まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「グッド・ヴァイブレーション(Good Vibrations)」ザ・ビーチ・ボーイズ(1966年)

おはようございます。

今日はザ・ビーチ・ボーイズの「グッド・ヴァイブレーション」。


GOOD VIBRATIONS (HD) THE BEACH BOYS

 

     ”ああ僕は彼女の来ているカラフルな服が大好きなんだ

  陽射しが彼女の髪と戯れる感じもね

  優しい言葉の響きが聞こえる 彼女の香水を運ぶ風に乗って

 

       いいバイブレーションを感じ始めている

  彼女が僕のテンションを上げてくれる 

  いいバイブレーションを感じ始めている

  彼女が僕のテンションを上げてくれる  

 

  瞳を閉じれば なんだか彼女が近く感じる

  そっと微笑んで 彼女は優しい人に違いない

  瞳を覗き込めば 彼女は僕と花であふれる世界に行くんだ

 

  いいバイブレーションを感じ始めている

  彼女が僕のテンションを上げてくれる 

  いいバイブレーションを感じ始めている

  彼女が僕のテンションを上げてくれる  


  ああ、なんていう高揚感

  どこかわからないけど 彼女がつれていってくれる

  おお、なんていう感覚、なんていう高揚感 おお


  ずっと愛し合って、彼女とこのバイブレーションをキープしなくちゃ

  ずっと愛し合って 彼女とこのバイブレーションを感じ続けたい

  いいバイブレーションを感じ始めている

  彼女が僕のテンションを上げてくれる      ”(拙訳)


 

 この曲のレコーディングは、約2ヶ月間に渡ってロサンゼルスのトップ・セッション・ミュージシャンを使って行われました。曲は断片的に録音されており(この試みは、ビートルズより早く、パーツをつなぎ合わせて作られた初めてのポップ・ソングでした)、レコーディングにはLAの6つのスタジオが使用され、そのうちの4つのスタジオのテープが最終的なカットに使用されたそうです(約90時間のスタジオ時間と70時間のテープが使われています)。この1曲だけの制作費は今の日本円にすると約4,000万円とも言われています(ブライアン本人はその半分くらいだと言っていますが、それにしてもものすごい額です)

  そして、ポップスの概念を打ち破るかのようなその高度な音楽性で、いまや、”ポップス・ロック史上の最高傑作ランキング”などといった企画があると必ず上位に入るほどの地位にある楽曲なわけですが、今回僕はふと歌詞”のほうに興味を持ちました。

 


「あの曲がどうできていったのか?それは、ぼくがマリファナでハイになって、ピアノに座ったからさ。リラックスして、プレイした。マイクがこの曲の歌詞を思いついてくれた。ぼくが「グッド、グッド、グッド・ヴァイブレーションズ」ってピアノを弾きながら歌っているのを聞いたんだ。それで火がついた彼は、部屋から部屋へうろうろしながらグッド・ヴァイブレーションズにまつわるアイディアを口にしていたーサンフランシスコやそこらじゅうで起きていたラヴ&ピース運動ともつながっていた」

 

「曲を作りはじめたときは、ぼくは違うことを考ええていた。ぼくが考えていたのは、人はよい知らせとわるい知らせをどうやって本能的に察知するんだろう、ってことーたとえば電話がなったときとかねーそれから、ママが、犬は場の空気やその人の気持ちがすぐにわかるのよとよく言っていたこともね。先に自分でも歌詞が少しできていたー一部は僕が書き、一部はトニー・アッシャーが書いたーだけど、その出来に不満があった。でも、マイクが言葉を転がしはじめた途端、歌詞のアイディアになにか大きなものが生まれたことがわかったんだ。そこからその大きなものが育っていった。マイクは、スタジオに向かう車の中で最終的に歌詞を作り上げた。リード・ヴォーカルを録音したのは夜。彼が書いたフレーズは完璧にフィットしていた」

 

                      (「ブライアン・ウィルソン自伝」)

 

 また、ローリングストーン誌のインタビューで、ブライアンは彼のママが言っていたことをもう少し詳しく述べています。

「母はよく僕にバイブレーションのことを話してくれた。子供の僕には、母が言っていた意味が正直あまり理解できなかった。目に見えない感情が存在すると考えたら、『ヴァイブレーション』という言葉が怖くなったんだ。母はまた、犬はある人には吠えても他の人には吠えないという話もしてくれた。そんな風にして、僕たちは良いヴァイブレーションの話をするようになったんだ」

