DAVID FOSTER.INFO)

 

 僕は受験英語のレベルなのではっきりわかりませんが、この歌詞を訳していて、いわゆるプロフェッショナルな作詞家の方が書くものとは違った、まっすぐな切実さがあるような感じがしました。

 

 この曲のおかげで人生が変わったという手紙をたくさん彼は受け取ったそうで、中には、十代のときに海に入って自殺をしかけたときに、ラジオから、この曲の冒頭の”彼女は君が想像つかないほどの辛い思いをしてきた”というフレーズが聞こえてきて思い直すことができた、というものもあったそうです。

 

 フォスターは彼の自伝で、リチャードソンのことを思慮深くて思いやりのある、黄金のハートの持ち主で、作詞家としても大成したにちがいない、と語っています。

 しかし、彼は音楽の道へは進まず、25年間刑事の仕事を務めた後、宣教師になって最後はイスラエルでホームレスの子供たちの世話をやっていたそうです。

 

 

 さて、話は変わりますが日本の曲で間違いなくこの「ワイルドフラワー」をモチーフにしたと思われるのがこの曲です。

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 調べてみるとこの曲はもともと、シングルはなくアルバム用として英語詞を想定されて書かれたもので、インタビューで林氏はジョー・コッカーの「ユー・アー…ソー・ビューティフル」をイメージしたと語っていて、「ワイルドフラワー」の影響があったかどうかはわからないのですが、僕は無意識にしろ影響はあったんじゃないかと思っています。

 で、ネットを見ると「悲しい色やね」は「ワイルドフラワー」のパクリだと言っているものもけっこうあったんですけど、それもまた違うと思うんですね。だいたい、パクリ、というのはそこで思考停止してしまう言葉ですし。

 「悲しい色やね」、すごくいい曲だと思います。「関西弁の歌詞にしてもいいか?」と発案してきたという康珍化さんがまたものすごいですけど。 

 何かの曲をインスピレーションにしたとしても、全く別の世界観の作品にすることができたら、それはもうオリジナルじゃないか、と僕は考えます。

 やはり林氏が書いたシティポップの大定番「真夜中のドア」もキャロル・ベイヤー・セイガーの「it's the falling in love」という明らかに元ネタと思われる曲がありますが、それが「真夜中のドア」の素晴らしさを損ねるものではないと僕は思っています。

 

 「ワイルドフラワー」→「悲しい色やね」、「it's the falling in love」→「真夜中のドア」と聴き比べると、洋楽の方の曲の構成は基本的に2つのパートの反復なのに対して、後者はもうひとつ盛り上がるメロディーのパート、いわゆるサビというものが付け加えられています。洋楽と邦楽のベーシックな違いを理解するには、ぴったりなサンプルになってるなと思えます。

 

 話が少し脱線してしまいましたが、この「ワイルドフラワー」について面白いと思うのが、デヴィッド・フォスターが曲を書いていないだけじゃなく、どうも演奏もしていないようなんです。ポピュラー史上に残る大ヒット作曲家、編曲家、プロデューサーが最初に関わった大ヒット曲は、本人が曲も書かず、演奏もしていない曲だったというのも、なんとも不思議な話ですよね。

 

 最後にたくさんあるこの曲のカバーの中から、1993年のColor Me Baddのヴァージョンを。こちらはデヴィッド・フォスターがプロデュース、アレンジだけじゃなく、演奏(キーボード)も手がけています。

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