まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「Hypotheticals」 レイク・ストリート・ダイヴ (2021)

 おはようございます。

 今日はレイク・ストリート・ダイヴの「Hypotheticals」です。

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Obviously, we’re at the beginning of something

I don’t expect you to know where it’s gonna go

But I believe we might be onto something

I just thought maybe you should know

 

I’ve been playing out a lot of hypotheticals in my mind

I’ve been writing your name down next to mine

Been imagining all the things you and I could do oo oo

 

I’ve seen all the possibilities in my dreams

You’re alone when you should really be next to me

Baby, let’s not wait and see

 

Immediate action isn’t necessary

It’s a fatal attraction, it’s a little scary

But I got a plan of attack and it’ll get us there someday soon, I know it

 

I got a plan A and I got a plan B

And if it’s absolutely necessary we’ll go to plan C

Whatever I gotta do to be with you

 

I’ve been playing out a lot of hypotheticals in my mind

I’ve been imagining all the things you and I could do

I’ve seen all the possibilities in my dreams

You’re alone but you should really be next to me

Baby, let’s not wait and see

 

Nobody can see into the future

Even the weatherman gets caught out in the rain sometimes

But I see something in you that I’ve never seen before

And I can’t be sure, no maybe not, but I think it’s worth a shot

 

Hypothetically yes

Theoretically forever

We'll see what happens but I hope we will never be apart.

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あきらかに、私たち何かの始まりにいるのわ

それがどこに向かっているのか

あなたが知っているなんて思っちゃいない

だけど、何か思い当たることがあるって信じている

 

たぶん、あなたはわかってるってただ思っただけ

 

頭の中でたくさんの仮説を検証してるの

あなたの名前を私の隣に書いているの

 

あなたと私がやりそうなことを全部イメージしながら

 

夢の中であらゆる可能性を見てきたわ 

私の隣にいるべき人はあなただけなの

ベイビー、様子を見るのはやめようよ

 

 

すぐに行動する必要はないわ

それは運命的に心を引きつけるもの 少し怖いけど

だけど私には作戦があるの

わたしたちそこにたどりつけるわ

いつかもうすぐ、私にはわかるの

 

 

私にはAプランとBプランがあり

で、もしどうしても必要ならCプランでいけばいい

あなたと一緒にいるためになんだってするわ

 

 

頭の中でたくさんの仮説を検証してるの

あなたと私がやりそうなことを全部イメージしながら

夢の中であらゆる可能性を見てきたわ 

私の隣にいるべき人はあなただけなの

ベイビー、様子を見るのはやめようよ

 

 

誰も未来を知ることはできないわ

天気予報士だって雨に降られることもある

だけど、私が今まで見たことのない何かが

あなたの中に見えるの

はっきりわからない、違っているかもしれない

だけど試してみる価値はあると思ってるの

 

仮定としては イエス

理論的には 永遠

何が起こるのか見てみましょう

だけど、二人が決して離れないことを願ってる

                        (拙訳)

 

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  1990年代にFMから流れてきたような雰囲気の曲ですが、今年の3月にリリースされたばかりの新曲なんです。

  "Hypothecals"とは、”仮説に基づいた事柄”というような意味らしく、恋する二人の行方をあれこれ仮説を立てて作戦をねるながら、がんばってやってみるわ、というような内容になっています。

 

  レイク・ストリート・ダイヴは、2004年にボストンのニューイングランド音楽院でジャズを学んでいた学生たちで結成されたバンドです。

 メンバーはレイチェル・プライス(ヴォーカル)、マイク・"マックダック"・オルソン(トランペット、ギター)、ブリジット・カーニー(アップライト・ベース)、マイク・カラブリース(ドラムス)の4人。

 彼らはみな子供の頃から楽器を始め、ほぼ全員がクラシックの素養もあるそうです。

 

 レイク・ストリートはマイク・オルソンの出身地ミネアポリスの実際にある通りの名前、ダイヴ(dive)は口語で、安酒場など”いかがわしいたまり場”を指すそうで、実際にレイク・ストリートはそういう店が多かったようです。

 

 オルソンの叔父はトランペッターで1970年代にレイク・ストリートに住んでいて、いろんな店で演奏する時にその通りをいつも歩いていて、少しいかがわしいけれど魅力的でシーンの中心地として伝説的なエリアだったと彼に語ったそうです。

