まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「アイ・ゴー・クレイジー(I Go Crazy)」ポール・デイヴィス(1977)

 

 おはようございます。

 今日はポール・デイヴィスの「アイ・ゴー・クレイジー」を。

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   ” やあ 久しぶりだね 

   あれから僕が笑ったり微笑んだりするのをおぼえたと知ったら

   君は喜ぶだろうな

 

            君を忘れるのにすごく時間がかかった

   昔の恋人は良き友人になれると人は言うけど

   君に会いたいなんて決して思わなかった もう一度会いたいなんて、、

 

   僕はおかしくなりそうだ

   君の瞳を見つめると今もまだおかしくなってしまう

           僕の心は あの頃の思いを隠しきれないんだ

   心の奥深くにある、、

   ああ、ベイビー、僕は君の瞳を見ると気が変になってしまう

 

   今の彼は君の思いを満たしてくれると君は言う

   君に自分の夢を全部語ってくれるんだね

   それが君にはとても大切なことだって僕にもわかるよ

 

   僕は何もわかっちゃいなかったんだね

           君のことはもう忘れたと思っていたけど

   君の顔を見たら そうじゃなかった ああ、そうじゃなかったんだ

 

   僕はおかしくなりそうだ

   君の瞳を見つめると 今もまだおかしくなってしまう

           昔の炎が蘇って 胸の中で燃え始めるんだ 胸の奥深くで

   ああ、ベイビー、僕は君の瞳を見ると気が変になってしまう

 

     僕はおかしくなりそうだ

   君の瞳を見つめると今もまだおかしくなってしまう

           僕の心は あの頃の思いを隠しきれないんだ

   心の奥深くにある、、

           僕はおかしくなってしまいそうなんだ   ” (拙訳)

   

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Hello girl it's been awhile
Guess you'll be glad to know
That I've learned how to laugh and smile

Getting over you was slow
They say old lovers can be good friends
But I never thought I'd really see you,
I'd really see you again

I go crazy
When I look in your eyes I still go crazy
No my heart just can't hide that old feelin' inside
Way deep down inside
Oh baby, you know when I look in your eyes I go crazy

You say he satisfies your mind
Tells you all of his dreams
I know how much that means to you

I realize that I was blind
Just when I thought I was over you
I see your face and it just ain't true
No it just ain't true

I go crazy
When I look in your eyes I still go crazy
That old flame comes alive, it starts burning inside
Way deep down inside
Oh baby, you know when I look in your eyes I go crazy


I go crazy
You know when I look in your eyes I go crazy
No my heart just can't hide that old feelin' inside
Way deep down inside
I go crazy

 

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 ”一九七八年のポール・デイヴィスのヒット曲、「アイ・ゴー・クレイジー」が、かかり始める。

 <アイ・ゴー・メランコリー、アイ・ゴー・グルーミーだわ>と思いながら、ベッドに落ちているセーラムの箱を拾い上げてみる。枕元にあったディスコのマッチで、火をつける。

 深く吸い込んでみると、メンソールの味が肺の中へとひろがってくる。でも、相変わらず気分はたまらなくグルーミーなままだ。 

                  

 

  これは、1980年に出版され100万部を超えたという、田中康夫の大ベストセラー小説「なんとなく、クリスタル」のはじめの方で、主人公”由利”がつぶやく一節です。

 この小説で取り上げられるまでは、「アイ・ゴー・クレイジー」は日本では洋楽ヒットチャート・マニアにしか知られていないといってもいい曲でした。

 

 アメリカでは1977年8月に発売され、全米チャートでピークの7位になったのが翌78年の3月だったという、本当に”じわじわ”売れていきました。また、全米チャートに40週間入り続けたというのは当時の新記録でした。

 

 この曲が記録を作ったことは当時の音楽雑誌か、新聞の洋楽を扱った記事で読んだ記憶がありますが、どちらにしてもとても小さな記事だったはずです。

 

   ヒットチャートをマメにチェックする中学生だった僕は、ディスコやAORなどノリのいい曲、明るめな曲が多い時代の中にあって、なんだかすごく”暗い曲”だと思ったのをよくおぼえています。

 

 

  ポール・デイヴィスはミシシッピ州生まれでナッシュビルにも住んでいたことから、身近にはカントリー・ミュージックがありましたが、R&Bにも大きな影響を受けていたそうです。

 彼はBangレコードと契約を結びますが、Bangは以前にニール・ダイアモンドが所属していて、その後釜的存在と目されていました。

 

