まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「リヴァー(River)」ジョニ・ミッチェル(1971)

 おはようございます。

 今日はジョニ・ミッチェルの「リヴァー」です。


River

 

  ”クリスマスになると

   人々は木を切り倒し トナカイを狩り出す

      そして、喜びと平和の歌を歌っている

   ああ、私に川があったらなあ

   その上をスケートで滑って どこかに行ってしまえるのに

 

   だけど、ここには雪は降らない

         ずっと緑が残っているの

   私はたくさんお金を稼ぐわことにするわ

   そしたらこんな狂った光景から逃げ出せる

   ああ、私に川があったらなあ     

  その上をスケートで滑って どこかに行ってしまえるのに

 

         私に川があったらなあ  とても長い川が

   そしたら私の足に飛ぶことを教えるのに

   私に川があったらなあ        

  その上をスケートで滑って どこかに行ってしまえるのに

         私は恋人を泣かせてしまった

 

         彼は私を助けようと一生懸命だった

    私の気持ちを楽にしてくれた

         そして、かなり荒っぽく愛したわ

    私が立っていられないほどに

         私に川があったらなあ  

   その上をスケートで滑って どこかに行ってしまえるのに

 

    私はとても扱いづらい

    自分勝手で 寂しくて

    いま私は彼の元を去って 

    今までで一番最高の相手を失ってしまった

          私に川があったらなあ  

    その上をスケートで滑って どこかに行ってしまえるのに

 

          私に川があったらなあ  とても長い川が

    そしたら私の足に飛ぶことを教えるのに

    私に川があったらなあ       

         その上をスケートで滑って どこかに行ってしまえるのに

         私は恋人にさよならを言わせたの

 

   クリスマスになると

   人々は木を切り倒し トナカイを狩り出す

      そして、喜びと平和の歌を歌っている

   ああ、私に川があったらなあ

   その上をスケートで滑って どこかに行ってしまえるのに ”  (拙訳)

  

     

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It's coming on Christmas
They're cutting down trees
They're putting up reindeer
And singing songs of joy and peace
Oh I wish I had a river I could skate away on

But it don't snow here
It stays pretty green
I'm going to make a lot of money
Then I'm going to quit this crazy scene
Oh I wish I had a river I could skate away on

I wish I had a river so long
I would teach my feet to fly
I wish I had a river I could skate away on
I made my baby cry

He tried hard to help me
You know, he put me at ease
And he loved me so naughty
Made me weak in the knees
Oh, I wish I had a river I could skate away on

I'm so hard to handle
I'm selfish and I'm sad
Now I've gone and lost the best baby
That I ever had
I wish I had a river I could skate away on

Oh, I wish I had a river so long
I would teach my feet to fly
I wish I had a river
I could skate away on
I made my baby say goodbye

It's coming on Christmas
They're cutting down trees
They're putting up reindeer
And singing songs of joy and peace
I wish I had a river I could skate away on

 

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  この「リヴァー」は、ジョニ・ミッチェルが1971年に発表したアルバム「ブルー」に収録されていたもので、シングルになっていないにも関わらず、彼女の全作品の中で「青春の光と影」に次いで、他のアーティストからカバーされた回数が2番目に多い曲です。

 わかっているだけで764ものカバー・ヴァージョンがあるそうで、そのリストに目を通してみると、ほとんどのものがクリスマス向けの作品で、かつほとんどが21世紀に入ってから録音されていることがわかります。

 

 発売されて30年以上経ってから、クリスマスのスタンダードとして急速に定着していったというプロフィールを持つ曲なんですね。

 

 また、「リヴァー」だけではなく、アルバム「ブルー」の評価自体も21世紀に入ってどんどん高くなっています。

 世界で最も影響力の大きい音楽雑誌「ローリング・ストーン」が今年、”史上最高のアルバム500”のランキングを発表しましたが、「ブルー」はなんと史上第3位にランクインされました(1位がマーヴィン・ゲイ「ホワッツ・ゴーイン・オン」、2位がビーチ・ボーイズの「ペットサウンズ」)。

 このランキングは2003年に最初に発表され、2012年に少し修正したヴァージョンが出ましたが、そのとき「ブルー」は30位でしたから、まさに”ごぼう抜き”の快挙です。

(前回の1位はビートルズの「サージェントペパーズ」で、今回は24位と、こちらは急降下しています)

 

