まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました(苦笑)。古今東西のポップ・ソングをエピソード、歌詞の和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。みなさんの音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの情報や思い出話などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ザ・クリスマス・ソング (The Christmas Song)」ナット・キング・コール(1961)

 おはようございます。

 今日はナット・キング・コールの「ザ・クリスマス・ソング」です。

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Chestnuts roasting on an open fire
Jack Frost nipping at your nose
Yuletide carols being sung by a choir
And folks dressed up like Eskimos
Everybody knows a turkey and some mistletoe
Help to make the season bright
Tiny tots with their eyes all aglow
Will find it hard to sleep tonight


They know that Santa's on his way
He's loaded lots of toys and goodies on his sleigh
And every mother's child is gonna spy
To see if reindeer really know how to fly


And so I'm offering this simple phrase
To kids from one to ninety-two
Although it's been said many times, many ways
Merry Christmas to you


And so I'm offering this simple phrase
To kids from one to ninety-two
Although it's been said many times, many ways
Merry Christmas to you

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暖炉で焼かれている栗
君の鼻を凍えさせるジャック・フロスト(霜の妖精)
聖歌隊が歌うクリスマスのキャロル
エスキモーみたいに着込んだ人たち
誰でも知っている 七面鳥ヤドリギ
この季節を華やかにしてくれる
瞳を輝かせた小さな子供たちは
今夜はなかなか眠れないな


サンタがやって来るって知ってるんだ
たくさんのおもちゃやお菓子をそりに載せて
どの子もみんな見張ってるのさ
トナカイが本当に空を飛べるのか知りたくて


だから、このシンプルなフレーズにしよう
1歳から92歳の子供たちへ
何度も言われ、たくさんの言い方があるけれど
メリー・クリスマス、あなたに

だから、このシンプルなフレーズにしよう
1歳から92歳の子供たちへ
何度も言われ、たくさんの言い方があるけれど
メリー・クリスマス、あなたに

              (拙訳)

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 この曲を書いたのはロバート・ウェルズ(作詞)とメル・トーメ(作曲)。メル・トーメジャズ・シンガーとしても名高い人ですが、彼の息子でやはりジャズ・しんがーであるジェームス・トーメはこの曲が書かれた時のことをこう語っています。

 

 「この曲が発売された前年の1945年の夏、その夏はとても暑くて、いわゆる酷暑だったんだ。父は、当時の曲作りのパートナーであったボブ・ウェルズという人の家に行ったんだ。すると、ウェルズの姿はどこにもなかった。だけど、ピアノのところにノート(スパイラル・パッド)が置いてあったんだ。そこには鉛筆で4行走り書きされていた。”暖炉で焼かれている栗 君の鼻を凍えさせるジャック・フロスト 聖歌隊が歌うクリスマスのキャロル エスキモーみたいに着込んだ人たち”と。

 やがてボブ・ウェルズが姿を見せるとこう言った、”いいかい、メル、僕はクール・ダウンさせるためにあらゆることをやってみたんだ。プールにも入った。冷たい飲み物も飲んだ。冷たいシャワーも浴びた。でも暑いだけなんだ。それで、もしかしたら、冬らしい詩を何行か書き留めれば、心理的にこの暑さを克服できるんじゃないかと思ったんだ」

 

「それで、父はボブを見つめ、スパイラル・パッドに目を落とし、そしてウェルズをもう一度見つめて、「この歌詞には何かがあると思うよ」と言ったんだ。そして約45分後、それ以上はかかっていない、この曲は誕生したのさ」

 (NPR  December 25, 2017)

 

 この曲はクリスマス・ソングを作る仕事ではなく、”暑気払い”として書かれたものだったんですね。

 

 曲の出来上がりに二人は大満足だったようで、メル・トーメは自伝でこう書いていたそうです。

「興奮して、僕たちはカルロス・ガステル(ナット・コールとペギー・リーのマネージャー)に電話して、ハリウッドに急行し、彼のために演奏し、次に(作詞家の)ジョニー・バークのために演奏し、そしてナット・コールがこの曲に惚れ込んでしまったのさ」

 (Performing Songwriter   December 5, 2016)

 

