まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「I NEED YOU」ジョン・バティステ(2021)

 おはようございます。

 ジョン・バティステの「I NEED YOU」です。

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We done a lot of living
We working overtime
Don't need another million
You got that gold mine
I love the way you're livin'
'Cause you so genuine
You got that something special
Didn't you know?
I just need you, you, you

Met you when I was a lil' nappy head boy
And I never put down my alto saxophone, yeah
Buckjumpin' down on the boulevard
I couldn't wait to blow my own horn (Woo)
It ain't wrong for you to play along
Playing this song 'til you die, come on

In this world with a lot of problems
All we need is a little loving
Thank you, thank you, oh, you make me
Thank you, thank you for your love

We done a lot of living
We working overtime
Don't need another million
You got that gold mine
I love the way you're livin' (Hey)
'Cause you're so genuine (Genuine)
You got that something special
Didn't you know?
I just need you, you, you (Come on, now)

Met you when I was a lil' country boy
And I never put down that pork chop and salt
Then we fell in love on the boulevard
If you was Jenny, I guess I was Forrest (Run)
Nah, it ain't wrong for you to sing along
Singing this song 'til you die

In this world with a lot of problems
All we need is a little loving
Thank you, thank you, oh, you make me
Thank you, thank you for your love

We done a lot of living (Whole lotta)
We working overtime (Overtime)
Don't need another million
You got that gold mine (Gold mine)
I love the way you're livin'
'Cause you're so genuine (Genuine)
You got that something special
Didn't you know?
I just need you, you, you
You, you, you, you

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僕たちは生きるためにたくさんのことをやった

残業だってしている

大金なんて必要ない

君は宝の山をもっているんだ

君の生き方が僕は大好きだ

だって君はすごく君らしいから

君には何か特別なものがあるんだ

知らなかった?

僕はただ君が必要なんだ

君に会った時、僕はドレッド・ヘアーの小僧だった

自分のアルト・サックスいつも持ち歩いていた

大通りでバック・ジャンピンするとき

僕もサックスを吹くのが待ちきれなかったよ

君も一緒に演奏したっていいんだよ

死ぬまでこの曲をやろうぜ、さあ

 

この世界は問題が山積みさ

僕らに必要なのはほんの少しの愛情

サンキュー、サンキュー

君に感謝したくなった

君の愛をありがとう

 

僕たちは生きるためにたくさんのことをやった

残業だってしている

大金なんて必要ない

君は宝の山をもっているんだ

君の生き方が僕は大好きだ

だって君はすごく君らしいから

君には何か特別なものがあるんだ

知らなかった?

僕はただ君が必要なんだ


君に会った時僕はただのカントリー・ボーイさ

ポーク・チョップと塩を決して手放さなかったよ

そして、僕たちは大通りで恋に落ちた

君がジェニーなら、僕はフォレストだ

君も一緒に歌ってもいいんだよ

死ぬまでこの歌を歌うんだ

この世界は問題が山積みさ

僕らに必要なのはほんの少しの愛情

サンキュー、サンキュー

君に感謝したくなった

君の愛をありがとう

 

僕たちは生きるためにたくさんのことをやった

残業だってしている

大金なんて必要ない

君は宝の山をもっているんだ

君の生き方が僕は大好きだ

だって君はすごく君らしいから

君には何か特別なものがあるんだ

知らなかった?

僕はただ君が必要なんだ

 
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 ジョン・バティステはルジアナ州出身で、両親はニューオリンズで食料品店と金物店をやっていたそうですが、親族には著名なミュージシャンが多く、バティステ・ファミリーというのはニューオーリンズでも有名な音楽一族だったようです。

 

 この曲の歌詞で”バック・ジャンピン(Buckjumpin' )”という言葉が出てきますが、これはニュー・オリンズマルディグラ(謝肉祭)などで行われるダンスの呼び名のようです。「I NEED YOU」という曲自体も、バック・ジャンピンをモチーフにしているのかもしれません

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 彼は8歳でドラム、パーカッション、11歳からピアノを始め、17歳でジャズピアニストとして、デビューアルバム「Times in New Orleans」を発表します。

