まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ドライヴ ( Drive)」カーズ(1984)

 おはようございます。

 今日もカーズで。「ドライヴ」を。

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Who's gonna tell you when
It's too late?
Who's gonna tell you things
Aren't so great?

You can't go on
Thinking nothing's wrong, oh oh
Who's gonna drive you home
Tonight?

Who's gonna pick you up
When you fall?
Who's gonna hang it up
When you call?
Who's gonna pay attention
To your dreams?
Who's gonna plug their ears
When you scream?

You can't go on
Thinking nothing's wrong, oh oh
(Who's gonna drive you?)
Who's gonna drive you home
(Who's gonna drive you? Who's gonna drive)
Tonight?

Who's gonna hold you down
When you shake?
Who's gonna come around
When you break?

You can't go on
Thinking nothing's wrong, oh oh
(Who's gonna drive you?)
Who's gonna drive you home
(Who's gonna drive you? Who's gonna drive)
Tonight?
Oh, you know you can't go on
Thinking nothing's wrong
(Who's gonna drive you?)
Who's gonna drive you home
(Who's gonna drive you? Who's gonna drive)
Tonight?

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誰が君に教えてくれるんだい

もう手遅れだって

誰が君に教えてくれるんだい

大したことじゃないって

 

何も間違っちゃいないなんて

思い続けることはできないんだ

誰が家に送ってくれるんだい

今夜

誰が助け起こしてくれるんだい

君が倒れたら

誰が電話を切るんだろう

君がかけているのに

誰が君の夢を気にかけてくれるのだろう

誰が耳を塞いでしまうのだろう

君が叫んでいるのに

何も間違っちゃいないなんて

思い続けることはできないんだ

誰が家に送ってくれるんだい

今夜

 

誰が抱きかかえてくれるんだい?

君が震えている時に

誰が近くに来てくれるんだい?

君が傷ついた時

何も間違っちゃいないなんて

思い続けることはできないんだ

誰が家に送ってくれるんだい

今夜

 

何も間違っちゃいないなんて

思い続けることはできないんだ

誰が家に送ってくれるんだい

今夜

               (拙訳)

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  カーズの顔であり、柱でもあるのはまぎれもなく、リック・オケイセックでした。しかし、カーズのレパートリーはほぼ全てリックが書いているのに、その2割から3割くらいはベンジャミンにメインを歌わせています。

 

 この「ドライヴ」もまた、ベンジャミンがメイン・ボーカルをとった曲で、全米最高3位と、カーズ最大のヒットになっています。

 Spotifyを見ても再生回数が最も多いのが「ドライヴ」、そしてその次が「燃える欲望(Just What I Needed)」でこちらも歌っているのがベンジャミン なんです。

 

 リックはこう語っています。

 「僕はフロント・マンになることはそんなに興味はないんだ。僕は、ソングライターなんだ、実際に。そして作った曲たちをまとめる人間であり、たぶん多少はディレクターでもある。だけど、エンターテイナーであることが、僕のメインの仕事では決してなかったんだ」

                        (NPR 2011)

 また、彼らがロックの殿堂入りした時のスピーチで、彼は「ベンジャミン・オールがカーズのメイン・ヴォーカルになるはずだった」と語っていました。

 

 十代の頃に引っ越してきたクリーヴランドのローカルTV番組で、バンドで演奏して歌うベンジャミン(ベン)に最初に興味を持ち、その後一緒に活動を始めた頃から、ルックスも声もよくマルチプレイヤーだったベンを前面に出し、リックはソングライターとギターに専念するというイメージがあったのではないかと思います。

 

 二人はカーズ以前にいくつかバンドに参加しますが、その中にはベンが楽器も持たずメインボーカルに専念していたものもあったようです。

 

 時代の流れでハーモニー重視のフォーク・ロックなどもやっていましたが、リックの大きなルーツはバディ・ホリーのシンプルなロックンロール。70年代後半からパンク/ニューウェイヴが大人気になると共に、リックがそっちにシフトしたのは当然のことだったのでしょう。

 