 「ローリングストーン」の「ブルー」に次いての記事の中にはこういう記述があります。

「そのスモーキーで内省的なアルバム・ジャケットから完全に無防備なソング・ライティングのアプローチにいたるまで、「ブルー」はメジャーなロック、ポップスのアーティストが完全に自分の内面をさらけ出した最初の作品であり、究極の失恋のアルバムを生み出し、ポップ・ミュージックにおいて今だに比肩するもののない、告白型の歌詞のスタンダードを確立した」

 

 女性シンガー・ソングライターが自分の本音をあからさまに歌にすることは、今の時代では当たり前のことで、それが時にエスカレートしているようにさえ思えますが、この当時はほとんどなかったんですね。

 その道を切り開いたのが、彼女であり、「ブルー」というアルバムだったわけです。

 

 彼女は1979年の「ローリングストーン」のインタビューでこう答えたそうです。

 「『ブルー』の歌の中には不誠実な音はほとんどない。人生のあの時期、私はまったく自己防衛しなかった。タバコの箱を包む透明なセロファンみたいな気持ちだった。世界に対して全く何も隠すものなんかないと感じていた。だから、強いふりをすることはできなかった。ハッピーなふりをすることもね。それの音楽におけるいいところは、音楽自体にもまったく防御がなくなるということね」

 

 タバコのセロファンのような、というのはすごい精神状態ですね。

 自分の本心を歌詞にしようとすると、たいていの場合、より過剰な方向にバイアスをかけてしまいがちなように思えます。実際そういう歌詞の方をよく耳にしますし。

 でもそれはそれで、音楽を濁らせてしまうんでしょうね。

 「ブルー」の、ただ完全に自己防御を取り去った透明な状態、というのは得難いものですし、だからこそ何十年も経っても色褪せないのでしょう。

 

 マドンナが”私が今まで聴いた女性のアーティストの中で、歌詞の点から最も深みのある影響を与えてくれたのは、ジョニ・ミッチェルだと語っていたそうで、彼女のしろ、レディ・ガガやアデル、テイラー・スウィフトもそうでしょうが、自分の本心を歌にしていこうとするアーティストたちのルーツを遡ってゆくと、そこにジョニ・ミッチェルがいて「ブルー」がある、そう考えると「ローリングストーン」が下した史上3位という評価も全く納得できるものだと思います。

 

 さて、「リヴァー」という曲についても少し説明してみます。

  

         だけど、ここには雪は降らない

         ずっと緑が残っているの

   私はたくさんお金を稼ぐわことにするわ

   そしたらこんな狂った光景から逃げ出せる

 

 ジョニ・ミッチェルはカナダに生まれ育ったので、冬は雪が降り川に氷が張るのがあたりまえだと思っていたわけです。しかし、彼女がこのころ住んでいたロサンゼルスのローレル・キャニオンは冬でも暖かく雪も降らず、緑がずっとある場所です。クリスマスなのに暖かく緑があるというのは、彼女にとって狂った光景”Crazy Scene”だったわけです。  

 

 また、彼女は恋多き女性として知られ、しかも相手は、グラハム・ナッシュ、レナード・コーエンジェームズ・テイラージャクソン・ブラウンなど才能あるアーティストが多かったのです。

 

 この時期は、長く付き合っていたグラハム・ナッシュと別れ、ジェームス・テイラーと付き合い始めたころだと言われています。

 ジェームスはこの曲がほぼ間違いなく実体験に基づいた曲だと語っているようですが、その相手が誰かに関しては「ぼくを含め、そういう男たちはたくさんいたさ」と明言を避けているようです。

   グラハムと別れたばかりのころ、クリスマスの準備に入ってゆく街を見ながらこの曲を着想した、と考えるのが一番合っていそうな気がします。

 そして、失恋を歌うだけではなく、クリスマス・シーズンの故郷の光景を重ねたことで、この曲の味わいがより深いものになっているように思えます。

 

 この曲が注目されるきっかけになったカバーの一つと言われています。2006年のサラ・マクラクラン


Sarah McLachlan - River (VIDEO)

昨年、イギリスでNO.1に輝いたエリー・ゴールディングのカバー。


Ellie Goulding - River (Official Video)

 そして、2006年のジェームス・テイラーのカバー。ぼくはこれを聴いて、もう一度ジョニのヴァージョンを聴き直しました。


River

 ジェームスとジョニの共演ライヴ(1970)の音源がありました。前の年、1969年にこの曲を書いたと本人がMCで言ってますね。


River (Live 1970)

 

 

<参考>」ミッシェル・マーサー著「ジョニ・ミッチェルという生き方 ありのままの私を愛して」

 

 

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