まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「デイドリーム・ビリーバー(Daydream Believer)」モンキーズ(1967)

 おはようございます。

 今日はモンキーズの「デイドリーム・ビリーバー」です。


The Monkees - Daydream Believer (Official Music Video)

 

Oh, I could hide 'neath the wings
Of the bluebird as she sings
The six o'clock alarm would never ring
But it rings and I rise
Wipe the sleep out of my eyes
My shavin' razor's cold and it stings


Cheer up, sleepy Jean
Oh, what can it mean
To a daydream believer
And a homecoming queen?


You once thought of me
As a white knight on his steed
Now you know how happy I can be
Oh, and our good times starts and end
Without dollar one to spend
But how much, baby, do we really need


Cheer up, sleepy Jean
Oh, what can it mean
To a daydream believer
And a homecoming queen
Cheer up, sleepy Jean
Oh, what can it mean
To a daydream believer
And a homecoming queen


Cheer up, sleepy Jean
Oh, what can it mean
To a daydream believer
And a homecoming queen
Cheer up, sleepy Jean
Oh, what can it mean
To a daydream believer
And a homecoming queen

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ああ、僕はその羽根の下に隠れるのさ
青い鳥が歌っている間
6時にかけた目覚ましが鳴らなきゃいいのに
だけどやっぱり鳴って、僕は起きる
眠い目をこすって目をさます
髭剃りが冷んやりしてチクチクする


元気出せ、眠たげなジー
なんてことないだろ
夢ばかり見てる男と
学園祭の女王にとってみたら


かつて君は僕のことを
白馬の騎士だと思っていたね
今や君はわかってる、どんなに僕が幸せかって
ああ、僕らの楽しい時間は始って終わるまで
1ドルもかからない
でも、僕らに本当に必要なのはいくらなのかな?

 

元気出せ、眠たげなジー
なんてことないだろ
夢ばかり見てる男と
学園祭の女王にとってみたら

                   (拙訳)

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 間違いなく日本人がTVで耳にする回数が最も多い洋楽曲の一つです。ひょっとしたら若い人は洋楽だと知らない人のほうが多いんじゃないかという気もしますが、、。

 

 TV番組からアイドルを生み出す”仕掛け”というのは、今では全然目新しくはないですが、そのパイオニアだったがこのモンキーズです。

 

 1960年代半ば、TV番組と連動させて人気バンドを作るという狙いのもと彼らは集められました。メンバー4人中ミュージシャンは2人、俳優が2人でした。真偽はわかりませんが、最初はラヴィン・スプーンフルのメンバーをそのままモンキーズにしようという案もあったらしいです。

 

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 このコンセプトには映画「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」が大きなヒントになったようです。メンバーがコミカルな演技をすることで親しまれることが、大きなプロモーションになると考えたのかもしれませんが、「ザ・モンキーズ」という30分のコメディ番組を作り、並行して曲をリリースしました。そして、これが大成功し、瞬く間に彼らは世界的な人気者になりました。

 

彼らのデビュー曲「恋の終列車 (Last Train to Clarksville)」(1966年全米1位)

www.youtube.com

 

 そんな彼らの代表曲がこの「デイドリーム・ビリーバー」です。

  作者はジョン・スチュワート。

 彼はキングストン・トリオというフォーク・グループに在籍し、ソロになってからもアーシーで渋いフォーク、カントリー系のロックの楽曲を作っていた人で、彼の歌声を聴くとモンキーズのイメージとはかなりギャップを感じるとは思います。

 

 ちなみに彼は最初この曲をソフトロック・グループの”ウィ・ファイヴ”(彼の弟のマイケル・スチュワートが在籍していました)や”スパンキー&アワ・ギャング”に提案したのですが採用されず、自身のライヴで歌ってもなんのリアクションもなかったそうです。

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 しかし、あるパーティで出会ったモンキーズのプロデューサーのチップ・ダグラスから曲を探していると言われ、この曲を歌って聴かせ、後日テープを渡したところすぐに採用されることになったそうです。

 

  ちなみに、この曲が大ヒットした後、1971年には彼が自身のアルバム(「The Lonesome Picker Rides Again」)でセルフカバーしています。


Daydream Believer-John Stewart

 

 渋くて味わいがありますが、スパンキー&アワ・ギャングが却下し、ライヴでもウケなかったというのもよくわかる気がします。。。

 ヒット曲というのはただ曲が良ければいいわけじゃなくて、誰にどんなアレンジで歌わせるかというのがその命運を握っているんですね。チップ・ダグラスでもトミー・リピューマでも、このブログに登場する大ヒットプロデューサーたちは皆そのセンスがずば抜けているわけです。

 

 ちなみに、ジョン・スチュワートは2番のAメロの三行目

 ”Now you know how happy I can be”

を”Now you know how funky I can be”   と歌っています。

 

 実はジョンがもともと書いたオリジナルは”funky”だったのですが、メンバーのミッキー・ドレンツが言うには、モンキーズの関係者が"funky"は彼らには似合わない、として変えさせたのだそうです。

 今でこそ、funkyはカッコいい言葉ですが、本来は臭い、垢抜けてない、みたいな意味を含んでいたので、好ましくはなかったのでしょう。

 デイビー・ジョーンズは僕が変えさせたんだとインタビューで答えているので、言い出しっぺは誰かはっきりしませんが、とにかく、いかにもアイドルらしいエピソードだと思います。

