まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「想い出のステップ(Break My Stride)」マシュー・ワイルダー(1983)

 おはようございます。

 今日はマシュー・ワイルダーの「想い出のステップ」です。

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Last night, I had the strangest dream
I sailed away to China
In a little rowboat to find ya
And you said you had to get your laundry clean
Didn't want no one to hold you, what does that mean?
And you said

Ain't nothin' gonna break my stride
Nobody gonna slow me down
Oh no, I got to keep on moving
Ain't nothin' gonna break-a my stride
I'm runnin' and I won't touch ground
Oh no, I got to keep on moving

You're on a roll and now you pray it lasts
The road behind was rocky
But now you're feeling cocky
You look at me and you see your past
Is that the reason why you're runnin' so fast?
And she said

Ain't nothin' gonna break-a my stride
Nobody gonna slow me down
Oh no, I got to keep on moving
Ain't nothin' gonna break my stride
I'm runnin' and I won't touch ground
Oh no, I got to keep on moving

 

(Never let another girl like you)
Work me over
(Never let another girl like you)
Drag me under
(If I meet another girl like you)
I will tell her
(Never want another girl like you)
Have to say, oh

Ain't nothin' gonna break-a my stride
Nobody gonna slow me down
Oh no (Oh no), I got to keep on moving
Ain't nothin' gonna break my stride
I'm runnin' and I won't touch ground
Oh no, I got to keep on moving

Ain't nothin' gonna break-a my stride
Nobody gonna slow me down
Oh no (Oh no), I got to keep on moving
Ain't nothin' gonna break-a my stride
I'm runnin' and I won't touch ground
Oh no, I got to keep on moving
(Whoa)

 

Ain't nothin' gonna break my stride
Nobody gonna slow me down
Oh no, I got to keep on moving
Ain't nothin' gonna break-a my stride
I'm runnin' and I won't touch ground
Oh no, I got to keep on moving

Ain't nothin' gonna break my stride
Nobody gonna slow me down
Oh no (Oh no), I got to keep on moving

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昨夜、今までで一番奇妙な夢を見た

君を探しに小さな手漕ぎボートで中国に行ったんだ

君は言った、洗濯物を洗わなくっちゃ

誰にも抱きしめてほしくない、それはどういう意味なの?

そして君は言ったんだ

 

私のペースを乱すことはできないわ

誰も私をペースダウンできない

私は動き続けなきゃいけないの

私のペースを乱すことはできないわ

走り続ける、地面に触れないほどにね

私は動き続けなきゃいけないの

君は絶好調でそれが続くことを祈ってる

それまでの道は困難だったけど

今の君は調子に乗っている

 

君は僕を見つめて 過去を見ている

それが君がそんなに早く走る理由なのかい?

すると彼女は言った

 

私のペースを乱すことはできないわ

誰も私をペースダウンできない

私は動き続けなきゃいけないの

私のペースを乱すことはできないわ

走り続ける、地面に触れないほどにね

私は動き続けなきゃいけないの


他の君みたいな女の子には絶対させないよ

僕をひどい目に合わせることは

他の君みたいな女の子には絶対させないよ

僕を引きずりこませることは 

(もし君みたいな女の子に出会ったら)

僕は言ってやるよ
(君みたいな女の子はもうごめんだ)
言わなきゃな、

 

僕のペースを乱すことはできないさ

誰も僕をペースダウンできない

僕は動き続けなきゃいけないんだ

僕のペースを乱すことはできないさ

走り続ける、地面に触れないほどにね

僕は動き続けなきゃいけないんだ、、、

                (拙訳)

 

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  昨日取り上げたロマンティックスの「トーキング・イン・ユア・スリープ」と同時期にヒットしたこともあって、僕の頭の中では”80'sの素敵な一発屋”としてひとくくりにしていたのですが、調べてみたら両者とも全然一発屋じゃなかったです、、。

 

 マシュー・ワイルダーは本名をマシュー・ワイナーといって、1970年代にニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジをベースに”マシュー&ピーター”というフォーク・デュオとして活動し、シングルとアルバムを一枚ずつリリースしています。

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 その後、彼はニューヨークからLAに移住し、1970年代後半からはバックコーラス、ソングライターとして活動していました。

 バックコーラスとしては、リッキー・リー・ジョーンズの「浪漫」、AORファンの定番ロビー・デュプリーの「ふたりだけの夜」「僕だけの街角」、これまたAORファンから隠れた名盤として人気の高いレスリー・スミスの「ハートエイク」などに参加しています。

 

 ソングライターとしては、この曲を書いていたんですね。「チャーリーズ・エンジェル」で、特に日本で大人気だったシェリル・ラッドの「ダンス・フォーエバー」。

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  そして、1981~2年頃、彼はクライヴ・デイヴィス率いるアリスタ・レコードと契約しますが、なかなかクライヴの気にいる曲ができなかったそうです。

