まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「A Thousand Miles」ヴァネッサ・カールトン(2002)

 おはようございます。

 今日はヴァネッサ・カールトンの「A Thousand Miles」です。


Vanessa Carlton - A Thousand Miles (Official Video)

 

Makin' my way downtown
Walkin' fast, faces pass
And I'm homebound
Starin' blankly ahead
Just makin' my way
Makin' a way through the crowd


And I need you
And I miss you
And now I wonder


If I could fall into the sky
Do you think time would pass me by?
'Cause you know I'd walk a thousand miles
If I could just see you
Tonight

It's always times like these when I think of you
And I wonder if you ever think of me
'Cause everything's so wrong, and I don't belong
Livin' in your precious memory


'Cause I'll need you
And I'll miss you
And now I wonder


If I could fall into the sky
Do you think time would pass me by?
Oh, 'cause you know I'd walk a thousand miles
If I could just see you
Tonight


I, I don't wanna let you know
I, I drown in your memory
I, I don't wanna let this go
I, I don't

 

Makin' my way downtown
Walkin' fast, faces pass
And I'm homebound
Starin' blankly ahead
Just makin' my way
Makin' a way through the crowd


And I still need you
I still miss you
And now I wonder

If I could fall into the sky
Do you think time would pass us by?
'Cause you know I'd walk a thousand miles
If I could just see you, oh-oh
If I could fall into the sky
Do you think time would pass me by?
'Cause you know I'd walk a thousand miles
If I could just see you
If I could just hold you
Tonight

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ダウンタウンに向かってる
早足で歩けば、人々の顔が過ぎてゆく
私は家に帰るところ
前だけをしっかり見つめて
ただ前に進む
人ごみをかき分けて


そしてあなたが必要なの
そしてあなたが恋しいの
そして今は不思議に思う

 

もし私が空に飛び込めたなら
時間は私を通り過ぎていくと思う?
1000マイルだって私は歩けるって
あなたはわかっているから
あなたにただ会えるなら  今夜

 

あなたを思うときはいつだってこんな感じになる
あなたは私のことを考えたことがあるのかしら
だって何もかもが間違っていて、私の居場所はない
大切なあなたの思い出に生きているだけ

 

そしてあなたが必要なの
そしてあなたが恋しいの
そして今は不思議に思う

 

もし私が空に飛び込めたなら
時間は私を通り過ぎていくと思う?
1000マイルだって私は歩けるって
あなたはわかっているから
あなたにただ会えるなら  今夜

 

あなたに知られたくない
あなたの記憶に溺れてる
この記憶を手放したくない
手放したくない

 

ダウンタウンに向かってる
早足で歩けば、人々の顔が過ぎてゆく
私は家に帰るところ
前だけをしっかり見つめて
ただ前に進む
人ごみをかき分けて

 

今もまだあなたが必要なの
今もまだあなたが恋しい
そして今不思議に思う

 

もし私が空に飛び込めたなら
時間は私を通り過ぎていくと思う?
1000マイルだって私は歩けるって
あなたはわかっているから
あなたにただ会えるなら  今夜

                       (拙訳)

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 彼女がこの曲のピアノのイントロのフレーズを思いついたのは1998年の夏でした。彼女は18歳になろうとしていました。しかし、そこで曲作りに行き詰まってしまい、どうしようもなく結局そのまま半年放っておいたそうです。

 

 そしてその年の終わりに、彼女はプロデューサーの前でピアノで曲の断片をいろいろ弾いて聴かせた中にこのイントロもあって、それを聴いたプロデューサーからすぐにその曲を完成させろ、と指示されると、その夜のうちに1時間足らずで書き上げたのだそうです。

 このブログで今まで取り上げた曲の中にも、そのようにずっともがく時間があって、ある日何かのタイミングで一気に書けてしまった、というエピソードを持つものがいくつかありました。

 創作を生み出す人間の無意識の働きというものはつくづく面白いものだなあと思います。

 

