まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「懐かしき恋人の歌(Same Old Lang Syne)」ダン・フォーゲルバーグ(1980)

 おはようございます。

 今日はダン・フォーゲルバーグ「懐かしき恋人の歌(Same Old Lang Syne)」です。

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Met my old lover in the grocery store
The snow was falling Christmas Eve
I stole behind her in the frozen foods
And I touched her on the sleeve
She didn't recognize the face at first
But then her eyes flew open wide
She went to hug me and she spilled her purse
And we laughed until we cried


We took her groceries to the checkout stand
The food was totaled up and bagged
We stood there lost in our embarrassment
As the conversation dragged
Went to have ourselves a drink or two
But couldn't find an open bar
We bought a six-pack at the liquor store
And we drank it in her car


We drank a toast to innocence
We drank a toast to now
And tried to reach beyond the emptiness
But neither one knew how

 

She said she'd married her an architect
Who kept her warm and safe and dry
She would have liked to say she loved the man
But she didn't like to lie
I said the years had been a friend to her
And that her eyes were still as blue
But in those eyes, I wasn't sure if I
Saw doubt or gratitude
She said she saw me in the record stores
And that I must be doing well
I said the audience was heavenly
But the traveling was hell


We drank a toast to innocence
We drank a toast to now
And tried to reach beyond the emptiness
But neither one knew how
We drank a toast to innocence
We drank a toast to time
Reliving in our eloquence
Another 'auld lang syne'


The beer was empty and our tongues were tired
And running out of things to say
She gave a kiss to me as I got out
And I watched her drive away
Just for a moment I was back at school
And felt that old familiar pain
And as I turned to make my way back home
The snow turned into rain

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スーパーマーケットで昔の恋人に会った
雪が降っていたクリスマス・イブのことさ
冷凍食品のコーナーで
彼女の後ろにそっと近づいて
袖に触れてみた
彼女は、最初僕の顔に気づかなかったけど
その後、驚いて目を見開いた
彼女は僕を抱きしめようとして財布を落としてしまった
そして、僕たちは泣くまで笑ったんだ


僕たちは彼女の買ったものをレジまで運んだ
会計が終わって、袋詰めが終わっても
二人だらだらと会話を続けながら
気まずいままそこに立っていた

 

僕たちは軽く飲みに行くことにした
だけど、開いているバーが見つからず
酒屋で6本入りパックを買って
彼女の車の中で飲んだ


無垢だった二人に乾杯
今に乾杯
むなしさを乗り越えようとしたけれど
二人ともその方法を知らなかった

 

彼女は建築家と結婚したと言った
彼は彼女を暖め、守り、乾いた心にさせた
彼女はそいつのことを愛していると言いたかったのかもしれない
だけど、彼女は嘘をつくのが好きじゃなかった
僕は言った、今までの年月は君に味方してくれたんだね、と
彼女の瞳は今も青かった
だけど、その瞳の中にあるのが
疑いなのか感謝なのか僕にはわからなかった
彼女はレコード店で僕を見て、
きっとうまくいっているに違いないと言った
僕は言った
観客は素晴らしいけど旅の生活は地獄だと


無垢だった二人に乾杯
今に乾杯
むなしさを乗り越えようとしたけれど
二人ともその方法を知らなかった
無垢だった二人に乾杯
今に乾杯
昔話に花が咲いて蘇ってきたんだ
あの懐かしき日々が


ビールは空になり、僕らは話し疲れて
何もしゃべることもなくなった
彼女は僕が車を降りるときにキスをした
そして僕は彼女が走り去るのを見送った
一瞬だけ、学生に戻って
あの昔なじみの胸の痛みを感じた
そして、僕が振り返り、家に帰ろうとすると
雪は雨に変わっていた

             (拙訳)

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「懐かしき恋人の歌(Same Old Lang Syne)」の楽譜はこちら

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蛍の光」として日本でも有名な「Auld Lang Syne」はスコットランドの方言で、直接英語に変換すると"Old Long Since”。過ぎ去りしなつかしき昔”のような意味になるそうです。

 そこに「Same Old」(いつもの、よくある)を重ねた”しゃれ”なんですね。

 

 ダン・フォーゲルバーグは自身のwebサイトで”この曲は実際に起こった出来事なんですか?”という質問にこう答えています。

 

