まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲を選曲しました(苦笑)。古今東西のポップ・ソングをエピソード、歌詞の和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。みなさんの音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの情報や思い出話などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「いとしのルネ (Walk Away Renée)」レフト・バンク(1966)

 おはようございます。

 今日はレフト・バンクの「いとしのルネ」です。

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And when I see the sign that points one way
The lot we used to pass by every day

Just walk away Renee
You won't see me follow you back home
The empty sidewalks on my block are not the same
You're not to blame

From deep inside the tears that I'm forced to cry
From deep inside the pain that I chose to hide

Just walk away Renee
You won't see me follow you back home
Now as the rain beats down upon my weary eyes
For me it cries

Just walk away Renee
You won't see me follow you back home
Now as the rain beats down upon my weary eyes
For me it cries

Your name and mine inside a heart upon a wall
Still finds a way to haunt me, though they're so small

Just walk away Renee
You won't see me follow you back home
The empty sidewalks on my block are not the same
You're not to blame

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毎日僕らが何度も通り過ぎてきた

一方通行の標識を見たとき

 

ただ歩き去ればいい ルネ

君が帰る後ろをついてゆく僕のことは気づかないだろうね

君がいなくなった街の歩道は前とは違うんだ

君のせいじゃない


心の深い場所から 僕を泣かせようとする涙が溢れ

心の深い場所から 隠そうとした胸の痛みがこみあげてくる

ただ歩き去ればいい ルネ

君が帰る後ろをついてゆく僕のことは気づかないだろうね

いま雨が僕の弱った目にあたり、僕のために泣いている

ただ歩き去ればいい ルネ

君が帰る後ろをついてゆく僕のことは気づかないだろうね

いま雨が僕の弱った目にあたり、僕のために泣いている

 

壁に書かれたハートマークの中の君と僕の名前が
まだ頭から離れない ちっぽけなものなのに

ただ歩き去ればいい ルネ

君が帰る後ろをついてゆく僕のことは気づかないだろうね

君がいなくなった街の歩道は前とは違うんだ

君のせいじゃない                 (拙訳)

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 昨日登場したシャングリラスのメイン・ボーカル、メアリー・ウェイスに報われない恋をして曲まで書いたのが、レフトバンクの中心人物でこの曲の作者でもあるマイケル・ブラウンです。

 

 レフト・バンク(The Left Banke)は1965年にニューヨークで結成されたグループ。

 メンバーはマイケル・ブラウン(キーボード) スティーヴ・マーティン(ボーカル) トム・フィン(ベース) ジョージ・キャメロン(ドラム) リック・ブランド(ギター)の5人。

   マイケルは、本名はマイケル・デヴィッド・ルッコフスキーといい、父親はアントニオ・カルロス・ジョビンクインシー・ジョーンズの作品にも参加した有名なセッション・バイオリニストでスタジオも経営していて、彼も幼い頃から音楽を学びスタジオも自由に使えたこともあり、音楽的に大変に早熟でした。

 

 この「いとしのルネ」を書いた時、彼はまだ16歳だったといいます。ベースのトム・フィンが恋人のレネ・フレーデンをスタジオに連れてきたことがきっかけで、ブラウンは彼女にすぐに夢中になり、彼女のことを歌った3曲をすぐに書き上げたといいます。その1曲が「いとしのルネ」でした。

 

 レネ・フリーデンはレコーディングにも現れたようで、ハープシコードを弾いていたマイケルは緊張して手が震えてしまい、レコーディングを断念し、後日録り直したといいます。

 この曲はスマッシュ・レコードというレーベルからリリースされるといきなり全米5位の大ヒットになりました。

 次のシングル「プリティ・バレリーナ」もレネに一目惚れした時に「いとしのルネ」と一緒に書いた曲なのだそうです。

 

 全米15位「プリティ・バレリーナ

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 しかし、この時には、マイケルと他のメンバーとの間に亀裂が入っていました。

 ライヴは他のメンバーにまかせ、自分は制作に没頭しようとしたことが要因の一つとも言われています。ビーチ・ボーイズブライアン・ウィルソンみたいですね。

 しかし、ビーチ・ボーイズは兄弟が軸ですが、レフトバンクは他人同士、しかもメンバーはまだ16、7歳でした。

 また、彼らのマネージメントをしていたのがマイケルの父親で、彼の方針に他のメンバーが納得できなかったこともづ和の原因だと言われています。

 そこで、マイケルは別のミュージシャンを集め、もうひとつの”レフト・バンク”を作り「Ivy Ivy」というシングルもリリースします。

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 しかし、オリジナルのレフト・バンクの他のメンバーたちが訴訟を起こし、レコード会社も宣伝を止めてしまったので、この曲はヒットせずに終わります。

  1967年後半には一度レフトバンクは再結成しますが、ほどなくしてマイケルは永久に脱退してしまいます。

 そして、1969年にモンタージュというバンドに参加、唯一のアルバムの作曲とプロデュースを担当し、キーボードも演奏しています。

 そのモンタージュの1stシングルが「I Shall Call Her Mary」といって、シャングリラスのメリー・ワイスへの片思いを歌にしたものだと言われています。

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  残念ながらモンタージュは売れず、その後もストーリーズに加わるも「ブラザー・ルイ」が大ヒットする直前に脱退するなど、彼は二度とチャンスを掴むことはできませんでした。

 その後彼はアーティストの発掘や育成などをやりながら、2015年に亡くなるまで音楽業界の片隅で活動を続けていたそうです。

 

 1960年代半ばから後半に流行した、ビートルズの「エリナー・リグビー」のようにロック、ポップスとクラシックを融合したジャンルを”バロック・ポップ”と呼びますが、レフト・バンクやこの「いとしのルネ」はその象徴的なバンドと曲とされています。

 

 バイオリニストを父に持ち、もともとハープシコードを弾いていたという環境にあり、バロック・ポップにぴったりな叙情的な旋律を描くのに十分すぎるほどの恋愛体質を持っていたマイケル・ブラウンこそ、まさにその申し子だったのかもしれません。

 

 バロック・ポップの流行とまだ16歳だった少年の才能がいきなりピッタっと合ってしまい、そのためになおさらその後は、なかなか波長が合わなかったんじゃないか、僕はそんな風に感じました。

 

 もっともっとポップス史に残るような曲を残せたはずの才能だったようにも思えますが、いきなりピントが合ってしまった故に、こういう展開になってしまったと。

 しかし、16歳の感性が世の中の流れとピタッと合ったからこそ、この「いとしのレネ」という曲の持つ瑞々しさが、長く記憶に残るものになったとも言えると思います。

 

1968年にはモータウンのフォートップスがカバーし全米14位、全英3位のヒットになっています。

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 リンダ・ロンシュタットはこの曲をカバーした時にこのように語っています。

「最初にラジオから流れてきたときは、歌詞がよくわからなかったわ。ただ "ラララ "と言ってるみたいに聞こえたわ。どの言葉もわからず、理解もできなかった。でも、一瞬で、私にとって忘れられない心に残る曲になったの。それが何なのかよくわからないけど。誰かのことをあきらめて、手放してしまう感覚があるのよ。あの曲は、感情の弧線と、それがどんな風に働きかけるかを見事に描いているの。私はこの曲が大好きよ」

     (Los Angels Times MARCH 20, 2015)

 

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