 

 そして高校卒業後ジュリアード音楽院に進んだことがきっかけに、活動拠点がニューヨークに移りました。在学中に「LIVE IN N.Y.」というアルバムをリリースするなどジャズ・ピアニストとして鍛錬を重ね、ジュリアードではピアノの学士号と修士号を取得します。

    しかし、それと並行して、ニューヨークのトレンドの影響をうけたようなR&B/HIPHOPのトラックをベースにした作品もインターネットでリリース。ジャズ以外の音楽にも取り組むようになっていきます。

 また、ジュリアードの同期生たちと「STAY HUMAN」というバンドを組み、ストリート・パフォーマンスを積極的に行い、「MY N.Y」というアルバムは全編がニューヨークの地下鉄の中で演奏したものでした。

 「MY N.Y」からマイケル・ジャクソンの「ヒール・ザ・ワールド」

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 そして、2018年にリリースされたメジャーデビュー作「ハリウッド・アフリカンズ」は、多様な音楽を彼のスタイルの中に見事に取り入れた作品になっています。

 

 ショパンから、チャップリンの「スマイル」、ナットキング・コールなど。意外なところではゲーム音楽、ドリカムの中村正人が作曲したゲーム「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」で使われていた「Green Hill Zone」。

 

 しかし、彼のバイオグラフィーを見てみると11歳でピアノを始めた時に、「ストリート・ファイター」や「ファイナル・ファンタジー」やこの「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の曲をコピーして練習していたとありました。

 ゲーム音楽は彼の原点の一つでもあったんですね。

 

 さて、「ハリウッド・アフリカンズ」の中では、僕はこの曲のカバーが優れていると思いました。

 「What A Wonderful World」

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 そして、彼はグラミー賞にノミネートされ注目を集め、2020年にはディズニー・ピクサーの映画「ソウルフル・ワールド(SOUL)」の音楽を担当しています。

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 そして、今年に入って発売されたアルバム「We Are」に収録されているのがこの「I NEED YOU」です。

 『WE ARE』は、現在までの彼の人生の集大成として構想されたそうです。ニューオーリンズで育ち、ニューヨークで大人になるまでの。ジャズに加えて、ソウル、ヒップホップ、R&B、ポップスなどの要素を取り入れています。

 アメリカでアフリカン・アメリカンのミュージシャンたちが生み出してきた音楽を総括しながらも、現代風にそれをおとしこもうとする野心作です。

 

「僕たちが作ったたくさんの音楽はジャンルにフィットしてしまう。僕はそういうシステムに基づいていない音楽を作りたいんだ。ただ存在する音楽があって、それを僕はどんな風に聴いたのか、という。そうすれば、こういう音楽はジャンルレスな音楽を代表するものになる、ただストーリーだけのもので、どんな分類にもなじまない、そういうものに」

         (Atwood Magazine March 19, 2021)

 

  そして、彼が高校まで過ごしたニューオリンズを象徴する曲が「I NEED YOU」なのでしょう。

 僕が注目したいのは「I NEED YOU」というフレーズです。

 日本人でさえ、音楽の中で飽きるほど聴いてきた言葉ですが、この曲の中では、一緒に音楽を歌ったり演奏したりしよう、と声をかけるなかで、相手の生き方や存在を肯定し、最後に”I NEED YOU”と言っているんですね。

 

 ネットで”つながり”の中にいるつもりでも、心の中ではどうしようもなく孤独な現代人にとって、I NEED YOUというのは、いま人間が人から一番言って欲しい言葉、一番元気になれる言葉なのかもしれないと思いました。

 

 ひと昔前なら、こういう軽快な曲調と、真面目な「I NEED YOU」という言葉のトーンの間には少しギャップを感じたかもしれませんが、今の時代では、曲調と言葉のダブルで元気になれる効果が感じる気がします。

 

 高い音楽的インテリジェンスを持ちながら、その才能やセンスで突っ走るのではなく、音楽が人間のつながりや、人の心にどんな働きかけができるかということに、しっかり目を向けているアーティストだな、と思います。

 

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