まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「シー・ビリーヴズ・イン・ミー(She Believes In Me)」ケニー・ロジャース(1979)

 おはようございます。

 今日は先日亡くなったケニー・ロジャース。彼が”スーパー・スター”への階段を上り始めるきっかけとなった名バラード「シー・ビリーヴズ・イン・ミー」です。

(当時の邦題が”ビリーヴズ”と濁っているので表記はそれに倣いました)


She Believes In Me

 

 ”彼女が眠っている間

 僕は夜遅く 外の店で自分の歌を演奏している

 時々 夜がとても長くなることもあるけど いいんだ

 ひとりになって、ちゃんと家にたどりつけるなら

 彼女が夢を見ている間

 僕は灯りをつけずに 着替えようとしていると

 静かに彼女はたずねる ”今夜はどうだった?”

 それで僕は彼女のそばに行って答える

 ”よかったよ” そして 彼女をしっかり抱きしめた

 

 彼女は僕を信じてくれる

 僕の中に何を見ているのか まったくわからないけど

 いつか、もし彼女になってくれたら 僕のこのささやかな歌で世界を変えてみせる

 と彼女に言ったけど 僕は間違っていた、、

 でも、彼女は信じてくれている

 だから僕は心を込めてやり続ける

 だって、いつか特別な夜に 僕の歌が受け止めれ

 道が開けることだって ないとは限らないだろう

 

 彼女がベッドの中で待っている間

 僕は軽く何か食べようとキッチンに行くと

 暗がりに僕の古いギターが見える ただ僕を待っている

 僕だけが知っているの友達のように ずっとずっと

 

 彼女が横たわって泣いている間

 僕は曲のフレーズをなんとかひねり出そうとしている

 そして僕は、やらなければいけない物事の間で気持ちがかき乱されている

 すると、彼女は言うんだ ”それが終わったら起こしてね” と

 神様、彼女は本当に僕を愛してくれている、、”(拙訳)

 

 売れないシンガー・ソングライターと彼を信じるパートナーの女性のストーリーになっています。

 僕がこの歌詞から感じるのは”実直さ”です。作り物じゃなくソングライターの心からの気持ちを書いているんだなと思うんです。

 

 この曲を書いたのはスティーヴ・ギヴというカントリー系のシンガー・ソングライターです。

 フロリダ州生まれミシシッピ州育ちと、ヴァージニア州生まれという記事をあって正確にはわかりませんが、彼は典型的な南部の少年としてカントリーとブルースに親しんで育ち、2歳でポリオになって歩けなかったことからピアノを始めてクラシックを学んだそうです。

 そして、大学を卒業する時には、様々な楽器をマスターしその才能を活かすためミュージシャンを目指し、ミシシッピ・デルタ地域を中心に、クラブ、ラウンジ、バーなどで連日演奏するようになり、その中で歌う仕事もあったため自分でも歌うようになったそうです。

 当初から彼は自身はミュージシャンというより、ソングライターだという思いが強かったようで、自分の曲が世にでるように売り込みをしていたがなかなかうまくいかなかったようです。

 その中でブレンダ・リーやサミー・スミスというカントリーの女性シンガーに曲を使ってもらえたことをきっかけに、彼はチャンスを求めて”カントリーの聖地”ナッシュビルに向かいます。

 しかし、ナッシュビルでもピアノ・バーで毎日演奏する日々だったようです。

 ここまで書くと「シー・ビリーヴズ・イン・ミー」は間違いなく彼の本音、実感を書いたことがわかります。彼には彼を支えてくれたロミーというパートナーがいたそうです。

  その後、プロデューサーのバズ・ケイソンが彼の才能を認め一緒に音楽出版社を立ち上げ、彼の曲のプロモーションを始めたことで、状況が動いだします。

 「シー・ビリーヴズ・イン・ミー」がケニー・ロジャースに取り上げられることになったのです。実は全く同じタイミングでT.Gシェパードというカントリー・シンガーもこの曲を取り上げ、ケニーよりひと月早くリリースされたアルバムに収録しています。