 ベンをメイン・ヴォーカルでカーズを始めたのですが、ライヴを重ねていくうちにニューウェイヴのサウンドにリックの飄々とした個性的なヴォーカルが妙にマッチすることに、本人もバンドも気づいていったのではないでしょうか。

 

 それから、ベンの古いインタビューの動画がいくつかYouTubeで見れるのですが、かなりナイーヴそうで、フロントマンになるには少し内向的すぎるような印象があります。

 

 それでも、2,3割はベンジャミンにメインを歌わせていたのですが、それらの曲を聴き直すと、ほとんどリックが歌ってもおかしくないようなものに僕には思えました。リックが相棒ベンジャミンが主役の場を意図的に作っていたんじゃないかと感じるんです。

 

 しかし、この「ドライヴ」に限っては、ベンジャミンの歌とぴったり合っています。良い曲ですので、作者のリックが歌ってもヒットはしたでしょうが、ベンジャミンの歌だったからこそ、これだけ大きなヒットになったように思えます。

 

 リックはこう語っています。

 

「『ドライヴ』はもともと僕のソロアルバムに入れるつもりだった。でも、ベンと僕の二人で歌って歌ってデモを作ってみると、この曲には 彼のヴォーカルが必要だと確信した。彼にぴったりの曲だったんだ。僕は彼の声が大好きだった」

(「ハートビート・シティ<Expanded Edition>ライナーノーツより)

 

 また、プロデューサーの”ロバート・ジョン”マット”ラングは相当な完璧主義者でベースのチューニングに丸2日かけたなんてエピソードがあったそうですが、彼がアルバムの中の曲で最も大きく方向性を変えたのが、この「ドライヴ」だったそうです。

 

 カーズが作ったデモはこんな感じでした。

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 リックはこの曲をシングルにするなんて考えてもいなかったそうですが、マットが新しくアレンジしたことで、彼らにとって最大のヒットになりました。

 

 「ハートビート・シティ」は、イギリスに渡って半年くらいかけて作ったものですが、各メンバーが別々にレコーディングし、スタジオで一堂に会したのはコーラスの時だけだったそうです。

 そういう作業の果てに、バンドの歴史上最大級の成功を収めるという結果になったからでしょうか、この後、メンバーはそれぞれ独自に活動をし始めることになります。

 

  まず、1985年にギターのエリオット・イーストンがロイ・トーマス・ベイカーのプロデュースでソロアルバムをリリースし、1986年にはリックの二枚目のソロ・アルバムと、ベンの初のソロアルバムがリリースされています。

 

 リックは自分でもバラードをやりたかったのでしょうか。シングル「Emotion In Motion」(全米15位)

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 ベンジャミン・オールの「ステイ・ザ・ナイト」(全米24位)

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  ベンのアルバム「The Lace」はカーズっぽい曲も少しありますが、基本はメロディアスなアメリカン・ロックで、彼の個性は本来こういうスタイルに合っていたのかもしれません。

 

 カーズは再び集まり、1987年にはリック自らのプロデュースでアルバム「ドア・トゥ・ドア」をリリースしますが、バンド感の気持ちはバラバラになってしまっていたのでしょう、翌1988年にカーズは解散してしまいます。

 

 ベンは自身の名前を冠したバンド”ORR”など、いくつかのバンドやプロジェクトで活動していましたが、2000年に膵臓がんで亡くなっています。

 

 2011年には再結成しアルバム「Move Like This 」を発表しています。

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 2018年には彼らは”ロックの殿堂”入りを果たしましたが、翌 2019年にリック・オケイセックが亡くなり、カーズの歴史は終止符を打ちました。

 

 ギターのエリオット・イーストンやキーボードのグレッグ・ホークスも、個性的で魅力のあるメンバーですが、やはりカーズというのはリックとベンの二人の長い友情の産物だったという風に僕には思えます。 

 

 さて、昨日もご紹介した”ニュー・カーズ”。エリオットとグレッグを中心に、リックとベンの代わりにトッド・ラングレンとカシム・サルトンが参加したグループ。「ドライヴ」もやっています。メイン・ヴォーカルはカシムがとっていて、その役割分担、なんだか妙に納得できてしまいます。

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 最後はこの曲の作者、リック自らアコギで弾き語っている動画を。 

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