まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ストップ・イン・ザ・ネイム・オブ・ラヴ(Stop! In the Name of Love)」スプリームス(1965)

 おはようございます。

 今日もモータウン・ナンバーを。スプリームスの「ストップ・イン・ザ・ネイム・オブ・ラヴ」です。


Stop! In The Name Of Love

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Stop! In the name of love
Before you break my heart

Baby, baby I'm aware of where you go
Each time you leave my door
I watch you walk down the street
Knowing your other love you'll meet
But this time before you run to her
Leaving me alone and hurt
(Think it over) After I've been good to you
(Think it over) After I've been sweet to you

Stop! In the name of love
Before you break my heart
Stop! In the name of love
Before you break my heart
Think it over  Think it over

I've known of your
Your secluded nights
I've even seen her
Maybe once or twice
But is her sweet expression
Worth more than my love and affection
But this time before you leave my arms
And rush off to her charms
(Think it over) Haven't I been good to you
(Think it over) Haven't I been sweet to you

Stop! In the name of love
Before you break my heart
Stop! In the name of love
Before you break my heart
Think it over Think it over

I've tried so hard, hard to be patient
Hoping you'd stop this infatuation
But each time you are together
I'm so afraid I'll be losing you forever

Stop! In the name of love
Before you break my heart
Stop! In the name of love
Before you break my heart
Stop! In the name of love

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やめて! 愛の名のもとに

私の心がこわれてしまう前に

 

ベイビー、ベイビー、

あなたがどこに行くのか気づいているのよ

私の部屋から出て行くたびに

あなたが通りを歩き去って行くのを見つめるの

あなたが他の恋人に会うことを知りながら
だけど、今度は彼女の元に行く前に

私を一人、傷ついたまま放っておくのね

(よく考えて)私があなたによくしてあげたあとなの

(よく考えて)私があなたに優しくしたあとなのよ

 

やめて! 愛の名のもとに  私の心がこわれてしまう前に

やめて! お願いだから  私の心がこわれてしまう前に

よく考えて よく考えて

 

あなたが予定が入っている夜のこと知っているのよ

彼女も見たことがあるわ、たぶん一度か二度

だけど、彼女の甘ったるい表現のほうが

私の愛や愛情より大事なの?
だけど今度は私の腕から離れる前に

彼女の魅力にひかれて飛んで行くのね

(よく考えて)あなたによくしてあげなかった?

(よく考えて)あなたに優しくしてあげなかった?

 

やめて! 愛の名のもとに 私の心がこわれてしまう前に

やめて! お願いだから 私の心がこわれてしまう前に

よく考えて よく考えて

 

 がんばってきたの 必死に我慢しようと

あなたが浮気をやめてくれることを願いながら

だけど、あなたと一緒にいるといつも

私はあなたを永遠に失うようでとてもこわいの

やめて! 愛の名のもとに 私の心がこわれてしまう前に

やめて! お願いだから 私の心がこわれてしまう前に   (拙訳)

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 作者が”浮気の現場”で不意に口をついて出した言葉がインスピレーションになった名曲

 

 ” in the name of love”の解釈が、日本人にはわかりにくいですよね。

”愛の名のもとに”と訳してみても、具体的なイメージがわきませんし。今回は"in the name of God"でお願いだから”という使い方があるそうなので、それを応用した言い回しじゃないかという僕の解釈で訳してみました。曲の流れをみても、愛の名のもとにそんな悪いことはやめなさい、という水戸黄門の印籠(?)みたいな高圧的なニュアンスじゃなく、基本的には”お願いだから”と懇願しているように思えます。ただし、こちらには否はないわけですから、相手の良識や倫理観に訴えるために"in the name of love"という言い回しをしているんじゃないかという気がします。

 

  さて、このタイトルを思いついたのは、モータウンきってのヒット・ソングライター・チーム”ホランド=ドジャー=ホランド”のラモン・ドジャーです。

 きっかけは恋人が浮気現場を突き止めて押しかけてきたときだったそうです。

 

「彼女は僕の居場所を突き止めてドアを叩いていたんだ、「このモーテルで一緒にいるのは誰なの」と大声で叫びながら。もう一人の女の子を裏口からが逃した後に、彼女を入れたんだ」

