まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「I Can't Wait」佐藤博(1982)

 おはようございます。

 今日は佐藤博の「I Can't Wait」です。

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Honey, is that you?
I just now walked in the door
It's so good to hear your voice
Now it's you I'm aching for

I can't wait
Till I lose this weary day in your embrace
See your face
Don't be long 'cause I can't wait

Couldn't work all day
I just dreamed about last night
It's incredible sometimes
Having love back in my life

I can't wait
Till I lose this weary day in your embrace
See your face
Don't be long 'cause I can't wait

Honey, yes I do
Feel we're closer all the time
And I'm thankful I'm the one
That you can't get off your mind

I can't wait
Till I lose this weary day in your embrace
See your face
Don't be long 'cause I can't wait

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ハニー、あなたなの?

今ドアの中に入ったところよ

君の声が聞けるなんてなんて素敵なんだ

僕が会いたくてたまらなかったのは君さ

 

待ちきれない

君に抱かれて、この疲れた1日を消し去るのを

君の顔を見て

時間をかけないで 待ちきれないんだ

一日中働けなかった

昨夜のことをただ思い浮かべて

信じられないよ、時々

僕の人生に愛を取り戻すなんて

待ちきれない

君に抱かれて、この疲れた1日を消し去るのを

君の顔を見て

時間をかけないで 待ちきれないんだ


ハニー、そうなの

いつだって二人は近くに感じている

そして、感謝しているのさ

僕が君の心から追い払えない存在だっていうことを

待ちきれない

君に抱かれて、この疲れた1日を消し去るのを

君の顔を見て

時間をかけないで 待ちきれないんだ

     (拙訳)

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「I Can't Wait」は数ある日本のシティポップのアルバムの中でも名盤の誉れ高いアルバム「AWAKENING」に収録されている人気ナンバーです。

 

  佐藤博は京都で育ち、1970年代には細野晴臣鈴木茂林立夫と”ティンパンアレイ”に松任谷正隆の代わりに参加したり、鈴木茂と”ハックルバック”を結成したり、細野晴臣泰安洋行』、吉田美奈子『FLAPPER』、大瀧詠一Niagara Moon』、山下達郎『SPACY』などに参加するなど、当時最高の鍵盤奏者の一人とされています。しかし、調べてみると、ギターを最初に始めて、その次に始めたのがドラムとベースで、ピアノは20歳から独学で身につけたといいますから驚いてしまいます。

 

  もともと、曲を作り歌うことへの興味の強かった彼は1976年に「SUPER MARKET」、1977年に「Time」1979年に「ORIENT」と三枚のソロアルバムを発表していますが、もともと彼が望んでいなかった歌謡曲などのスタジオミュージシャンの仕事が増えたことや、日本の音楽の状況に嫌気がさし、1979年に活動の拠点をLAに移します。

 そして、エイモス・ギャレット、スペンサー・デイビス、マリア・マルダー、ランディ・クロフォードといった人たちと活動をともにしていたそうです。

 

 LAには2年ほど滞在していたそうですが、そこで彼は”Linn Drum LM-1”というドラムマシーンと出会います。当時初めてドラムの音をサンプリングして、生のドラムに近いニュアンスを再現できるものでした。

 

 ”Linn Drum LM-1”は当時500台ほどしか生産されなかったというレアなマシーンですが、例えば、1981年のこのヒット曲のドラムは”Linn Drum LM-1”です。しかも、これをプログラミングしたのが、あのスーパー・ドラマー、ジェフ・ポーカロでした。

 

  ジョージ・ベンソン「Turn Your Love Around」

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 他にも、プリンスがアルバム「1999」でこのマシーンを多用して、彼のサウンドのトレードマークになりました。

 そして、その次の機種”Linn Drum LM-2”はもっとたくさんのアーティストに使われ、1980年代サウンドを象徴するものになっています。

 

 Linn Drumは佐藤の友人が持っていたのだそうです。

「『これは俺の時代が来た』って思いましたよ。京都の頃、蔵に籠って一人で多重録音するのが好きだったんです。でリン・ドラムをハービーハンコックが使っているのを聴いて「これを使えば好きに作れる」と思った。それが「AWAKENING」です。」

               (Light Mellow 和モノ Special)

 

 「AWAKENING」の演奏は、ギターで山下達郎鳥山雄司松木恒秀が参加している以外は、佐藤のキーボードとプログラミングで演奏されています。

 当時のシティポップは、優れたスタジオ・ミュージシャンのアンサンブルをベースに作ることが定石でしたから、ひとりでドラムマシーンを打ち込んで多重録音するスタイルは異彩を放っていました。

 しかし、当時、ドラムマシーンというと僕はテクノとか無機質なものと結びつけていましたが、彼の生み出したサウンドはヒューマンな感じがあるんですよね。一人多重録音は世界観がはっきり打ち出せる反面、閉鎖的というか風通しが悪くなる傾向があると思いますが、「Awakening」には不思議な体温や空気感を感じます。

 その音楽がイメージさせるリゾートは、湘南でもハワイでも南太平洋の楽園でもなく、想像にしかないもののように思えてきます。そんなことを考えると、この作品はかえって、発売当時より、リアルとヴァーチャルの端境が曖昧な世界に生きる今の時代の方が、しっくりハマって聴こえるような気が僕にはするのです。

 

 最後に「Awakening」からもう1曲。ギターの山下達郎が参加している「Say Goodbye」。

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