 1970年に「A Little Bit of Paul Davis」というアルバムでデビューしますが、興味深いのは「ビー・マイ・ベイビー」(ロネッツ)「ダ・ドゥ・ロン・ロン」(クリスタルズ)「ドゥー・ワ・ディディ・ディディ」(マンフレッド・マン)といったポップ・マスターピースをエリー・グリニッチと共に書いたジェフ・バリーが数曲プロデュースし、アルバムのライナー・ノーツを書いていることです。

 

 またエルヴィス・プレスリーのアルバムをプロデュースしたチップス・モーマンもプロデュースに参加していますので、彼はそういった素晴らしい実績を持つ人からも評価される才能だったのだと思います。そして、彼らから学ぶことも多かったはずです。

 

 「アイ・ゴー・クレイジー」は五枚目のアルバムに収録されていた、彼にとって九枚目のシングル。彼は当初この曲をR&Bシンガー、ルー・ロウルズが歌えば売れるからプレゼンしてほしいとレーベルに訴えていたそうです。

 しかし、レーベルはその代わりに彼のヴァージョンをリリースし、時間をかけて大ヒットになったというわけです。

 

 この曲を発売したBangレコードと契約している会社が日本にはなかったため、国内盤は発売されませんでした。タワーレコードが日本に進出したのが1980年ですから、この当時国内盤が出なければ日本でほとんど知られることはなかったのです。

 

 「なんとなく、クリスタル」の大ヒットを受けて、日本では1981年に映画化されました。

 主演はかとうかずこ。それに、その後山下久美子斉藤由貴南野陽子などの曲を書き売れっ子作曲家となる亀井登志夫が相手役として出演しています。

 映画は全編洋楽が使われていたようで、「アイ・ゴー・クレイジー」はメインテーマとしてサントラの1曲めに入り、シングル・カットもされました。

 

 アメリカのヒットから3年以上経って、やっとこの曲は日本でも人気を集めることになったのです。

 

 「なんとなく、クリスタル」の映画は残念ながら僕は見逃してしまっていたのですが、冒頭でこの曲が使われていたようです。

 

 

  「アイ・ゴー・クレイジー」が収録されているアルバム「Singer of Songs – Teller of Tales(邦題:アイ・ゴー・クレイジー)からは他に「Sweet Life」が全米17位のヒットになっています。 

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 そして彼は1980年に「DO RIGHT」(全米23位)を収録したアルバム「Paul Davis(邦題:パステル・メッセージ)」をリリースし、1981年にはクライヴ・デイヴィスが率いるアリスタに移籍して、彼の最大のヒット作「クール・ナイト」をリリースします。ここからは「クール・ナイト」(全米11位)「'65 Love Affair」(全米6位)というヒットが生まれました。「アイ・ゴー・クレイジー」の物憂げな雰囲気は消え、1980年代らしい都会的洗練とキャッチーさを見事に自身の作風に取り入れることに成功し他と言えるでしょう。


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 そして「クール・ナイト」から第三弾シングルは、黒人男女混成コーラス・グループ”フレンズ・オブ・ディスティンクション”の1970年に全米6位になった大ヒット「Love Or Let Be Me Lonely」のカバーでした(全米40位)。この曲はビル・ウィザースの「Lovely Day」やE,W&Fの「Can't Hide Love」などを手掛けたスキップ・スカボローの最初のヒット曲でもあります。

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 「クール・ナイト」の大ヒットでどんどん勢いに乗るかと思われましたが、彼はその後一線から退きます。マリー・オズモンドやダン・シールズなどにカントリー系のヒット曲を提供していました(マリーとはデュエットしています)。

 

 その理由は謎のままですが、作風を自身の原点であるカントリーに戻したこと、最大のヒット「'65 Love Affair」をバブルガム(売れ線)だと気に入ってなかったという記事などをみると、「クール・ナイト」は彼にとってやや不本意なものであり、アリスタとの関係は良好なものではなかったのではないかと僕は推測します。

 アリスタとの契約解除の際、その後のアーティスト活動を制限されてしまったのか、もしくは、彼自身がもううんざりしてしまったのか。もちろん、これも僕の推測でしかありませんが。

 とにかく2008年に心臓発作で亡くなる(60歳)まで、アーティストとしての彼の作品を聴けなかったのはすごく残念なことだったと思います。

 

 

 

 

 

 大昔、この本片手にAORのレコードを探し回ったものでしたw

 

田中康夫氏のインタビューをはじめ「なんとなくクリスタル」周辺のAORにスポットをあてた内容です

 

「なんとなくクリスタル」のサントラ盤にも収録されていました

popups.hatenablog.com

 

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