 一枚だけシングルをリリースしています。「Work So Hard」。スティーリー・ダン×ロビー・デュプリーみたいな曲ですね。

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 「クライヴは、彼が僕に見つけてくれた曲を三人の違うプロデューサーで三回録音までした。だけど彼が望むような結果にならず、僕が望んだようにもならなかった。いわば僕は円形のゴミ箱の中にいたようなものさ。前に進むことができなかった。レーベルと契約している栄誉もなかった、だって収入源がまったくなかったんだから」

               (Songfacts interview)

 

 そんなどん詰まりの状況で、まさにクライヴとの契約が終わろうとしている時期に、彼は自費でこの「想い出のステップ」を含むデモを作ったそうです。

 そして、1983年のクリスマス頃に彼は、この最後の努力の成果をレーベルに提出しましたが返事はなく、仕方なく彼から担当者に確認の連絡を入れると、クライヴがデモの入ったカセットにメモをつけて返してあったようで、「想い出のステップ」については「面白い曲だ、でもヒットはしない( "Interesting song, but not a hit.")」と書いてあると告げられたそうです。

 

 彼はこう振り返ります。

「僕とクライヴ・デイヴィスとの関係がまさにこの曲を書く動機になった。その時点での僕の人生を支配している状況について間接的に言及しているところが歌詞にあるんだ」

 (Songfacts interview) 

 この歌に出てくる自分のペースで忙しなく動き続け、主人公とペースとは合わない女の子は、クライヴ・デイヴィスのことだったのかもしれないですね。

 

 この曲は、ポピュラーミュージック史上最も”ヒットを聴き分ける耳”を持つと呼ばれる、クライヴ・デイヴィスが予想を外した曲ということになるわけですが、その曲のインスピレーションになったわけですから、やっぱりクライヴ・デイヴィスはスゴい、と僕は思ってしまいます。

 

 これを最後に彼はアリスタから契約を切られてしまいますが、この曲は自費で作ったので彼に権利がありました。そして、他のレコード会社に売り込みを始めると、エピック・レコード参加の「プライベート・アイ」というレーベルから発売することになります。

 このレーベルの社長ジョー・イスグロは、ラジオ局に賄賂(ペイオラ)をばらまいてオンエアを稼ぐ手法で知られる、裏社会と太く繋がった人物で、この曲の大ヒットにもその手法が使われた可能性は高いようです。

 当時、MTVの全盛期なのにこの曲だけPVがなく、不思議だったのですが、マシューがイスグロにビデオを作りたいと言ったら、もうヒットしたからいらないだろうと却下されたらしいです。

 そして、マシューがその後ヒットが出なかった大きな理由として、セカンドアルバムの発売時に、イスグロは連邦政府と揉めていて動けない状態になっていたというこおとがあったようです。彼はセカンド・アルバムで契約を打ち切られてしまいます。

 

 しかし、彼はプロデューサーとして蘇ります。1995年に大ヒットしたノー・ダウトのアルバム『Tragic Kingdom』をプロデュースしたのが彼でした。

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 また1997年のディズニー映画「ムーラン」では、主題歌の「リフレクション(Reflection)」を作り、プロデュースをしています。歌っていたのはクリスティーナ・アギレラでこれが彼女のデビュー・シングルでした。

 そして、2020年に上映された実写版で、彼女はこの曲をリメイクしています。

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 一発屋どころか、ディスニー映画の主題歌を作曲しプロデュースするほどになっていたんですね。

 「想い出のステップ」のほうも、パフ・ダディがこの曲のサビの歌詞を引用した「Can't Nobody Hold Me Down」が全米1位(1997年)をはじめとして、オーストラリアのデュオ”Unique II”がカバーしたヴァージョンは、1996年にオーストラリアとニュージーランドで1位になり、2004年にはドイツのブルー・ラグーンがカバーしドイツで2位、ベルギーで1位になるなど、アメリカ以外でも人気です。CMにもかなりに頻度で使われています。

 Spotifyの再生回数は2億3200万回ととんでもない数字になっていて、それにしてもすごいなと調べていたら、去年この曲がTikTokでブレイクしていたことがわかりました。

 

  この曲の歌詞を1行ずつテキストを送って、そのリアクションをTikTokにアップするというもののようです。

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 この人気を受けて、マシュー本人も歌詞をテキストで送るスタイルのビデオをアップし話題になっています。

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 お金もなくギリギリまで追い込まれた袋小路の中で作ったこの曲が、40年近く経ってこんなかたちでブレイクするなんて彼も夢にも思わなかったでしょう。

 

 

想い出のステップ

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