 

 ボストンでアカデミックでフォーマルなものとしてジャズを学んでいた彼らは、そういうところから離れたいと考えていました。

 

「僕たちはもう少し偉大な何かに立ち返りたいと強く望んだんだ。バー・バンドの美学のようなものに。それで、かつてのファンタスティックで気骨のあるレイク・ストリートのイメージは、僕らにはとてもぴったりで、示唆に富んだものだったんだ」

                 (Minnesota Monthly June 19, 2019)

 

 オルソンが最も影響を受けたアーティストはマイルス・デイヴィスだそうですから(ジャズを学んでいたトランペッターですから当然でしょうけれど)、彼らが毎晩、クラブやバーで演奏していた時代への憧れがあったのでしょう。

 

 しかし、このバンドはジャズを演奏することは目的とせず、オルソンは”フリー・カントリー”というジャンルを勝手に作り出していて、自分たちをカテゴライズしていました。

 ドラマーのマイク・カラブリースはこう語っています。

「ぼくたちはビートルズモータウンが一緒にパーティをしているようなサウンドにしたいんだ。僕たちが好きな1960年台や70年代の音楽の要素を、僕たち4人ができるものに適用させているんだ」

                    (Guardian Sun 4 May 2014)

 

 意外にもビートルズを意識しているんですね。しかも、音楽として具体的に分析しながら取り入れているようです。

 以下はオルソンの発言です。

 
 

「バンドが進歩するにつれて、僕たちはバンドの音楽的スタイルに焦点をしぼっていき、ビートルズをいつも基準にしたんだ、アレンジやソングライティング、それぞれの楽器のパートの演奏などのね。それはバンド全体だけじゃなく、メンバー個人それぞれもそうだと思います。僕はジョージ・ハリスンは史上最もメロディックなギタリストの一人だと思うし、彼のギターパートの演奏はいつもすごく優れている。ブリジットは、ポール・マッカートニーのベース・プレイにすごく憧れているし、マイクは猛烈なリンゴ信者で、他の人が何を言っても聞かないんだ」

                (Minnesota Monthly June 19, 2019)

 

 楽曲だけじゃなく、バンドのそれぞれのパートごとの演奏としてビートルズを参考にしているんですね。

 

 彼らはベースのブリジットの書いた曲を録音し「ジョン・レノン・ソングライティング・コンテスト」(そんなコンテストがあったんですね)のジャズ部門に応募し、見事優勝します。

 それがこの曲「Sometimes When I'm Drunk and You're Wearing My Favorite Shirt」

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 そして、その賞金を使って2006年にデビューアルバム「In This Episode...」をリリースします。 

 彼らが注目を集めたのは2012年に、ボストンの路上での演奏をYouTubeにあげたことでした。曲はジャクソン5の「帰ってほしいの(I Want You Back)」でした。

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  これをきっかけに彼らは有名になり、以来コンスタントに作品をリリースしています。

 

 そして、この「Hypotheticals」が収録されたアルバム「Obviously」は、ドクター.ドレ、エミネム、マルーン5、フィオナ・アップルなどと仕事をしているマイク・エリゾンドが、ぜひプロデュースをしたいとリクエストしてきた、一緒に作ったそうです。

 

 また新たなメンバーとして、今回からキーボーディストのアキー・バーミスが加わり、アルバムのソングライティングにも大きく関与しています。

(「Hypotheticals」はベースのブリジットが書いた曲です)

 

 ポップスのグループでバンド・サウンドにこれだけこだわっているのは、いまどきとても珍しいですが、それがかえって彼らの個性になっているとも言えます。

 また、その個性はカバー曲にも、強く反映されています。

 

 2012年の「Fun Machine」はカバー曲集で、ジョージ・マイケルの「FAITH」やウィングスの「Let Me Roll It」などとともにとりあげていたのがホール&オーツの「リッチ・ガール」。

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2015年のハロウィーン企画では「ボヘミアン・ラプソディ」をやっています。

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 そして、今年はキャロル・キング「つづれおり」50周年(!)ということで、「Variety」誌独占でカバー動画をアップしています。

variety.com

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