 

 この曲はアルバム「ペット・サウンズ」のころに作りはじめたものです。昨日このブログに登場した「サーフズ・アップ」もそうですが、この頃のブライアンは自宅のダイニングに”砂場”を作り、その上に置かれたピアノを弾きながら創作をしていました。

 

 彼を主人公にした映画「ラブ&マーシー 終わらないメロディ」では、砂場のピアノで、フィル・スペクターの「ダ・ドゥ・ロン・ロン」風のリフに合わせてこの曲を歌っている彼のところに、マイク・ラヴが近づいてきて歌詞を考え始める、というシーンがありました。別にマイクに歌詞を書いてくれと頼んではいないんですね。

 

 当初、ブライアン発案の「Good Vibrations」というキーワードをもとに、「ペット・サウンズ」で8曲の歌詞を書いているトニー・アッシャーが歌詞を書いたのですが、うまくいきませんでした。

 そして、その後「サーフズ・アップ」の歌詞を書くヴァン・ダイク・パークスに声をかけますが、彼は興味を感じなかったようで断られたそうです。

 

  トニー・アッシャーは「神のみぞ知る」「キャロライン・ノー」「僕を信じて」「駄目な僕」など、ブライアンのピュアで繊細な感性と一体化したかのような歌詞を書いている人。そして、ヴァン・ダイクは「サーフズ・アップ」の歌詞でわかるように、文学的でインテリジェンスな人です。

 彼らの嗜好性とこの曲はマッチしなかったように思えますし、そもそもブライアンがピアノだけで歌うだけでは全体像がつかめなかったのかもしれません。

 ともかく結果として、ビーチ・ボーイズの代表曲の歌詞の多くを書いているブライアンの”古女房”的存在のマイク・ラヴが、しかも”頼んでもいないのに”、歌詞を書いてそれが見事にハマる、ということになったわけです。

 

 マイクは、ヴァン・ダイクの歌詞は素晴らしいものがあるのはわかるけど、商業的な見地からはちょっと疑問がある、といった発言をかつてしていたことがありました。確かにトニーやヴァン・ダイクの歌詞がついたら、「グッド・ヴァイブレーション」はよりアーティスティックになってしまったように思えます。音楽的には複雑な仕組みを持つこの曲にマイクの明瞭でロマンティックな歌詞がついたからこそ、大衆にわかりやすくなり、結果として全米1位になったんじゃないかと、僕は考えています。

 

 この「グッド・ヴァイブレーション」も幻のアルバム「スマイル」に収録予定だった曲で、2004年のブライアン版「スマイル」にも収録されていますが、歌詞はトニー・アッシャーが書いたものが含まれた、アーリー・ヴァージョンになっています。


Good Vibrations

  ”ああ、僕は彼女の着ているカラフルな服が大好きなんだ

   そして、彼女はもう僕の脳みそに働きかけている

   彼女の瞳を覗き込んだだけなのに

   説明のできない何かを感じてしまうんだ

 

      彼女がどんな人なのか僕は間違いなく知っている 

   そして、僕にどれだけぴったりあっているかもわかる

      彼女をこれほど強く感じるなんて不思議だ

  それに彼女のほうは僕からは何を感じているんだろう? ”

 

 なにか、まだ歌詞のピントが定まりきっていない、ような気もします。

 

 今、ビーチ・ボーイズを評価するときには、100%ブライアン・ウィルソンが軸になってしまうと言ってもいいと思いますが、それに比べてマイク・ラヴはちょっと過小評価され過ぎにも思えます。少なくとも、彼らの音楽を”大衆にわかりやすいかたちで届ける”という意味では、マイク・ラヴという人の貢献度は相当大きかったと僕は考えています。   

 

 最後は、この難曲の完コピにいどみ、全米34位のヒットにまでしたトッド・ラングレンのヴァージョンを。ちなみに彼は、完全な再現ではなく、オリジナル・ヴァージョンの音(チェロやテルミンなど)を、シンセを駆使してそれに最も近い音を出すことにこだわったそうです。    

 


Good Vibrations (2015 Remaster)