まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「Shake It」テレンス・ボイラン(1977)

 おはようございます。

 今日はテレンス・ボイランの「Shake It」です。

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 ”ほら彼女は自転車で 坂を降りてくるよ

  滑り落ちるみたいに  昔から変わらない彼女らしさを見せて

 

  駐車場までずっと笑いながら 胸の奥では知っているんだ

  彼女の本当の気持ちをその男に伝えようとしているのを

 そして、彼をなんとかギリギリで止めようとしているのを

 

 やってしまえ、ベイビー、今夜やれるだけのことを

 やり続けて 壊すんだ ベイビー 今夜やれる限り

 だって、永遠に続くもんじゃないんだから

    やってみるんだ 悪くなろうと良くなろうと

    そしてそいつに 後で何か夢を見せてあげればいい

 

 彼女が滑り込んでくる 廊下を揺らすように

 彼女のロッカーには写真が一枚 サイン入りのバスケットボール

 

 彼女はメキシコでできた財布と

 愛するためにできた心を持っている

 スローな曲の新しい踊り方もおぼえて

 お前の考えていることもわかっているんだ

 

    やってしまえ、ベイビー、今夜やれるだけのことを

 やり続けて 壊すんだ ベイビー 今夜やれる限り

    だって、永遠に続くもんじゃないんだから

    やってみるんだ 悪くなろうと良くなろうと

    そしてそいつに 後で何か夢を見せてあげればいい” (拙訳)

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Here she comes ridin'
Rollin' it down the line
Slipin' and slidin'
Takin' her sweet old time

Laughin' all the way to the parking lot
Knowin' in the back of her mind
She's gonna show the boy what she's really got

Shake it baby, shake it baby, shake it all you can tonight
Go on and, and break 'em baby
Break 'em all you can tonight
It won't last forever
But do it for worse or for better
And give the boy somethin' to dream on later

Here she comes slidin'
Shakin' it down the hall
She's got a picture in her locker
An autographed basketball

She's got a purse that was made in Mexico
A mind that was made for love
She's got a new way of dancin' slow
She knows what you're thinkin' of

 

Shake it baby, shake it baby, shake it all you can tonight
Go on and, and break 'em baby
Break 'em all you can tonight
It won't last forever
But do it for worse or for better
And give the boy somethin' to dream on later

 

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 この曲を聴いた時に、僕はテレンス・ボイランをアメリカ西海岸のシンガー・ソングライターだとばかり思っていたのですが、調べてみるとニューヨーク、バッファロー出身でもともとはアメリ東海岸のフォーク・シーンで活動していた人でした。

 

  12歳から音楽活動を始め、 1962年、彼が16歳の時にグリニッジ・ヴィレッジでボブ・ディランと偶然出会い、お互いの曲を聴かせあったりしたことがあったそうで、それが彼の大きなモチベーションになったようです。

 

 彼にはジョン・ボイランという兄がいて、彼と”ジンジャー・メン”というバンドを組み本格的にニューヨークでライヴ活動を行いましたが、結局彼はソロで活動をすることになり、兄のジョンは西海岸に音楽の拠点を移します。

 

 その当時彼はニューヨークのバード大学に通っていましたが、そこでのちにスティーリー・ダンを結成するドナルド・フェイゲンウォルター・ベッカーと出会います。そして、彼らの協力を得て、 1969年にデビューアルバム「Akias Boona」をリリースしています。

 このアルバムで彼はディランの『Subterranean Homesick Blues』をカバーして収録しています。

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 しかし、結局ニューヨークで成功を掴めなかったテレンスはジョンがいるカリフォルニアに向かいます。

 ジョンはLAの有名なライブ・ハウス”トルヴァドール”を中心とした新たなロックシーンの真っ只中にいて、リンダ・ロンシュタットのプロデュースをやり、彼女のバックバンド結成に一役買い、それがやがてイーグルスになるなど、当時のウエストコースト・ロックのキーパーソンの一人になっていました。

 また、スティーリー・ダンの二人もLAに拠点を移していました。

 

 そして彼はジョンの仕事の手伝いをしながら曲を書きチャンスを伺い、とうとうジョニ・ミッチェルイーグルスが在籍するアサイラム・レコードとの契約を勝ち取り、1977年に実に8年ぶりのアルバムをリリースします。

 ジム・ゴードンチャック・レイニー、ディーン・パークスといったスーパー・ミュージシャンから、TOTOを結成するスティーヴ・ルカサーデヴィッド・ペイチ、ジェフ・ポーカ路など錚々たるメンバーが集まっています。

 この「Shake It」はそのアルバムに入っていました。

 しかし、アルバムの評判は良かったのですが、セールスは芳しくありませんでした。

 

 そんななか、翌1978年「Shake It」のカバー・ヴァージョンが全米13位の大ヒットになります。

 取り上げたのはイアン・マシューズ。1960年代から活動しているイギリスのシンガー・ソングライターで、フェアポート・コンヴェンションというバンドのボーカルとしても知られています。

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 僕はテレンスのアレンジの方が何倍も好きですが、AOR寄りのサウンドにしたイアンのほうが売れたのもわかるような気がします。

 

   イアンはテレンスのアルバムが気にいったらしく、「Shake It」の収録されたアルバム「Stealin' Home」ではもう1曲カバーしています。それも聴き比べてみましょう。

 

テレンスのオリジナル。ピアノはドナルド・フェイゲン

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  アプローチは「Shake It」と同様で、テンポアップしています。

 1970年代後半という時流のスピード感なのはイアンのほうだったんでしょうね。しかし、今聴くとテレンスの方がじわっとくる感じがしますが。。

 

 彼は1980年に3枚目のアルバム「Suzy」をリリースしますが、これが最後のオリジナル・アルバムになってしまいます。その後彼は他のアーティストへの楽曲提供や映画音楽の仕事をしたり、自身のレーベルから新たなCDを販売したり、また自分で出版社を経営していたようです。

 また、Wikipediaによると彼はジョン・ボイラン医学研究財団の専務理事として、研究と国際的な科学者交流を支援したり、マウント・デザート・アイランド生物学研究所の理事長を務めているのだそうです。

 

 最後に彼の3枚目のアルバム「Suzy」から「Tell Me」を。

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Terence Boylan

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    「Shake It」のコーラスはイーグルスティモシー・B・シュミットでした。

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 オルガンを弾いていたのはアル・クーパーでした

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