まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「そよ風の贈りもの (You Give Good Love)」ホイットニー・ヒューストン(1985)

 おはようございます。

 今日はホイットニー・ヒューストンの「そよ風の贈り物」です。

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I found out what I've been missing
Always on the run
I've been looking for someone

Now you're here, like you've been before
And you know just what I need
It took some time for me to see that you give good love to me
Baby, so good
Take this heart of mine into your hands
You give good love to me
Never too much
Baby, you give good love

Never stopping
I was always searching for that perfect love
The kind that girls like me dream of

Now you're here, like you've been before
And you know just what I need
It took some time for me to see that you give good love to me
Baby, so good
Take this heart of mine into your hands
You give good love to me
Never too much
Baby, you give good love

Now I, I can't stop looking around
It's not what this love's all about
Our love is here to stay, stay

Now you're here, like you've been before
And you know just what I need
It took some time for me to see that you give good love to me
Baby, so good
Take this heart of mine into your hands
You give good love to me
Never too much
Baby, you give good love

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自分が失っていたものを見つけ出したの
いつも逃げていったもの
誰かを探し続けていたの

今、あなたはここにいる、前からずっといたみたいに
あなたは私に必要なものがわかっている
あなたが私に素敵な愛をくれることを理解するのに
少し時間がかかったわ
Baby, すごく素敵
私のこの心をあなたの手でつかまえて
あなたは素敵な愛をくれる
多すぎるなんてことはないわ
Baby, あなたは素敵な愛をくれる

決して止まることなく
いつだって完璧な愛を探していた
私のような女の子が夢見るような愛を

今、あなたはここにいる、前からずっといたみたいに
あなたは私に必要なものがわかっている
あなたが私に素敵な愛をくれることを理解するのに
少し時間がかかったわ
Baby, すごく素敵
私のこの心をあなたの手でつかまえて
あなたは素敵な愛をくれる
多すぎるなんてことはないわ
Baby, あなたは素敵な愛をくれる

今、私は、まわりを見渡すことを止められない
それは、この愛が何なのかということではなく
私たちの愛はここにあるの、ここに

今、あなたはここにいる、前からずっといたみたいに
あなたは私に必要なものがわかっている
あなたが私に素敵な愛をくれることを理解するのに
少し時間がかかったわ
Baby, すごく素敵
私のこの心をあなたの手でつかまえて
あなたは素敵な愛をくれる
多すぎるなんてことはない
Baby, あなたは素敵な愛をくれる

 (拙訳)

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  女性ヴォーカリストがデビューして一気にスターの座に駆け上がるシンデレラ・ストーリー、マライア・キャリーもまさにそうでしたが、個人的には最も鮮やかなデビューだったと思っているのがホイットニー・ヒューストンで、きかっけとなったのがこの曲でした。

 

 ホイットニー・ヒューストンは、スウィート・インスピレーションズというコーラスグループで数々のR&Bの名曲のコーラスを務めたシシー・ヒューストンが母で、従姉妹にはディオンヌ・ワーウィックがいるという環境で育ち、11歳で教会で歌い始め、やがて母親と共にステージに立つようになりました。

 容姿にも恵まれていた彼女はモデルとしても活動し、雑誌「セヴンティーン」の表紙もつとめています。

 そして、マネージメントと契約も果たし、彼女はプロのシンガーの道を目指し始めます。

 デビュー前のレコーディングにはこのようなものがあります。

 

 ベーシストのビル・ラズウェルを中心としたグループ”マテリアル”のフィーチャリング・ヴォーカルとして歌った「MEMORIES」(1982)

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 俳優、シンガーのポール・ジャバラのアルバム「Paul Jabara And Friends」の中でリード・ヴォーカルをとった「Eternal Love」(1983)

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  1983年、アリスタ・レコードのジェリー・グリフィスが彼女が母親と一緒にニューヨークのナイトクラブで演奏しているのを見て感動し、社長のクライヴ・デイヴィスに彼女のパフォーマンスを見に行かせました。

  彼女に大きな可能性を感じたクライヴは彼女と契約を交わし、彼女のTVデビュー時には自らも出演し後押ししていました。

 マーヴ・グリフィン・ショー(1983)

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 クライヴは彼女のデビュー作を作るのに最もふさわしい才能を集めることにします。その一人がカシーフ。

