おはようございます。
数えきれないほどある洋楽の邦題の中でも僕がとりわけ偏愛しているのが、この「恋のピンチ・ヒッター」です。
”僕たち一緒だとなかなかいい感じに君には見えるだろう
僕の靴は革製だって君は思うだろう
だけど、僕は他のやつの代役なんだ
背は高く見えるけど ヒールが高いだけなんだ
君にはシンプルに見えても すごく込み入ってるんだよ
僕はけっこう若く見るけど 歳をごまかしてるんだ
君の嘘を事実に取り替えて
君のビニールのレインコートを見破って
僕は白人に見えるけど パパは黒人なんだ
僕のイカしたスーツは本当は麻袋でできてるんだ
僕はプラスティックのスプーンをくわえて生まれてきた
(*貧乏な生まれのこと。裕福な生まれを”銀のスプーンをくわえて生まれてきた”という表現がある)
僕の町の北側は東に面していて 東は南に面している
そして、いま君はじっと僕を見ようとしている
泣いているのは、ただのフリだ
君がただやり過ごしてきたことをちゃんとやろうとしない、
それが本当の問題なんだよ
僕を彼に代わりにして
僕のコーラをジンの代わりにして
君を僕のママの代わりにして
少なくとも洗濯はやってもらおう
だけど、僕は他のやつの代役なんだ
背は高く見えるけど ヒールが高いだけなんだ
君にはシンプルに見えても すごく込み入ってるんだよ
僕はけっこう若く見るけど 歳をごまかしてるんだ
君の嘘を事実に取り替えて
君のビニールのレインコートを見破って
僕は白人に見えるけど パパは黒人なんだ
僕のイカしたスーツは本当は麻袋でできてるんだ” (拙訳)
この曲の原題は”Substitute"。代用(する)、代役、というような意味で、僕はこの曲で初めて知った単語です。歌詞に使われることもほとんどなかったのですが、これを効果的に使ったのがスモーキー・ロビンソン。「トラック・オブ・マイ・ティアーズ」
で "Although she may be cute She's just a substitute"(たとえ彼女がキュートかもしれないけど、彼女はただの代役なんだ)といった風に使っています。
この言葉にハマったのが、ザ・フーのピート・タウンゼンドでした。あまりに気に入ってしまい"Substitute"と言う言葉を祝うために1曲作ってみようと決心してできたのがこの「恋のピンチ・ヒッター」だといいます。
またAメロのリフはロブ・ストーム&ザ・ウィスパーズの1965年のシングル「Where Is My Girl」がヒントになっていると後にタウンゼンドは語っているようです。
Robb Storme & The Whispers - Where Is My Girl
また、このシングルがアメリカで発売される際には
“I look all white but my dad was black”(僕は白人に見えるけど パパは黒人なんだ)という歌詞に問題があるということで、”try walking forward but my feet walk back”(前に歩こうとしても、足は後ろに歩いてしまう)に変えられています。
The Who- Substitute (US 45 alternate vocals)
歌詞を読むと、自分が彼女にとって”代役”であることから、すなわち自分はニセモノだ、そして自分のまわりの”本当はニセモノ”を次々と並べてゆくという展開になっています。けっこう深くて苦い、歌詞です。
「恋のピンチ・ヒッター」なんて軽快なものじゃなく、「僕はニセモノ」なんてタイトルの方が似合いそうです。
でも、僕には英語の歌詞はダイレクトには聞こえないので、かえってその軽快なリフやノリのいいサウンドに気持ちが弾んでしまうので、「恋のピンチ・ヒッター」というのが実にしっくりくるのです。
ということで「恋のピンチ・ヒッター」は実に日本人らしい洋楽の聴き方に基づいた素晴らしい邦題、というのが僕の意見なんです。
さて、この曲は”パンク”に影響を与えているようで、セックス・ピストルズやラモーンズもとりあげています。
そして、このブログに登場したママス&パパス、サイモン&ガーファンクル、ジェファーソン・エアプレイン、ローラ・ニーロ、オーティス・レディングなどが参加した1967年の”モントレー・ポップ・フェスティバル”にザ・フーも参加、この曲も演奏していました。
The Who - Substitute - Monterey 1967 (live)