「そう、まったくその通りなんだ。1975年か76年に、僕はイリノイ州ピオリアの実家で家族とクリスマスを過ごしていたんだ。アイリッシュ・コーヒーを作るためにホイップクリームを買いにコンビニに行ったら、まったく思いがけず高校時代のガールフレンドに出会ったんだ。この曲の続きは、その時ことを語っているのさ」

 

また、こんな記事も見つけました。

「最初に、彼はチャイコフスキーの「1812年(序曲)」をアドリヴでポップなメロディにアレンジして、ミュージシャンの友人たちと面白半分に演奏していた。そして、風変わりな個人的な創造性への挑戦として、その冗談をさらに一歩進めた。そして、”ソングライティングの技術を磨く練習として、何もないところから、もしくは取るに足らないことから、何か歌にしてみよう”と自分に言った。

 そして、彼はコンビニエンスストアでの感傷的な再会を歌にすることにした。しかし、やり続けるうちに、この曲は驚くほどの感情的な重みを持つようになった。 

”タイトルはいい語呂合わせとして思いついた”と彼は後に語っている。「そして突然、自分が意図していなかった大きな痛みと悲しみが、この曲の中に生まれ育っていることに気がついたんだ。そして、この曲はひとり歩きし始めたんだ。僕自身はこの曲が日の目を見ることになるなんては思ってもいなかったよ」

(ampgoo.com  2020.12.08)

 

 彼は昔の恋人との再会を歌にしようとして作ったのではなく、まずチャイコフスキーの「1812年」のポップ・ヴァージョンを面白半分に作っていて、そこに彼女に再会した話を軽い気持ちで歌詞にしていくうちに、本人も思いもかけないほど、感情的な重みを持つ作品になっていったということなんですね。

 

 創作物において、作り手が100%コントロールできてしまうようなものは、実は受け手を感動させることはできなくて、作り手が思いもかけなかった方向に向かい、作品そのものが動き始めたようなものこそが、何か特別なマジックを持つことができるのでしょうね。

 

 

 さて、この「懐かしき恋人の歌」をダンの高校時代の恋人だったジル・グルーリッチは偶然ラジオで聴いたそうです。彼女は当時客室乗務員で空港に車で向かっていたときのことでした。

 

「まだ外は暗くて、ラジオからダンのような曲が流れてきたの。彼の新曲が出ることは知らなかったから、彼の声を聞いて興奮したわ。そして、歌詞を聞いていくと、『えっ、待って、、何?そこにいたのは私、私よ!"って思い始めたの」

 (Chicago Tribune  DEC 17, 2020)

 彼女が心打たれたことは、彼が再会したクリスマス・イヴに起こったことをほとんどそのまま歌にしていたということでした。

 

 しかし、彼女は「懐かしき恋人の歌」の女性が自分であることを公言すると、ダンの仕事に影響が出ると考えて、ずっと黙っていたそうです。

 そして、2007年に彼が亡くなった後に、地元のメディアにその事実を初めて話しました。

 

 高校時代に二人は恋人同士で、当時近くの展望台までドライブして、ジョニ・ミッチェルやクロスビー・スティルス&ナッシュを聴くのが好きだったそうです。卒業後はダンはミュージシャンになるためにLAに、彼女は教師になるためにシカゴへと、それぞれの道を歩むようになりました。

 

 歌には若干事実とは違うこともあったようです。例えば彼女の瞳の色は青じゃなく緑で、そのことについて後日ライヴの楽屋で彼女がダンに尋ねると

「青は緑より韻を踏みやすいんだ」と彼は笑いながら説明したそうです。

 

 しかし、彼女は自分が話したことについての反響のあまりの大きさにその後は取材をずっと断ってきたそうですが、発売40周年にあたる昨年(2020年)メディアにこの曲について語っていました。

「”男性からも女性からも、自分にも同じような経験があるというメッセージをたくさん受け取っています”と彼女は言う。”それがこの曲が時代を超えて残っている理由なのだと思います”」

(Chicago Tribune  DEC 17, 2020)

 

 ちなみに、この曲の舞台となったコンビニエンス・ストアがあったイリノイ州ピオリアの「Abingdon Streetは」、2008年にダンにちなんで「Fogelberg Parkway」に名前を変えたそうです。

 

 最後はこの曲の歌詞をそのまま再現したビデオがありましたのでそれと、ダン・フォーゲルバーグのライヴ動画を。

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「懐かしき恋人の歌(Same Old Lang Syne)」の楽譜はこちら