まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「青春の光と影(Both Sides Now)」ジョニ・ミッチェル(1969)

  おはようございます。

 今日はジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」です。


Joni Mitchell - Both Sides, Now [Original Studio Version, 1969]

Rows and floes of angel hair
And ice cream castles in the air
And feather canyons everywhere
I've looked at clouds that way

 

But now they only block the sun
They rain and snow on everyone
So many things I would have done
But clouds got in my way

 

I've looked at clouds from both sides now
From up and down, and still somehow
It's cloud illusions I recall
I really don't know clouds at all

 

Moons and Junes and Ferris wheels
The dizzy dancing way you feel
As every fairy tale comes real
I've looked at love that way

 

But now it's just another show
You leave 'em laughing when you go
And if you care, don't let them know
Don't give yourself away

 

I've looked at love from both sides now
From give and take, and still somehow
It's love's illusions I recall
I really don't know love at all

 

Tears and fears and feeling proud
To say "I love you" right out loud
Dreams and schemes and circus crowds
I've looked at life that way

 

But now old friends are acting strange
They shake their heads, they say I've changed
Well something's lost, but something's gained
In living every day

 

I've looked at life from both sides now
From win and lose and still somehow
It's life's illusions I recall
I really don't know life at all

 

I've looked at life from both sides now
From up and down and still somehow
It's life's illusions I recall
I really don't know life at all

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 ” 列になって 海に浮かぶ氷のような 天使の髪

   空に浮かんだアイスクリームのお城

     いたるところにある 羽毛の峡谷

   雲を私はそんな風に見ていた

 

 でも今では雲はただ太陽をさえぎるもの 

 あらゆる場所に雨や雪を降らせるもの 

 私にはやれたはずのものがたくさんあったのに

 雲が邪魔をしていた

 

 今の私は雲を両側から見たことがある

 上からも下からも  そして今だにどういうわけか

 記憶にあるのは雲が生み出す幻影

 私は雲のことを何も知らない 

 

 月(ムーン)と六月(ジューン)と観覧車 
 おとぎ話がみんな本当になるときの

    めくるめくダンスのような感覚

 私は愛をそんな風に見ていた

 

 だけど今では愛はただのショーのようなもの

 立ち去るときは お客さんを笑わせたままにして

    もし気になっても、彼らには教えないで

    ボロを出しちゃだめなの

 
 今の私は愛を両側から見たことがある

 与える側と受け取る側と そして今だにどういうわけか

 思い浮かぶのは、愛が生み出す幻想

 私は愛についてなにも知らない

 涙(ティアーズ)に怖れ(フィアーズ)に

 アイ・ラヴ・ユーをはっきり口にするときの誇らしい気持ち

 夢(ドリーム)や計画(スキーム)にサーカスに集まる群衆

 私は人生をそんな風に見ていた 

 

 だけど今では昔の友達がおかしなそぶりをする

 首を横に振って 私が変わってしまったなどと言う

 何かを失えば 何かを手に入れる

 毎日生きていけば

 

 今の私は人生を両側から見たことがある

 勝者の側と敗者の側と そして今だにどういうわけか

 思い浮かぶのは人生が生み出す幻影

 私は人生について何も知らない         ”  (拙訳)

 

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 歌詞の一行目「Rows and floes of angel hair」の"floes"。”flows"(流れ)じゃなく、

「氷原」とか「浮氷」という意味の言葉なんですね。

(歌詞サイトでは"Rows and flows""Bows and flows”となっているものが多いですが、ジョニ自身のサイトに載っているのは”Rows and floes"でした)

 

 韻を踏んでいるところなので、最初は”flows"が浮かんだけれどありきたりなので、

同じ音でより映像的な”floes"に変えたんじゃないか、などと推測してしまいます。

 細かい話ですが、、、。

 

 

    さて、「青春の光と影」というのは、「明日に架ける橋」などと同じように洋楽の邦題としての不動のステイタスを築いている数少ない一つかもしれませんね。

 光と影、という言葉は歌詞には出てきませんが、ひとつのものを表と裏の両サイドから見るということですから、あながち外れてはいないでしょう。

 

 昨日紹介したザ・フーの「恋のピンチ・ヒッター」はいろんなものを”本物とニセモノ”という視点でを対比させてゆく歌でしたので、以外に視点は近いのかもしれません(曲調は全然違いますが、、)。

 

 ただし、当時20歳くらいだったピート・タウンゼンドは完全に若者の視点だったのに対し、ジョニはこの頃23歳(22歳?)で、もう大人になっているけど十代の頃の記憶も色濃く残っていて、そちらにまだ気持ちが傾いてしまう、そんな微妙な年代の心理が見事に歌には反映されています。

