まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「シー・ビリーヴズ・イン・ミー(She Believes In Me)」ケニー・ロジャース(1979)

 おはようございます。

 今日は先日亡くなったケニー・ロジャース。彼が”スーパー・スター”への階段を上り始めるきっかけとなった名バラード「シー・ビリーヴズ・イン・ミー」です。

(当時の邦題が”ビリーヴズ”と濁っているので表記はそれに倣いました)


She Believes In Me

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While she lays sleeping, I stay out late at night and play my songs
And sometimes all the nights can be so long
And it's good when I finally make it home, all alone
While she lays dreaming, I try to get undressed without the light
And quietly she says how was your night?
And I come to her and say, it was all right, and I hold her tight


And she believes in me, I'll never know just what she sees in me
I told her someday if she was my girl, I could change the world
With my little songs, I was wrong
But she has faith in me, and so I go on trying faithfully
And who knows maybe on some special night, if my song is right
I can find a way, find a way


While she lays waiting, I stumble to the kitchen for a bite
Then I see my old guitar in the night
Just waiting for me like a secret friend, and there's no end
While she lays crying, I fumble with a melody or two
And I'm torn between the things that I should do
And she says to wake her up when I am through
God her love is true


And she believes in me, I'll never know just what she sees in me
I told her someday if she was my girl, I could change the world
With my little songs, I was wrong
But she has faith in me, and so I go on trying faithfully
And who knows maybe on some special night, if my song is right
I can find a way, while she waits while she waits for me

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 ”彼女が眠っている間

 僕は夜遅くまで外で 自分の歌を演奏している

 時々 そんな夜がとても長くなるけれど

 ひとりきりで、ちゃんと家にたどりつけるならいいのさ

 

 彼女が夢を見ている間

 僕は灯りをつけずに 着替えようとしていると

 静かに彼女はたずねる ”今夜はどうだった?”

 それで僕は彼女のそばに行って答える

 ”よかったよ” そして 彼女をしっかり抱きしめた

 

 彼女は僕を信じてくれる

 僕の中に何を見てくれているのかさえ まったくわからないけど

 いつか、もし彼女になってくれたら 僕のこのささやかな歌で世界を変えてみせる

 と彼女に言ったけど 僕は間違っていた、、

 でも、彼女は信じてくれている

 だから僕は心を込めてやり続ける

 だって、いつか特別な夜に 僕の歌が受け止めれ

 道が開けることだって ないとは限らないだろう

 

 彼女がベッドの中で待っている間

 僕は軽く何か食べようとキッチンに行くと

 暗がりに僕の古いギターが見える ただ僕を待っている

 僕だけが知っているの友達のように ずっとずっと

 

 彼女が横たわって泣いている間

 僕は曲のフレーズをなんとかひねり出そうとしている

 そして僕は、やらなければいけない物事の間で気持ちがかき乱されている

 すると、彼女は言うんだ ”それが終わったら起こしてね” と

 神様、彼女は本当に僕を愛してくれている、、

 

 彼女は僕を信じてくれる

 僕の中に何を見てくれているのかさえ まったくわからないけど

 いつか、もし彼女になってくれたら 僕のこのささやかな歌で世界を変えてみせる

 と彼女に言ったけど 僕は間違っていた、、

 でも、彼女は信じてくれている

 だから僕は心を込めてやり続ける

 だって、いつか特別な夜に 僕の歌が受け止めれ

 道が開けることだって ないとは限らないだろう

 彼女が待っている間に 僕を待ってくれている間に”

                         (拙訳)

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 売れないシンガー・ソングライターと彼のことを信じるパートナーの女性とのストーリーです。

 僕がこの歌詞から感じるのは”実直さ”です。

    全く架空のものじゃなく、下積みを続けるソングライターの心からの気持ちをそのまま書いているんだなと歌を聴きながら感じます。

 

 この曲を書いたのはスティーブ・ギブというカントリー系のシンガー・ソングライターです。

 フロリダ州生まれミシシッピ州育ちと、ヴァージニア州生まれという記事があって、どちらかはわかりませんが、彼は典型的な南部の少年としてカントリーとブルースに親しんで育多町です。そして、2歳でポリオになって歩けなかったことからピアノを始めてクラシックを学んだとのことです。

 

 そして、大学を卒業する時には、様々な楽器をマスターしその才能を活かすためミュージシャンを目指し、ミシシッピ・デルタ地域を中心に、クラブ、ラウンジ、バーなどで連日演奏するようになり、その中で歌う仕事もあったため自分でも歌うようになったそうです。

 当初から彼は自身はミュージシャンというより、ソングライターだという思いが強かったようで、自分の曲が世にでるように売り込みをしていたがなかなかうまくいかなかったようです。

