まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ニュー・フロンティア(New Frontier)」ドナルド・フェイゲン(1982)

 おはようございます。

 今日はドナルド・フェイゲンの「ニュー・フロンティア」。

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Yes we're gonna have a wingding
A summer smoker underground
It's just a dugout that my dad built
In case the reds decide to push the button down
We've got provisions and lots of beer
The keyword is survival on the new frontier

Introduce me to that big blonde
She's got a touch of Tuesday Weld
She's wearing Ambush and a French twist
She's got us wild and she can tell
She loves to limbo, that much is clear
She's got the right dynamic for the new frontier


Well I can't wait 'til I move to the city
'Til I finally make up my mind
To learn design and study overseas


Do you have a steady boyfriend
Cause honey I've been watching you
I hear you're mad about Brubeck
I like your eyes, I like him too
He's an artist, a pioneer
We've got to have some music on the new frontier


Well I can't wait 'til I move to the city
'Til I finally make up my mind
To learn design and study overseas


Let's pretend that it's the real thing
And stay together all night long
And when I really get to know you
We'll open up the doors and climb into the dawn
Confess your passion, your secret fear
Prepare to meet the challenge of the new frontier

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そうさ、僕たちはパーティをやるのさ
地下にある夏の喫煙所で
そこはオヤジが作ったただの防空壕
共産主義者たちがボタンを押したに備えて作ったんだ
食料もあるし ビールもたくさん
キーワードは新しいフロンティアでのサバイバル

あのスゴイ金髪の娘を僕に紹介してくれ
彼女はチューズデー・ウェルドに似てるね
アンブッシュの匂いがして、髪はフレンチ・ツイストにしている
彼女は僕らを夢中にするし、彼女もそれをわかってる
彼女はリンボーダンスが大好き、それははっきりわかるよ
彼女には新しいフロンティアにピッタリな活力がある


都会に出て行って
デザインを学び、外国で勉強するって
ついに決心する日が待ちきれないよ


ちゃんと付き合っているボーイフレンドはいるの?
だって、ハニー、僕はずっと君を見てたんだ
君はデイヴ・ブルーベックに夢中らしいね
君の瞳が好きで、僕も彼が好きなんだ
彼は芸術家でありパイオニア
新しいフロンティアには音楽が必要なんだ


都会に出て行って
デザインを学び、外国で勉強するって
ついに決心する日が待ちきれないよ


本物だってふりをしようよ
そして一晩中一緒にいよう
そして君のことを本当に知ったら
ドアを開けて夜明け中を出てゆこう
君の情熱と、心に秘めた恐怖を告白するんだ
新しいフロンティアへの挑戦に備えるんだ

                   (拙訳)

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 スティーリー・ダンというグループのメンバーです。当初はバンドとしてスタートしましたが、やがてドナルド・フェイゲンウィルター・ベッカーとのユニットになりました。

 この「ニュー・フロンティア」は、ドナルドのソロ・アルバム「ナイトフライ」からのシングル曲。このアルバムは彼の少年時代が反映された自伝的な作品として知られています。

 「ニュー・フロンティア」はケネディ大統領の打ち出した政策の名前。アメリカは東から西に向かって、未開拓地を開拓していった推進力を元に発展していった国で、土地の開拓はあらかた終わって停滞感のあった当時の社会に再び活力を与える意味で、他の分野にはまだまだ未開拓地がある、とケネディは主張したわけです。当時ドナルドは13歳から15歳という最も多感な時期だったのでなおさら強い印象として残っているのでしょう。

 そして、ケネディ時代には「キューバ危機」がありました。アメリカと険悪な関係だったソ連キューバに核ミサイル基地を作っていて、そこからアメリカに核弾頭が打ち込まれるんじゃないかという恐怖感が国民全体に広まったのです。家の庭に核シェルターを作った人もいたそうです。

 そして、この「ニュー・フロンティア」は両親の留守中にガールフレンドを呼んで、親が作った核シェルターの中でパーティーをしようよ、という歌なんです。

 

 さて、ドナルド・フェイゲン、そしてスティーリー・ダンは、レコーディングで自分のイメージした世界を細部の細部まで追求する、極端なまでの完璧主義で知られています。

 アメリカでトップ中のトップのミュージシャンを集め、ものすごい時間をかけてレコーディングし、そのあげく気に入らないとためらいなくボツにする、そういうことが延々と続いたらしいです。スティーリー・ダンの「ガウチョ」というアルバムは制作費が1億円もかかったという話があります。