 

   この曲で象徴的に描かれているのが”雲”です。この曲が収録されたアルバムの原題が「Clouds」といいますが、「Clouds」というタイトルの曲は収録されていません。

 1968年8月23日のフィラデルフィア・フォーク・フェスティバルで、ジョニはこの曲をこのように紹介しているそうです。
"ここに2つの名前がある曲があってどちらも正しいの。「Clouds 」と「 Both Sides Now 」。”

 アルバム・タイトル「Clouds」はこの曲のもう一つの候補の曲名だったんですね。作品を象徴するものとして、ボツにしてしまうのが惜しかったのかもしれませんね。

 

 

 さて、このClouds、”雲”というインスピレーションを彼女に与えた小説があります。

 アメリカのユダヤ人作家でノーベル賞も受賞しているソール・ベローが1959年に発表した小説「雨の王ヘンダソン(Henderson the Rain King)」です。

 

 恵まれた環境にいながら人生に倦んでしまった55歳の男ヘンダーソンが、全てを捨ててアメリカからアフリカに行ってしまう話ですが、途中の飛行機でこういうシーンがあります。

「そして、雲を見下ろしながら夢想にふけり、子供の頃は、雲を見上げて夢想にふけったものだと思い、こうして雲の上下両側から夢をみるというのは、昔の連中のついぞやらなかったことだと考えると、自分の死もたやすく受け入れることができるはず、という気がしてきた。」

           (「雨の王ヘンダソン」佐伯彰一訳 中公文庫)

 

 彼女はこの本をやはり飛行機の中で読んでいたそうです。そして、この部分を読むと彼女は、

「本を置いて、窓の外に目をやって、同じように雲を見た。そしてただちに曲を書き始めたの。こんな有名な曲になるなんて全く考えてもいなかったわ」

 

 確かに初めて飛行機に乗って、窓から雲を見下ろしたときの気持ちは不思議に覚えています。新鮮でわくわくする気持ちと、なんかちょっとがっかりする気持ちが入り混じったような。

 まあ、僕は凡人ですので、素晴らしい曲が浮かんだり、もう死んでもいいや、という発想は浮かびはしないですけどね、、。

 

 さて、当初は”From Both Sides Now"と名付けられていたようで、これは1967年の3月のことだと彼女は語っているようですが、のちにリリースされた1966年の未発表ライヴ音源にこの曲が演奏されているので、記憶違いかもしれません。

 

 そしてまだ無名だった彼女の曲を取り上げたのがジュディ・コリンズ。当時のフォーク・ムーヴメントで中心的な役割を果たしたシンガーです。

 彼女が1968年にリリースした「青春の光と影」が全米8位の大ヒットとなったことにより、ジョニ・ミッチェルにも脚光があたり、シンガーソングライターとしてレコード契約を結ぶことになります。


Judy Collins - Both Sides Now (Official Audio)

 

そして彼女自身のセルフカバーは1969年に前述のアルバム「Clouds(邦題「青春の光と影」)に収録されています。

 そして、その後この曲は約600のアーティストがカバーするほどのスタンダードになっています(2010年代以降ももどんどん増えています)。

 

 その中から男性シンガーのカバーをセレクトしました。フランク・シナトラグレン・キャンベルニール・ダイアモンドというまさにアメリカの国民的シンガーが三者三様にやっているのです。


Frank Sinatra - From Both Sides Now


Both Sides Now


Both Sides Now

 

 最後はジョニ自身が再レコーディングしたものをお聴きください。2000年に発売されたアルバム「Both Sides Now」に収録されています。


Joni Mitchell - Both Sides Now (HD)

 

 追記:アカデミー作品賞に輝いた「Coda コーダ あいのうた」でもこの曲が大変重要な役割を担っていました。主演のエミリア・ジョーンズが歌っています。

 

www.youtube.com

 

Cycles

Cycles

  • アーティスト:Sinatra, Frank
  • 発売日: 2010/04/05
  • メディア: CD
 
Try A Little Kindness

Try A Little Kindness

  • 発売日: 2007/06/26
  • メディア: MP3 ダウンロード
 
Touching You Touchi

Touching You Touchi

  • アーティスト:Diamond,Neil
  • 発売日: 2007/06/05
  • メディア: CD
 
Both Sides Now

Both Sides Now

  • アーティスト:Mitchell, Joni
  • 発売日: 2000/02/28
  • メディア: CD
 

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