 

 ただ、ここの歌詞は<若い頃は君は僕を白馬の騎士だと思っていたけど、結婚した今は僕がいかにファンキーか知っている>と過去と現在のギャップを歌っているので、happyにしてしまうとそのギャップは消えてしまいます。この変更に対し当初ジョンは意味が通らなくなるから大反対だったようです。ただ、モンキーズのヴァージョンをスタジオのブースで初めて聴いた時に、これはヒットすると思い、実際大ヒットしたので不満はないようです。。。

 

 それから、ジョンが最初にこの曲を着想した時に、彼は自身で郊外生活三部作(suburbia trilogy)を毎日毎日、朝から晩まで書いていて、ある晩ベッドに入った時に

全部が無駄に思えたそうで、

「俺が今日やってきたことはまるで”デイドリーム・ビリーバー”じゃないか」と思って、そこから曲ができたと語っていました。

 

 <デイドリーム・ビリーバー>と言う言葉は、もともとは、夢追い人、叶うかどうかもわからないない夢を追いかけている男、といった”売れないソングライターの現実”から生まれた、苦味を含んだ言葉だったんですね。

 

 それを郊外生活を送る若い夫婦の歌にして、それをまたモンキーズが歌うことで

<デイドリーム・ビリーバー>は夢みがちな男、夢見心地な男というちょっと”ほんわかした”ニュアンスで広まっていくことになったわけで、それをよく表しているのが<funky→happy>の変更だったのだと思います。

 

 

 

 

 さて、この曲は昔から日本でも根強い人気があって、僕は1980年にコダックのTVCMでこの曲が使われたのを聴いて、それに合わせて再発されたシングル盤を買ったのをおぼえています。

 しかし、最初のリリースから50年以上の月日が流れた今、日本では忌野清志郎が歌詞をつけたタイマーズのヴァージョンの方が定着したわけですから不思議なものです。

 


THE TIMERS - デイ・ドリーム・ビリーバー (Hammock Mix)

 タイマーズは、大麻ザ・タイガース(野球じゃなくて沢田研二のほう)を混ぜた名前で、偽善的な社会に反発しゲリラ的なアクションを起こすバンドとして、風刺的、諧謔的な意味も込めて、わざと「デイドリーム・ビリーバー」のようなど真ん中の商業的なポップスを取り上げたわけです(彼らは「モンキーズのテーマ」も「タイマーズのテーマ」というタイトルでカバーをしていますが、歌詞は全編”大麻”を暗示するような内容になっています)が、そういった意味合いもいつか時間とともに薄れていってしまいました。

 

 そして残ったのは、一つの曲としての「デイドリーム・ビリーバー」。忌野清志郎は「タイマーズのテーマ」のような過激なアプローチはせず、オリジナルにでてくる言葉を残しながらもまったく新しい世界を生み出しています。ラフに何気なく書いているように見せて、実は彼らし繊細さがしっかり行き届いた歌詞だと思います。

 そして、オリジナルの歌詞と清志郎の歌詞では決定的な違いがあります。

 

 モンキーズのほうは歌の主人公は元学園祭の女王だったパートナーと結婚して一緒に暮らしているのですが、清志郎の歌詞では主人公の相手はもういなくなっているのです。曲の設定としては正反対です。

 

 オリジナル・ヴァージョンで描かれていたのは、郊外に住んでいる同じ学校出身の若いカップル。男性は早く起きて仕事に行かなければいけない。いろいろ現実も見えてきたし、いまだに夢ばかり見て腰の落ち着かない僕だけど、二人なら大丈夫さ。そんな歌です。

 

 清志郎のほうは、「もう今は彼女はどこにもいない」わけです。主人公は「ずっと夢を見て安心してた」。でも、そのうちに彼女はいなくなった。まるで、オリジナルの後日譚のようにも思えます。ただ、夢ばかり見ている男に愛想つかして出ていったわけじゃない。彼女は写真の中で微笑んでいるわけから、亡くなっているわけです。そして、彼女と過ごした日々を感謝しながら懐かしんでいる。

 

 深い喪失感もありながら、そこにはあたたかい情感があります。こちらの歌詞がオリジナルより複雑で深みがある。少なくとも日本人に訴えかけてくるのはこっちでしょう。モンキーズの歌詞はやはりアメリカらしく、夢見る人を決して否定はしないものです。

 

 ちなみに、ネットを見ると清志郎の歌詞は亡き母に捧げたものだという記事があったり、自分の奥さんへの想いだという考察もありました。

 僕は、彼は自分の奥さんを思い浮かべたんじゃないかなという気がします。モンキーズの歌詞に一度自分自身を当てはめててみて、そこから相手を亡くしてしまったという設定にすると、<夢ばっかり見ている男>は、素晴らしい奥さんと<夢みたいな暮らし>ができたということで、<デイドリーム>というワードに二つの夢の意味が重なってくるわけです。

 

 これは僕の妄想なので真偽は分からないのですが、僕は勝手に決め込んで、さすが、日本ロック史上最高の作詞家だと唸ってしまいました。

 

 この曲が日本のスタンダードになったのは、もちろんTVCMの長期間にわたる大量のオンエアのおかげでしょうが、オリジナル楽曲に清志郎が吹き込んだ”新たな命”とも呼ぶべき、日本人らしい情感というのが、その根っこを支えているように僕は思います。

 

 

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