 この曲は、結局お蔵入りになった「RINSE」というアルバムのために、一度録音されています。この時は「Interlude」というタイトルがつけられていました。


Vannessa Carlton "Interlude" Demo For A Thousand Miles From The Unreleased album "Rinse"

 

 作家としての契約はありましたが、アーティストとしてチャンスを掴めずにいた彼女はレーベルから契約解除されそうな状況だったそうです。そして、会社のトップのジミー・アイオヴァイン(スプリングスティーンU2エミネム、レディガガなどを手がけた音楽業界随一の大物)から、彼が新しくA&Mレコードに引き抜いたロン・フェアというプロデューサーを紹介されます。

 彼はエンジニア出身で映画「ロッキー」の音楽で有名なビル・コンティのアシスタントからキャリアをスタートさせ、この頃クリスティーナ・アギレラのプロデューサーの一人として注目されていました。その後、彼は大きなレコード会社のトップを歴任しますので、相当な野心家だたったのでしょう。

 

 新天地最初の仕事で実績を上げようと気合が入っていたロンは、ヴァネッサのことを気に入りプロデュースを買って出ます。

 エンジニアリングだけじゃなく音楽の素養も深い彼は、彼女の作品のアレンジに大きく手をつけたそうです。

 「Interlude 」もロンが大きくアレンジを変え、彼の甥のアイディアを元に「A Thousand Miles」というタイトルにします。

 この曲の仕上がりは好評で、2001年には先駆けて映画「キューティー・ブロンド」のサントラで使われ、ジミー・アイオヴァインの指示でPVも制作されることになりました。

 そして、この曲は一気にヒットするわけです。

 長いポップ・ミュージックの歴史の中でピアノの弾き語りは滅多に売れないという心配がロンにはあったそうですが、それも杞憂に終わりました。

 (ちなみに、この曲はグラミー賞で最優秀楽曲、最優秀レコードの両部門にノミネートされましたが、最優秀を受賞したのは、同じピアノ弾き語りのシンガーソングライター、ノラ・ジョーンズでした)

 

 この「A Thousand Miles」の入ったデビューアルバム「Be Not Nobody」は、全曲自作ではあるけれどロン・フェアのカラーが全開になったもので、私は彼の作った道筋に従うしかなかった、と、2017年のインタビューで彼女は語っています。

 

 ロンとの仕事に抵抗の強かった彼女は、セカンドアルバムの、プロデュースを当時彼氏だったステェファン・ジェンキンス(ロック・バンド"サード・アイ・ブラインド”のメンバー)に託しますが、セールスは不調でレーベルとの契約は解消され、彼女のアーティスト活動は一気に失速してしまいます。

 

 この頃を振り返って彼女は、”当時の自分はアルバムを出す準備ができていなかった”と語っています。そして、自分のことを本来”遅咲き”だと分析していて、

”28歳になるまでレコードを作っちゃいけない”という持論があるのだそうです。

 その例として、フリートウッド・マックスティーヴィー・ニックスが参加したのは20代後半だった、ということをあげています。 

 

 昨日このブログに登場したフェアグラウンド・アトラクションの「パーフェクト」が大ヒットしたのは、エディ・リーダーが29歳のときでしたが、エディの場合は「パフェクト」以降大ヒットがなくても着実にアーティスト活動ができていましたから、ヴァネッサの持論はうなずけるところがあります。

 

 ただし、音楽の世界はメジャー・デビューできること自体が圧倒的な少数ですから、その年齢を自ら選ぶことはできないのが普通です。しかも、ヒットするタイミングなど、誰にもわかりません。

 

 20歳そこそこでの成功に付随した何かが、彼女にある種のトラウマを与え、それがその後の彼女のキャリアに大きな影響を与えたのは確かでしょうが、若い時だからこそ生み出すことのできた”瑞々しさ”が「A Thousand Miles」という曲の大きな魅力になっているのも間違いないでしょう。

 

 最後に彼女の最新曲を。2020年リリースのアルバム「Love Is An Art」からのシングル「The Only Way To Love」です


Vanessa Carlton - The Only Way To Love [Official Video]

 

 

 

 

 

 

 

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