おはようございます。
今日は佐野元春の「合言葉-Save It for a Sunny Day」を。
合言葉 - Save It for a Sunny Day / 佐野元春 & THE COYOTE BAND
「アンジェリーナ」から40年たった彼のリリースされたばかりの新曲です。
コロナ禍のなかで活動の停滞を余儀なくされたり、様子を見ながら動いているアーティストが多い中で、彼はとても活発に動いています。
40周年というアニバーサリー・イヤーだということもあるでしょうが、大きくシフトしてゆく世界や、音楽ビジネスの仕組みにしなやかに対応してみせようという気概のようなものが僕には感じられます。
4月にはリモートで制作した「この道」、5月にはコロナ以前に書かれていながら、今の音楽の世界のあり方に訴えかけるような「エンターテイメント!」という新曲をリリースしています。
「この道」(Social Distancing Version) 佐野元春 & ザ・コヨーテバンド
こういう積極的なアクションはもちろん彼のアーティストとしての資質、才能に寄るところも大きいでしょうが、長い時間をかけてしっかりした環境を築いてきたからこそ、この非常時でもきっちり機能できているように見えます。
彼にはもちろん熱心なファンが多くいて、時間をかけて熟練させてきた鉄壁のバンド・メンバーやスタッフがいます。そして彼はずいぶん前にメジャーをはなれて自分のレーベルを持ちましたので、ファンと自分たちをつなぐ作品のリリースに関して自由がきくようになっています。
作品を作りあげるシステムとそれをファンに届けるというインフラが自身の裁量である程度コントロールできる、ということがこういう不自由な情勢の中ではすごく有効なのだと思います。
ファンの数が少なければビジネスとして回していくのはもちろん困難なわけですし、逆に例えば桑田佳祐くらいになると背負っているものが大きすぎて、個人の裁量で動き回るのは難しいでしょう(この情勢を受けていち早く無観客ライヴを行い、さりげなくコンサート・スタッフの仕事を作った彼のアクションは素晴らしかったですが)。
さてこの「合言葉-Save It for a Sunny Day」を聴いて僕が感じたのは「気負いのなさ」、「軽やかさ」のようなものです。
うつむき加減で道を歩いていて、すれ違いざまに軽く励ましの言葉をかけられるような感覚。
それは「この道」や「エンターテイメント!」にも共通しています。
一昔前であれば、これほどの世界的な災難があったときには、スターが大勢集まって、なにか大仰な盛り上がりのあるチャリティソングを歌う、なんていうのが定番だったわけです。崇められたような”高い位置”から大きな数の大衆に向けて音楽を発するという、でも、もうそんな時代なないんですね。
まずは、自分の音楽の聴き手に向かって、同じような視線の高さで誠実に機敏にコミュニケーションをとってゆく、そういうふうになっていくのかもしれません。
そして、この曲はふだんTVから聴こえてくるような曲とは違ったスタイルのポップ・ソングだとも思いました。
”ネット”仕様とまではいいませんが、そういった伝わり方を前提に作られているように思えるのです。メガ・ヒットになることなど最初から想定していないかのように(ご本人は全然思っているのかもしれませんが、、)
彼と同時代のアーティスト、桑田佳祐、山下達郎などは、TVタイアップやCMなどでしっかり”映える曲”という昔からのスタイルを今もなお誠実に貫いていて、それも大切なことでもあり、それは彼らが背負っているものの大きさ、によるものでもあってリスペクトできます。
しかし、デビュー40年のベテランが、新しい様式にフィットさせた活動を先陣を切るように進めているというのも驚きです。
何年か前に、彼が過去のレパートリーを歌うのを聴いて、正直声がしんどそうだなと思ったことがありました。もともと声量がある人ではないので、年をとればしょうがないかとも思いつつ。
ちょっと、しゃがれた感じでボブ・ディランっぽく行くのかなとも思いました。
しかし、最近の曲を聴いてみると、”声を張らなくてもいい”独自のスタイルを彼が作り上げたことに気づきました。歌詞をやさしく軽快に語りかけるような。
声量はそれほどなく、滑舌がいいわけでもない彼が、バンド・サウンドにのせて、日本語の歌詞をしっかり伝える、これはとても難易度高いトライアルだったように思います。
これは歌い方だけではなく、ソングライティング、演奏、がトータルで調和していないと成立しないものだと思いますし。
「アンジェリーナ」からはじまった英語混じりの歌詞の文体を発明した彼は、”何を言ってるのかよくわからないけどとにかくかっこいい”というかつてのスタイルから遠く離れて、ロックバンドのサウンドにのせ日本語の歌詞を力を込めずに伝えるという、他に誰もやっていない新たなスタイルを今度もまた発明したんだなあ、と僕はそんなことを考えながらこの曲を聴いていました。