「彼女が入ってきて、僕は当然嘘をついたんだ、そこで眠っていたって。 僕は最後に言ったんだ、『ここじゃ何も起こっちゃいないし、何もやっていないよ。お願いだから、愛の名のもとにやめてくれないか』と言ったんだ。すると彼女は、『何?面白くないわよ』と言った。私は、『ちょっと待てよ、僕が言ったことを聞いた?愛の名のもとにやめてくれ。レジがチャリンとなる音が聞こえたなかったか?」

                   (CBC

 別のインタビューでは、彼女はかなり気が強くて殴りかかってきたなんて話をしています。しかし、彼が”Stop!in the name of love"と言うと、あまりに陳腐な言い回しに二人で笑ったしまったと。そして、彼女に首を締められながら、レジの音が聞こえなかったか?ヒットしそうなタイトルじゃないか?と言うとまたおたがい笑って、ケンカがおさまった、と話しています。

 Stop!in the name of loveはとっさに出た陳腐な言い回しですが、歌にするとキャッチーなフレーズ、というわけなんですね。

 

 そして、次の日彼がスタジオに行くと、パートナーのブライアン・ホランドがスローテンポの曲を弾いていて、それを聴いたドジャーはテンポを上げるように言い、”Stop!in the name of love”というフレーズをハメて、二人で曲にしていったそうです。

 

 

 この曲はモータウンの契約第一号女性アーティストでいながら、まったくヒットを出せずに後続にも追い抜かれ”ノー・ヒット・スプリームス”と揶揄(自虐も)されていた彼女たちの12枚目のシングルで、最初の全米NO.1ヒット「愛はどこへ行ったの」から4曲連続となるNO.1ヒットになりました(まさにレジがチャリン、チャリン音を立てたわけですね)。

 

 「メイキング・オブ・モータウン」という今まで知らなかった事実がいろいろわかる大変面白い映画なのですが、その中に当時”エチケット・インストラクター”が、アーティストたちに歩き方や話し方や優雅な物腰を教えていたことが描かれていました。

 貧しい出の彼らが、王や女王、セレブたちと交流しても、恥ずかしくならないような心の尊厳を特に重視して教えたのだそうです。

 そして、その成果を全米に知らしめることになったのが、彼女たちスプリームスだったのです。プレスリービートルズをブレイクさせたアメリカの国民的TV番組「エドサリヴァン・ショー」に黒人女性アーティストとして初めて出演します。

 歌ったのは「ストップ・イン・ザ・ネイム・オブ・ラヴ」の一つ前のシングル「カム・シー・アバウト・ミー」でした。


The Supremes "Come See About Me" on The Ed Sullivan Show

 アメリカを代表する女性司会者オプラ・ウィンフリー、は当時10歳でそれが”人生が変わった瞬間”と呼び、あんなに豪華で優雅な黒人女性は初めて見た、と語っています。

 スプリームスは多くの若い黒人女性に夢と可能性自尊心を与えたんですね。黒人音楽の場合は特に、アレサ・フランクリンのように、ゴスペルやソウルを感じさせるアーティストにばかりに敬意が集中してしまいますが、彼女たちのように、ポップ・ミュージック、エンターチンメントの世界で人々に夢を与えた人たちのことも過小評価してはいけないと思います。

 スプリームスは1960年代にNO.1ヒットをたくさん出したグループで片付けちゃいけないんですね。

 

 さて、「ストップ・イン・ザ・ネイム・オブ・ラヴ」をレコーディングした彼女たちはモータウンのヨーロッパ・ツアーに合流し、最初のパフォーマンスがイギリスのTVスペシャルでした。

 この曲のリハーサルを見ていたテンプテーションズのポール・ウィリアムスが振り付けを提案したと言われています。STOP!と手で制するような振り付けが、またこの曲のヒットに少なからず貢献したのかもしれません。


The Supremes - Stop In The Name Of Love

 

 この曲は日本人にも人気がありますね。小室哲哉の”globe”、高橋幸宏などたくさんのアーティストがカバーし、杏里「悲しみがとまらない」や大瀧詠一の「バチェラー・ガール」などもこの曲のインスパイアされた感じが強いですね。

 

 最後は作者のラモン・ドジャー本人のセルフ・カバーを(2002年)。

 浮気の修羅場も今となっては遠い日のいい思い出、とでも言ってるかのような(?)穏やかなヴァージョンです。


Lamont Dozier- Stop! In the Name of Love (Official Audio)

 

 

 

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