 また同時期に、ヘレン・レディという女性シンガーが彼の「If Ever Have To Say Goodbye To You」を取り上げています。


Helen Reddy - If I Ever Have To Say Goodbye To You

 そしてこれがチャンスとばかりにスティーヴはこの曲を自分でも歌いシングルでリリースします。


Steve Gibb - She Believes In Me

 彼はピアニストですから”old guitar ”という歌詞が"old piano"になっています。

オリジナルはこっちなんですね。派手さはないですが、この曲が”リアル・ストーリー”であることがはっきり伝わってきます。

 そして、翌年ケニー・ロジャースがこの曲をシングルカットすると大ヒットになるわけです。

  ケニーは1950年代半ばから音楽活動を始め、最初のシングルは1958年でその後バンド活動をメインに続けて、ソロとして正式にデビューしたのが1976年38歳の時ですから、相当長い年月に渡って下積みをしていたわけです。

 また彼の追悼記事を見ると、ケニー自身がまだちゃんと売れていない時期(1969年から1970年頃)に、彼はイーグルスドン・ヘンリーが初めて組んだバンドの面倒を見て、レコード契約の後押しやアルバムのプロデュースまで手厚いフォローをしたことが書かれていて、ドンは彼を寛大で面倒見のいい人物だと語っていました。

  そういう”実直な苦労人”のケニーが歌う「シー・ビリーヴズ・イン・ミー」もまた、聴き手が”ケニーの本当の話なんだろう”と思ってしまう説得力があるのかもしれません。

 この曲のヒットによって、ケニーはカントリー・シンガーから、バラード・シンガーとしての地位も確立していくことになります。

 そして、ライオネル・リッチーデヴィッド・フォスターという”ポップ”バラードの名手たちと組んで大ヒットを飛ばしていきます。

 

 曲を書いたスティーヴの方も、ケニーのヒットを受けて大急ぎでアルバムを作ります。「シー・ビリーヴズ・イン・ミー」は冒頭に置かれ、「If Ever Have To Say Goodbye To You」も収録されています。またアルバムから「Look What You've Done」という曲は同年にマーティ・ロビンスに、2年後にポール・アンカにとりあげられています。

 そのアルバム「LET MY SONG」は、よく1980年に日本で注目されることになります。

 アルバムの中の「Tell Me That You Love Me」が田中康夫の大ベストセラー小説「なんとなくクリスタル」の中で、主人公の大好きな曲として歌詞入りで紹介されていたからです。

 この小説は映画化され、サントラ盤にもこの曲は収録されたことで、日本ではAORの定番の1曲になっています。

 


Steve Gibb – Tell Me That You Love Me

 

「シー・ビリーヴズ・イン・ミー」はスティーヴが歌詞に願いを込めて書いた通りに、世界に広がって彼の道を切り開いてくれたわけですね。

 2009年には元ボーイゾーンのローナン・キーティングがカバーし全英2位の大ヒットになり、再びこの曲が脚光浴びることになりました。


Ronan Keating - She Believes (In Me)

 

 それからチューリップに「約束」という曲がありますが、これは「シー・ビリーヴズ・イン・ミー」がヒントになったのではないかと、僕は勝手に推測しています。 

 主人公はやはり売れないミュージシャン(♪売れないギターの腕を恨んだ〜)。そして、彼には一緒に暮らしていた女性がいました。ただ、この歌では、二人は別れてしまっていて、主人公は”あの頃にもう一度戻りたい”と悔恨の気持ちを込めて歌います。

青春の影」ほどの知名度はありませんが、隠れた名曲だと思います。


チューリップ「約束」

21 Number Ones

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  • アーティスト:Rogers, Kenny
  • 発売日: 2005/12/07
  • メディア: CD
 

 

 

 

10 Years of Hits

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  • アーティスト:Keating, Ronan
  • 発売日: 2004/10/11
  • メディア: CD