まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲を選曲しました(苦笑)。古今東西のポップ・ソングをエピソード、歌詞の和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。みなさんの音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの情報や思い出話などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「オール'55(Ol' '55)」トム・ウェイツ(1973)

 おはようございます。

 今日はトム・ウェイツ「オール'55(Ol' '55)」です。

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Well, my time went so quickly
I went lickety-splitly out to my ol' fifty-five
As I pulled away slowly, feeling so holy
God knows I was feeling alive


Now the sun's coming up
I'm riding with Lady Luck
Freeway cars and trucks
Stars beginning to fade
And I lead the parade
Just a-wishing I'd stayed a little longer
Oh Lord, let me tell you that the feeling getting stronger


And it's six in the morning
Gave me no warning, I had to be on my way
Well, there's trucks all a-passing me, and the lights all a-flashin'
I'm on my way home from your place


And now the sun's coming up
I'm riding with Lady Luck
Freeway cars and trucks
Stars beginning to fade
And I lead the parade
Just a-wishing I'd stayed a little longer
Oh Lord, let me tell you the feeling getting stronger

 

And my time went so quickly
I went lickety-splitly out to my ol' fifty-five
As I pulled away slowly, feeling so holy
God knows I was feeling alive


And now the sun's coming up
I'm riding with Lady Luck
Freeway cars and trucks
Freeway cars and trucks
Freeway cars and trucks

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オレの人生はあっという間に過ぎてゆく
なじみの55年型に慌ただしく乗り込んで

神聖な気分で、ゆっくり車を走らせた
神様はわかっているさ
オレが生きているって実感していたことを


今、太陽が昇ってゆく
オレは幸運の女神と一緒
フリーウェイには、車とトラック
星は消え始めた
そして、オレはパレードを引き連れている
ただ、もう少しだけ長くいたいと願いながら
ああ、神様、その気持ちがどんどん強くなっていると
あなたに言わせてください


今は朝の6時
警告はなかったけど、帰らなきゃいけなかったんだ
ああ、トラックはみな追い抜いゆく、ライトを点滅させて
オレはおまえの家から帰る途中


今、太陽が昇ってゆく
オレは幸運の女神と一緒だ
フリーウェイには、車とトラック
星は消え始めた
そして、オレはパレードを引き連れている
ただ、もう少しこのままでいたいと願いながら
ああ、神様、その気持ちがどんどん強くなっていると
あなたに言わせてください


オレの人生はあっという間に過ぎてゆく
なじみの55年型に飛び乗って
神聖な気分で、ゆっくり車を走らせた
神様はわかっているさ
オレが生きているって実感していたのを


今、太陽が昇ってきた
オレは幸運の女神と一緒だ
フリーウェイには、車とトラック
フリーウェイには、車とトラック、、、

           (拙訳)

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 トム・ウェイツはこの曲について「VH1 STORY TELLER」というライヴ作品のMCで、ラリー・ビザールという古い友人にインスパイアされたものだ、と語っています。

 

 だいたいこんな話です。

 トロピカーナ・ホテルに滞在していた彼の部屋に深夜2時ごろ、ラリーがやって来て

デートした17歳の女の子をパサディナまで車で送らなければいけないから、ガソリン代をもらえないかと言われて、彼の作ったジョークと交換に金を渡したそうです。しかも、ラリーの車のギアはリバースしか使えない状態だったので、彼はパサディナ・ハイウェイをゆっくり逆向きで走ったんだ、などとウソかホントかわからない話なんですが。

 

 また、彼は、これは55年型のビュイック・ロードマスターの歌だとそのビデオの冒頭で言っています。ただ、曲の歌い出しの直前には、”なんの車だっけ?キャディラックだ”などと、はぐらかしています(苦笑。

 

 ともかく、若い女の子とデートして家に送った後、オンボロ車でちんたら走りながら至福感に浸っている男の歌なんですね。逆走かどうかはともかく、あまりに遅いので後続車が渋滞し始めた様子を”パレード”といっているのも見事な言い回しです。

 

 でも、そんなシチュエーションに、生きることの儚い喜びを、そっと重ねて、深いところに響く情感を生み出す彼のソングライティングの手腕には感服するしかありません。しかも、これがデビュー・シングルで、当時23歳だったというんですから、もういやになっちゃいますけど。

 

 ただ、生きていてものすごいドラマに遭遇するのは、一流のアスリートやアーティストとか、ごく限られた人だけで、僕たちはもっぱらドラマとも呼べないうぷな小さな”浮き沈み”に一喜一憂しながら生きているわけですが、そういうドラマとも呼べない”浮き沈み”にこそ、人生の機微というか、大げさに言えば”深淵”のようなものが見えてくるものなのかもな、などと僕はこの歌を聴きながら思ったりもします。

 

 この曲には、ある人たち(僕もそうですが)特別な磁力があるようで、カバーもよくされています。”トム・ウェイツだからいいんだよ”と言いそうになりますが、でも、無性に歌ってみたくなる気持ちもよくわかります。

 

 一番有名なのは、1974年のイーグルスのカバー。

 ウェイツは「ちょっときれい過ぎてつまらない(a little antiseptic)」「ペンキが乾くのを見るのと同じくらいエキサイティング」と酷評していたようです。とは言っても、彼らのおかげでこの曲は有名になったわけですし、、。

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 イーグルスと同じ年にリリースされたイアン・マシューズのカヴァー。

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 1975年のエリック・アンダーソンのカバー。

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 組とも素晴らしいアーティストですが、ことこの曲に関してはご本家に任せた方が、と思わなくもないですが、この曲の磁力に惹きつけられたんでしょうね。

 

 さて、カリフォルニア州に生まれたトム・ウェイツは、ボブ・ディランに大きな影響を受け、ダイナーやレストランに勤めながら客の会話を書きとめて、曲作りに生かしていったそうです。

 

 そして、ロサンゼルスに向かい、ジェームス・テイラーキャロル・キングエルトン・ジョンビリー・ジョエルなど、数々の大物たちが若き日に出演していた名門ライヴハウス”トルバドール”のオーディションに合格し、レギュラーで演奏するようになったことでレコード・リリースのチャンスを掴みました。。

 彼に最初に目をつけたのがハーブ・コーエン。リンダ・ロンシュタットフランク・ザッパなどのマネージャーをやっていた人です。彼を介して、ジェリー・イエスターと知り合い、イエスターのプロデュースでデビューアルバムが制作され、その中の1曲がこの「オール'55」でした。

 デビュー・アルバム「クロージング・タイム」は曲も素晴らしく、歌声もまだ”ドス”が効き過ぎていないので、彼のアルバムの中では個人的に一番好きです。

 

 最後にこのアルバムからもう1曲。彼のデビュー・アルバムをリリースしたレーベル”エレクトラ”の社長だったデヴィッド・ゲフィンは、ライヴでこの曲を聴いて驚いて、彼との契約を急がせた、なんて話もあるそうです。

 その曲が「グレープフルーツ・ムーン」。

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