 ここで疑問なのは自身も素晴らしいシンガーであったメル本人がなぜ歌わなかったのだろう?ということですが、調べてみると1945年頃は、彼がちょうどシングル盤を出し始めたくらいの時期で、ナット・キング・コールのほうは大ブレイク寸前という勢いがあったタイミングだったんですね。自信作ですから売れそうな人に歌ってほしいと思うのは当然かもしれません。

 

 ちなみに、この曲を書いたロバート・ウェルズもメル・トーメユダヤ人。宗教的にクリスマスは祝わないんですよね。「ホワイトクリスマス」を書いたアーヴィング・バーリンも、「赤鼻のトナカイ」「ロッキン・アラウンド・ザ・クリスマス」などたくさんクリスマス・ソングを書いたジョニー・マークスも、「Let It Snow! Let It Snow !Let It Snow!」を書いたサミー・カーンとジュール・スタインもそう。

 調べてみたら「サンタが町にやってくる」「ウィンター・ワンダーランド」「Have Yourself a Merry Little Christmas」「そりすべりSleigh Ride)」の作者もそうらしく、僕たちの馴染みのある定番のクリスマス・ソングの多くがユダヤ人の作家によるものなんですね。

 

 アメリカ大陸にやってきたユダヤ系の移民は、当初はまだニッチだった映画や音楽といった娯楽産業に活路を見出したと言う話を聴いたことがあります。

 ジャズの時代にポピュラー・ミュージックの発信地だったニューヨークのティン・パン・アレイにも数多くのユダヤ人移民が働いていたと言われているので、ソングライターの数自体も多かったと思いますが、彼らは宗教的なつながりがない分、宗教観にとらわれない、大衆の楽しみとしてのクリスマスを客観的な視点でとらえることができたんじゃないか、と僕は推測しています。

 

 

  さて、ナット・キング・コールはこの曲を大変気に入ってレコーディングしようとしたそうですが、レコード会社は黒人シンガーがクリスマス・ソングをリリースした前例がなかったので二の足を踏んだそうです。しかし、彼の強い熱意と彼の人気がものすごく盛り上がっていた状況を考えて許可したようです。

 彼は、4回レコーディングしたと言われています。1946年に2回、それから1953年、そして1961年。

一般によく耳にすることが多く、冒頭で紹介しましたアニメーション動画でも使われているのが、1961年のヴァージョンです。

 

 せっかくなので、他のヴァージョンも聴いてみましょう。

 まずは一番最初のレコーディング(1946年6月)。こちらは当初発売されず、1989年にリリースされたコンピレーションで初めてお披露目になりました。

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 そしてその2ヶ月後の1946年8月に行われた2回目のレコーディングをしました。最初の録音を気に入らなかったコールはこの曲にはストリングスが必要だと考えたのです。

ピアノ・トリオで人気を博していた彼の曲にストリングスが入ることでジャズ色が弱くなるのではないかと、レコード会社側は懸念していたそうですが、コールの考えの方が正解だったわけですね。

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 そして、 3度目の録音は1953年8月。フランク・シナトラエラ・フィッツジェラルドなどジャズの大物たちと仕事をした編曲家、作曲家ネルソン・リドルがオーケストラを指揮しています。(僕は1982年のリンダ・ロンシュタットのアルバム「ホワッツ・ニュー」で彼を知りました)

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 そして1961年にナット・キング・コールは4度目の録音を行ったわけです。アレンジャーはラルフ・カーマイケル。彼の仕事はジャズに限らず、日本のかなりコアなソフト・ロック・ファンに知られ、後年は主にCCM(コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック)のフィールドで活動していました。

 

  一方、作曲したメル・トゥーメもその後人気シンガーになり、この曲をナット・キング・コールと同じく4回録音していたようです。

  その中から1955年の最初の録音を。

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 最後はカバーを1曲。この曲はカバーが本当に多いので選ぶのが難しかったのですが、オリジナルに忠実なアレンジのカバーがほとんどの中で、思い切ってマーヴィン・ゲイ調を巧みに取り入れたブライアン・マックナイトを選びました。2008年の「I'll Be Gome For Christmas」に収録されていたものです。

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