まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「愛はかげろうのように(I've Never Been to Me)」シャーリーン(1977)

 おはようございます。

 今日はシャーリーンの「愛はかげろうのように」を。

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Hey, lady, you, lady
Cursing at your life
You're a discontented mother
And a regimented wife
I've no doubt you dream about
The things you'll never do
But I wish someone had talked to me
Like I wanna talk of you


Ooo, I've been to Georgia
And California
And anywhere I could run
Took the hand of a preacher man
And we made love in the sun
But I ran out of places and friendly faces
Because I had to be free


I've been to paradise
But I've never been to me


Please lady, please, lady
Don't just walk away
'Cause I have this need to tell you
Why I'm all alone today
I can see so much of me
Still living in your eyes
Won't you share a part
Of a weary heart
That has lived a million lives


Oh, I've been to Nice
And the isle of Greece
When I sipped champagne on a yacht
I moved like Harlow in Monte Carlo
And showed 'em what I've got
I've been undressed by kings
And I've seen some things
That a woman ain't supposed to see


I've been to paradise
But I've never been to me


Hey, you know what paradise is?
It's a lie
A fantasy we created about people and places
As we'd like them to be
But you know what truth is?
It's that little baby you're holding
And it's that man you fought with this morning
The same one you're going to make love with tonight
That's truth, that's love


Sometimes I've been to crying
For unborn children
That might have made me complete
But I, I took the sweet life I never knew
I'd be bitter from the sweet
I've spent my life exploring
The subtle whoring
That costs too much to be free


Hey lady, I've been to paradise
But I've never been to me
I've been to paradise
Never been to me


I've been to Georgia and California
And anywhere I could run
I've been to paradise
Never been to me
Been to Nice and the isle of Greece
When I've sipped champagne on a yacht
I've been to paradise
Never been to me

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ヘイ、レディ、あなたよ、レディ
自分の人生を呪っている
不満だらけの母親で
自由を奪われた妻
絶対やれそうもないないことを夢見ているのね
だけど、誰かが私に話しかけてくれればよかった
私があなたに話そうとしてるように


ジョージアにも行ったし
カリフォルニアにも
行けるところならどこへだって
牧師の手を取って
そして太陽の下で愛し合った
だけど、私は行く場所も親しい人たちも尽きてしまった
自由にならなくちゃいけなかったから

楽園にも行ったことはあるけど
私自身は見つからないの

 

どうか、レディ、どうか、レディ
立ち去らないで
あなたに話さなくてはいけないの
なぜ今日私がひとりきりなのか
あなたの瞳の中には私にすごく似たものが見えるの
分かち合っていいのよ
100万回生きて 疲れきった心を

 

ああ、私はニースにも行ったわ
ギリシャの島にも
ヨットでシャンパンを飲んだものよ
モンテカルロジーン・ハーロウのように振舞って
持っているものを披露してあげたわ
王たちに服を脱がされ
女性が見れないものだって見てきた

 

楽園にも行ったことはあるけど
本当の私は見つからない

 

ねぇ、楽園って何か知ってる?
そんなもの嘘なの
人々や場所について、私たちが作り出した幻想、
そうであってほしいと願うものなの
だけど、真実は何であるかわかってる?
それはあなたが抱きしめているかわいい赤ちゃんであり
今朝あなたが喧嘩したあの男なの
今夜あなたが愛し合おうとしているのsの人よ
それが真実、それが愛

 

時には泣くこともある
私を満たしてくれたかもしれない
生まれてこなかった子供のために
だけど、私は決して知ることのなかった甘い生活を選んだ
甘さから辛さを感じるのことも
私は気づかぬうちに身体を売るようなことを追い求めて生きてきた
自由になるというのはあまりにもコストがかかりすぎるの

 

ヘイ、レディ、楽園にも行ったことはあるけど
私自身は見つからないの

楽園にも行ったことはあるけど
私自身は見つからないの

 

ジョージアにも行ったし
カリフォルニアにも
行けるところならどこへだって
楽園にも行ったことはあるけど
私自身は見つからないの

ああ、私はニースにも行ったわ
ギリシャの島にも
ヨットでシャンパンを飲んだものよ

楽園にも行ったことはあるけど
私自身は見つからないの

                   (拙訳)

 

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「愛はかげろうのように」の楽譜はこちら

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 この「愛はかげろうのように」は1977年にレコーディングし発売されましたが、ヒットしたのが1982年だったというめずらしいプロフィールを持っています。

 

 

シャーリーンは、1950年代後半にハリウッドでイタリア系アメリカ人の家庭に生まれ幼い頃から歌手になりたいと思っていたそうです。

 彼女はモータウンのボス、ベリー・ゴーディの前でオーディションを受け、白人女性歌手として初めてモータウンと契約することになります。

 デビューは1974年で、シングルを一枚リリースしています。

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 彼女がこの「愛はかげろうのように」を歌うことになった経緯をこう語っています。

「ある日、私がオフィスにいると、ロン・ミラーという男性が近づいてきました。彼は、私の声にぴったりの曲があると言って、その曲を聴かせてくれました。その時、彼は知らなかったのですが、私はとてもひどい結婚生活を送っていて、願わくば離婚したいと思っていました。この曲は、私にとって大きな意味を持つものでした。それは私の人生の物語のように感じました。私はこの歌の歌詞に親近感を覚えたんです。私のためにテープを再生してくれてたロンは、デスクの後ろに座って、私が息もできないほど激しく泣くのをじっと見つめていました。私はこの曲の歌詞にとても感動したんです」

 (CALL ME ADAM   February 14, 2020)

 

 彼女は16歳の時にギタリストと恋に落ち、結婚し子供ももうけましたが、夫の薬物依存や暴力に悩まされていたといいます。

 