 その中でブレンダ・リーやサミー・スミスというカントリーの女性シンガーに曲を使ってもらえたことをきっかけに、彼はチャンスを求めて”カントリーの聖地”ナッシュビルに向かいます。

 しかし、ナッシュビルでも結局はピアノ・バーで毎日演奏する日々だったようです。

 

 ここまで書くと「シー・ビリーヴズ・イン・ミー」は間違いなく彼の本音、実感を書いたことがわかります。彼には彼を支えてくれたロミーというパートナーがいたそうです。

  その後、プロデューサーのバズ・ケイソンが彼の才能を認め一緒に音楽出版社を立ち上げ、彼の曲のプロモーションを始めたことで、状況が動きだします。

 

 「シー・ビリーヴズ・イン・ミー」がケニー・ロジャースに取り上げられることになったのです。実は全く同じタイミングでT.Gシェパードというカントリー・シンガーもこの曲を取り上げ、ケニーよりひと月早くリリースされたアルバムに収録しています。

 

 また同時期に、1072年に女性の地位向上を訴えた「I Am Woman(私は女)」が全米NO.1になったシンガー、ヘレン・レディが彼の「If Ever Have To Say Goodbye To You」を取り上げています。

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 そして、これがチャンスとばかりにスティーブはこの曲を自分でも歌いシングルでリリースします。

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 彼はピアニストですから”old guitar ”という歌詞が"old piano"になっています。

 オリジナルはピアノなんですね。彼のバージョンは派手さはないですが、この曲が”リアル・ストーリー”であることがはっきり伝わってくる、まさに”実直な”仕上がりだと思います。

 そして、その翌年ケニー・ロジャースがこの曲をあらためてシングル・カットすると大ヒットになったわけです(1979年全米5位)。

 

  

 ケニーは1950年代半ばから音楽活動を始め、最初のシングルは1958年でその後バンド活動をメインに続けて、ソロとして正式にデビューしたのが1976年38歳の時ですから、相当長い年月に渡って下積みをしていたわけです。

 また彼の追悼記事を見ると、ケニー自身がまだちゃんと売れていない時期(1969年から1970年頃)に、彼はイーグルスドン・ヘンリーが初めて組んだバンドの面倒を見て、レコード契約の後押しやアルバムのプロデュースまで手厚いフォローをしたことが書かれていて、ドンは彼を寛大で面倒見のいい人物だと語っていました。

  そういう”実直な苦労人”のケニーが歌う「シー・ビリーヴズ・イン・ミー」もまた、聴き手が”ケニーの本当の話なんだろう”と思ってしまう説得力があるのかもしれません。

 この曲のヒットによって、ケニーはカントリー・シンガーから、バラード・シンガーとしての地位も確立していくことになります。

 そして、ライオネル・リッチーデヴィッド・フォスターという”ポップ”バラードの名手たちと組んで大ヒットを飛ばしていきます。

 

 曲を書いたスティーヴの方も、ケニーのヒットを受けて大急ぎでアルバムを作ります。「シー・ビリーヴズ・イン・ミー」は冒頭に置かれ、「If Ever Have To Say Goodbye To You」も収録されています。またアルバムから「Look What You've Done」という曲は同年にマーティ・ロビンスに、2年後にポール・アンカにとりあげられています。

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 スティーブのアルバム「LET MY SONG」は、翌1980年に日本で注目されることになります。

 アルバムの中の「Tell Me That You Love Me」が田中康夫の大ベストセラー小説「なんとなくクリスタル」の中で、主人公の大好きな曲として歌詞入りで紹介されていたからです。

 この小説は映画化され、サントラ盤にもこの曲は収録されたことで、日本ではAORの定番の1曲になっています。

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 「シー・ビリーヴズ・イン・ミー」はスティーヴが歌詞に願いを込めて書いた通りに、世界に広がって彼の道を切り開いてくれたわけですね。

 2009年には元ボーイゾーンのローナン・キーティングがカバーし全英2位の大ヒットになり、再びこの曲が脚光浴びることになりました。


Ronan Keating - She Believes (In Me)

 

 それから、チューリップに「約束」という曲がありますが、これは「シー・ビリーヴズ・イン・ミー」がヒントになったのではないかと、僕は勝手に推測しています。 

 主人公はやはり売れないミュージシャン(♪売れないギターの腕を恨んだ〜)。そして、彼には一緒に暮らしていた女性がいました。ただ、この歌では、二人は別れてしまっていて、主人公は”あの頃にもう一度戻りたい”と悔恨の気持ちを込めて歌います。

青春の影」ほどの知名度はありませんが、隠れた名曲だと思います。


チューリップ「約束」

 

Kenny Rogers 21 Number Ones

 

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