 彼は80年代前半のR&Bの最大の潮流である、シンセサイザーと生楽器を融合させた”シンセ・ファンク”のパイオニアで、当時最も旬なプロデューサーでした。

 彼は当時のことをこう回想しています。

「これは面白い経験だったよ。しっかり理解するのに1年かかったけど。クライブが彼女を連れてきたんだ。彼女はキャバレーのショーで歌っていまた。僕は、「彼女は素晴らしいが、わからない。僕は何をすればいいんだ?"と思っていた。その後、「The Mike Douglas Show」で彼女が歌っているのを見たんだ。彼女が「虹の彼方に」を歌っていて、突然、すべてがはっきりしたんだ」

   (Redbull Music Academy)

 

 シーンの最先端にいた彼は、キャバレーで歌う保守的なシンガーのプロデュースをやれと言われて最初戸惑ったんですね。

   しかし、彼は彼女に最適な曲に見つけ出します。

 作ったのは女性シンガーソングライター、LALAことラフォレスト・コープ。9歳でカーネギー・ホールでピアノ・リサイタルを行なったという高い音楽的素養を持つ彼女は、作曲家を目指しながらバックコーラス(チェンジの「グロウ・オブ・ラヴ」など)の活動をしていました。あるとき、カシーフに自作の「ストーン・ラヴ」という曲を聴かせたところ、彼は気に入り自分のアルバムに収録しました。

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 カシーフは「そよ風の贈り物」という曲との出会いをこう語っています。

「素晴らしい才能のある作家のララは、ロバータ・フラックに曲を送っていたんだ。彼女は電話で、"私の歌を聴いてくれましたか?"と尋ねた。すると、ロバータのアシスタントは、ちょっと高慢な感じで「ああ、見たよ、他のデモと一緒にあっちの床の上に置いてあるよ」と言ったんだ。ララは、ロバータ・フラックがアイドルだったので、とてもショックを受けていたよ。

 僕は「ララ、今日はどうしたんだい?」とたずねると、彼女は何も言いたがらなかった。「だって、今日はいつもとちがうじゃないか」と僕が言うと、彼女は「ロバータ・フラックに私の歌を送ったら、こんなことを言われたの」と話してくれた。僕は "その曲を聴かせてくれ "と言うと、彼女が弾いてくれた。それが"You Give Good Love "だった。僕は "これは大ヒットするぞ "と言ったよ。僕たちはこの曲に手を加え、あれやこれやと変更を加えて、ホイットニー・ヒューストンのキャリアをスタートさせるヒット曲となったというわけなんだ」

  (Redbull Music Academy)

 

 最初はロバータ・フラックのために書いた曲だったんですね。ずいぶんイメージが違います。

 元々の曲がどういう風に変更されたのかはわかりませんが、僕の推測では

ブリッジの部分

”Now I, I can't stop looking around
It's not what this love's all about
Our love is here to stay, stay”

 ここはけっこう声を張るので、ロバータが歌うのはちょっとイメージできません。ここはホイットニー用にアレンジされたんじゃないかと思います。

 

 ホイットニーのデビュー・アルバムには「すべてをあなたに(Saving All My Love for You)」など、白人にも売れそうな曲を用意していましたが、最初は黒人マーケットでしっかりアピールしようというクライヴ・デイヴィスの判断によって、この曲を最初のシングルにしたという逸話はファンにはよく知られています。

 そして見事にR&Bチャート1位になるわけですが、クライヴも予想できなかった事態が起こります。ポップチャートの方でも最高3位と大ヒットしたんです。そうなればもう、イケイケ(?)で自信を持って次々とシングルをリリースし、全てヒットし、新人シンガーとしては破格の大成功を収めることになります。

 

 その後、彼女は1992年の「ボディーガード」を頂点を極めた後、少しずつ低迷していき最後はドラッグが原因で突然の死をとげてしまうわけですが、その後作られた彼女のドキュメンタリーは、ゴシップと悲劇にあふれた内容ばかりで、この「そよ風の贈り物」に感銘を受けた人間としてはつらいものばかりです。

 しかし、だからといって、この曲やこの曲の入ったデビュー・アルバムでの彼女の凜として清々しい歌いっぷりは、なんら損なわれるものではないと思っています。素材と才能と環境とタイミング、いろんな要素がピタッとハマらないと生まれないような”瞬間”がそこにはおさめられているような気がするのです。

  

 最後はこの曲を書いたLALAの作品を。ホイットニーの成功を受けて彼女は二枚ソロアルバムを出しています。時代的にシンセ・ファンクものが多く、バラードが少ないのが残念なのですが。僕が好きだったのはファースト・アルバムに入っていた「I Don't Wanna Go」という曲。「そよ風の贈り物」と近い感触があります。

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