 ロン・ミラーはスティーヴィー・ワンダーの「フォー・ワンス・イン・マイ・ライフ」や「太陽のあたる場所」、「想い出のクリスマス」、ダイアナ・ロスの「タッチ・ミー・イン・ザ・モーニング」などを書いた作詞家です。

 

   レコーディングは”魔法のような瞬間”だったと彼女は改装していますが、発売後モータウンはあまりプロモーションをしなかったようで、全米チャート97位で終わってしまいました。

 また、レコーディングからリリースまで半年くらい空いてしまい、その間にランディ・クロフォードが先にこの曲をリリースしていました。

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 1977年にはナンシー・ウィルソン、1978年にはメアリー・マクレガーがカバーしますがヒットはしませんでした。

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 みんな素晴らしいシンガーですが、この「愛はかげろうのように」に限って言えば、シャーリーンのヴァージョンが明らかにいいですよね。

 

 状況が変わったのが1982年フロリダ州タンパのラジオ局WRBQ-FMのDJ、スコット・シャノンが、シャーリーンの「愛はかげろうのように」を流し始めたところすごく反響があったのです。シャノンはモータウンの社員だったそうで、当時のモータウンの社長ジェイ・ラスカーにこの曲のヒットの可能性を伝えたところ、ラスカーはシャーリーンを探すことにします。しかし、彼女は音楽業界に失望し離れていて、イギリス人男性と結婚してイギリスのお菓子屋さんで仕事をしていたそうです。

 彼女と連絡がついた頃には、すでに曲はチャートを上昇していて、彼女は慌ててアメリカに戻りプロモーションをやったそうです。

 この曲は全米3位、イギリス、カナダ、オーストラリアなどでは1位に輝く大ヒットになりました。

 

  この曲のプロフィールを調べていて興味深かったのは、ロン・ミラーはどうやらこの曲の男性ヴァージョンを先に作っていて、その後シャーリーンの歌声を聴いて彼女のために女性用の歌詞にしたようなのです。

 

「 ロン・ミラーはもともとこの曲を男性の視点から書いたのだが、シャーリーンの声をデモで聴いて、彼女のために書き直したのだ」

(PopEntertainment.com. October 4, 2011. )

 

 それまでのシャーリーンはモータウンで主にデモシンガーをやっていて、マイケル・ジャクソンダイアナ・ロスなどの曲のデモをその人っぽく歌うことに慣れてしまっていました。

「マイケルのような声で。 ダイアナみたいな声で。 こんな風に歌って。 あんな声に歌って。『愛はかげろうのように』を歌うことでやっと、本当のシャーリーンが現れ、それが私のスタイルになったの」

(PopEntertainment.com. October 4, 2011. )

 

 

 ちなみに、その男性版はウォルター・ジャクソンというシンガーが最初に歌っていて、1977年にリリースされています。こちらは、死期の近い老人が語る設定です。面白いのでこちらも訳してみます。

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Hey mister, hey mister, I just want a dime
Cause I need a cup of coffee and a moment of your time
I can tell you're raising hell the way I used to do
I wish someone had talk to me as I want to talk to you

I've been to Georgia and California and anywhere I could run
Stole a woman in Tennessee and we made love in the sun
But I ran out of places and friendly faces because I have to be free
I've been to paradise but I've never been to me

Thanks mister, thanks mister, but please don't walk away
Cause I have this need to tell you why I'm all alone today
I can see so much of me still living in your eyes
Won't you share a part of an old man's heart on the day before he dies

Cause I've been to China and Asia Minor on any ship that would sail
Made some noise with good ol' boys and we wrecked the southern jail
I've seen the best man crawl and some teardrops fall 
There ain't nothing I didn't see
I've been to paradise but I've never been to me

I've been to marriage, children crying for someone they couldn't find
Never knowing that I was searching for things I left behind
I thought my heart could wait but I learned too late only love can make people free
I've been to paradise but I've never been to me

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ヘイ、ミスター、ヘイ、ミスター、10セントくれないか?
一杯のコーヒーとあんたの時間が少しだけ必要なんだ
わたしがやってきたみたいにあんたもずいぶん道楽してきたんだろうな
わたしがあんたと話すように誰かがわたしに話してくれたらよかったのに


ジョージアにもカリフォルニアにも行った
行けるところならどこだって
テネシーで女を奪って 太陽の下で愛し合った
しかし、行く場所も親しい奴らも使い果たしてしまった
自由でなければいけなかったから
楽園にも行ったことはあるが
自分が何者かはわからないままさ

ありがとう、ミスター、ありがとう、ミスター
でもどうか行かないでくれ
今日私がひとりぼっちの理由をあんたに教えなくちゃな
あんたの目にはかなり私と同じものが見える
死ぬ前日の老人の心の一部を分かち合ってくれないかい?

中国や小アジアに行ったことがある、動くならどんな船にだって乗って
古い仲間たちと大騒ぎして、南部の刑務所を壊したことだってある
最高の男が這いつくばるのを見てきたし、涙のしずくが落ちるのも見てきた 
見たことのないものなんてないさ
楽園にだって行ったことはあるが
自分が何者かはわからないままさ

結婚もしたし、 見つけられない誰かを求めて泣く子供たちもいた
自分が探していたものは、後に残してきたものだと知らないで
心は待つことができると思っていたけど、
愛だけが人々を自由にすることができることがわかるのが遅すぎたんだ
楽園にも行ったことがああるが、自分が誰なのかわからないままさ

   (拙訳)

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 シャーリーンがリバイバル・ヒットしたタイミングで、モータウンは男性ヴァージョンもカバーさせています。歌っているのはテンプテーションズ。最後はそちらをどうぞ。

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愛はかげろうのように(SHM-CD)
I've Never Been To Me

 

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