 

 そしてスティーリー・ダンの解散が発表された翌年1982年に発表された「ナイトフライ」というアルバムも、凄腕のミュージシャンたちが集められています。そして、やはり、超絶テクニシャンの彼らの本領を発揮するようなプレイはさせず、ドナルドがイメージするものに忠実な演奏をさせたようです。

 

 そして、妥協せずに作り上げた結果として、「ナイトフライ」は今も古さを感じさせない傑作として不動の地位を得ています。

 

 「ナイトフライ」の楽曲のコンセプトについてドナルド自身はアルバムのインナーにこう書いています。

 

「このアルバムの収録曲は、50年代の末から60年台の初頭にかけて、アメリカ北東部の都市の辺鄙な郊外で育った男の子が楽しんでいたようなファンタジーを表している ー だいたい僕くらいの背丈、体重、体格の男の子が」

 

 確かにこの「ニュー・フロンティア」に出てくる女の子は、女優のチューズデイ・ウェルドに似ていて、当時の有名な香水”Ambush"をつけていて、髪はフレンチ・ツイストにしているなんて描写があります。あと、当時はリンボー・ダンスが人気だったんですね。

 チューズデイ・ウェルドはWikipediaでは”セクシャリティを演じる、衝動的で向こう見ずな女性を演じることが多い”と評されていて、他には”ティーンのセックス・シンボル”と書いてある記事もありました。

   また、"Ambush"はこの当時甘ったるくてくどい香りの香水として有名だった、という記述も見つけました。

 これで、この女性がどんな感じかイメージできますね。

 また、具体的な個人名や商品名などを挙げることにより、この曲の舞台となった時代の映像が浮かびやすくなるという効果があると思います。

 また、このアルバムは、他のスティーリー・ダンの作品やドナルドのソロ作品と比べて、ほんの少しですが、優しい、というか軽やかな空気感があります。

 スティーリー・ダンの解散の理由は相棒ウォルター・ベッカーがドラッグで自滅していったことが大きかったらしく、「ガウチョ」の制作は重苦しいものだったと言われています。

 その状況から、いったん解放されたことが最も大きく影響したと思いますし、1980年代前半という時代の、歴史的にも異色の、明るい空気感が、厳格な完璧主義者で偏屈者(?)のドナルドの気分にまでにも紛れ込んだ、そういうこともあったのではないか、と僕は推測しています。

 

 それからこの「ナイトフライ」はジャケットがとても有名ですよね。一昔前は”お洒落なカフェやバー”で飾られているアルバム・ジャケット・ランキング第1位だったんじゃないかと、僕は思います(今はあまりに定番になりすぎて避けられているかもしれないですけど)。

   彼自身がラジオのDJに扮していますね。”The Nightfly"とはオールナイトで放送する、架空の"ジャズのDJ"の名前です。また、アルバムが「ナイトフライ」に決まる以前は<トーク・レディオ(Talk Radio)>というタイトルで進行していたそうです。

 

 昔は、趣味の中でかなりポピュラーなものとして「レコード鑑賞」「音楽鑑賞」というのがありました。初めはクラシックやジャズがその対象だったと思いますが、ポップ・ミュージックにも鑑賞に見合ったクオリティのものが作られるようになりました。きっかけはやはり、ビートルズです。

 ドナルド・フェイゲンはこう言っています。

ビートルズから学んだのは、なによりまず、ひとつひとつのアルバムを贈り物のつもりで作らなきゃダメだということだ。軽々しく考えちゃいけない」

 (「スティーリー・ダン Aja作曲術と作詞法」)

 

 彼の言葉には、アルバムという形式に対する愛情、敬意、そして誇りが感じられます。

 今はポップ・ミュージックは「鑑賞」するものではなく、ライヴで「体験」することがメインになりました。それは時流ですから否定するつもりはありません。

 でも、かつてアルバムを聴くという行為が、一本の映画を見るのに似た期待感、そして充足感(ハズレももちろんありましたが)を持たせてくれたと僕は記憶しています。そういう時代の傑作をじっくり聴き直すことは、今でも何かの意義があることなんじゃないかなと思います。

 

 そういう作品の代表作の一つは、間違いなくこの「ニュー・フロンティア」が収録されたアルバム「ナイトフライ」であると僕は思います。

 

 それでは、最後にこのアルバムからの1stシングル(「ニュー・フロンティア」はセカンド・シングルでした)で全米26位のヒットとなった「I.G.Y」を。

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