まいにちポップス

1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、勝手な推理、などで紹介していきます

「サーフズ・アップ(Surf's Up)」ザ・ビーチ・ボーイズ(1971)

 おはようございます。

 今日はビーチ・ボーイズの「サーフズ・アップ」です。


Surf's Up (Remastered 2009)

 

  " ダイアモンドのネックレスが駒(チェスのポーン)を操る

  手を取り合い ドラムとともに

  ハンサムで気取った指揮棒に合わせて

 

   目の見えない上流階級

   オペラグラスを通して君にも見えるだろ

   異端審問の道具(落とし穴と振り子)が

 

      廃墟の神殿のドミノ

   街中を廻って 背景を塗れ

   君は眠っているのかい?

 

      吊るされたヴェルベットが僕に襲いかかり

   薄暗いシャンデリアが僕を目覚めさせる

      夜明けに溶けてゆく歌に合わせて

 

     ミュージック・ホールでは、高価なお辞儀

     音楽は今や全て失われてしまった

  ミュートされた白鳥のトランペットに合わせて

  (過去へ 過去へ)

 

   破滅のドミノ倒し

   街中を廻って 背景を塗れ

      君は眠っているのかい? ブラザー・ジョン

 

      ハトは塔に巣を作り  時は通りを打ち鳴らし

   水銀のような月が浮かび   霧の中を馬車が走ってゆく

      ランプの明かりとトゥーステップで踊る

   地下室の歌に合わせて

 

 「蛍の光」とともに笑いは消えてゆく

    グラスは掲げられ  バラは燃やされた

    グラスに満たされたワイン 暗くてよく見えない乾杯

     港にあるのは  さよならの挨拶か死

  

  息もできない悲しみ  頑なになった僕の心 

    理解を超えている 傷ついているのに 

        タフすぎて泣くこともできない男なんて

 

  波が来た 

        大きな波に乗れ  波が激しくなったら 若者に加わって

     何度もかつてのような跳躍を見せるんだ

        僕は言葉を聞いた  素晴らしいもの

  子供たちの歌

  (子供は人類の父である... 子供たちの歌

   彼らが奏でるのを聴いたことがあるかい

   彼らの歌は愛なんだ 子供たちはその術を知っている

   だって子供は人類の父だから、、、)                   " (拙訳)

 

 

 「サーフズ・アップ」、「波立ちぬ」なんて訳したら各所から(?)怒られるでしょうか。

 ビーチ・ボーイズのレパートリーで”サーフ”がつく曲なのに、波乗りは一番最後に象徴的に現れるだけなんですね。

 

 この歌詞の核となる「Columned ruins domino」というフレーズがあって、よくわからなかったのですが、「Columned ruins」で検索すると、柱だけが残った神殿の廃墟の写真が出て来ます。

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  また、ただでさえ、歌詞が難解な上に、引用が多いのがこの歌詞の特徴です。 

エドガー・アラン・ポーの短編小説のタイトルである「The Pit and the Pendulum」(落とし穴と振り子)とか、ピューリッツァー賞作家E.Bホワイトの著名な児童文学「白鳥のトランペット(The Trumpet of the Swan)」をもじった、”a muted trumpeter swan”なんてフレーズも出て来ます。

 そして、”眠っているのかい?ブラザー・ジョン(Are You Sleeping、Brother John)”は有名な子供向けの歌(ナーサリーライム)のフレーズで、元々はフランスの「フレール・ジャック」の英詞からきています。


♬Are You Sleeping?〈英語の歌〉

 

 引用、押韻、言葉遊びのウェイトが大きいこの歌を日本語に訳すのは至難の技ですが この歌詞から、ざっくりと感じ取れるのは、金持ちの上流階級が災いをもたらす元であり、それと対比されるものとして子供達がいる、ということでしょう。

 

 そして、金持ちの大人たちが文明を崩壊させたあとに、子供たちの歌が聴こえて来て、ワクワクするような”波の高まり”が訪れる、というふうに構成されています。

 

 この曲がリリースされたのは1971年ですが、最初に作られたのは1966年の夏だったといいます。作曲したブライアン・ウィルソンは24歳、作詞したヴァン・ダイク・パークスは23歳と、まだとても若かったのです。しかも、1時間くらいで出来上がったといいますから驚きです。

 その数ヶ月前にブライアンは、ポップス史上屈指の傑作「ペット・サウンズ」を作り上げていますから、クリエイティヴィティが半端じゃなかった頃(ただし、その反動で精神的には不安定になっていたようですが)なんですね。

 

 また、この当時、バンドはブライアン抜きでライヴを行い、彼は自宅で創作をしていたのですが、イギリス公演から帰った弟のデニス・ウィルソンから、ビーチ・ボーイズのトレードマークであるストライプのシャツがイギリス人から大笑いされたという話を聞いて、ヴァン・ダイク・パークスが曲のタイトルと最後のヴァースの歌詞を決めたと言われています。

 「ペット・サウンズ」では、夏でも海でもサーフィンでもない音楽を展開しながら、ライヴでは昔ながらのサーフ・ミュージックのイメージで営業していた彼らですが、

すでにそれは時代遅れになっていることを自覚して「サーフズ・アップ」を作っていたことになります。

 もしメンバーがそういう意識で歌詞を書いたら、自虐もしくは自己憐憫が滲み出てしまったかもしれません。ヴァン・ダイクの意図は深くはわかりませんが、三者の彼だからこそ書けた視点の歌詞だったのは間違いないと思います。そこに描かれていたのはビーチ・ボーイズが歌い続けて来た”リアル”な”目の前の”波ではなく、”イマジナリー”で”象徴としての”波だったのです。

 

 

 そして、この頃ブライアンは「ペット・サウンズ」の路線をより推し進めた「スマイル」というアルバムを構想し着手し、この「サーフズ・アップ」も収録される予定でした。

 1967年4月、作曲家で指揮者のレナード・バーンスタインがホストを務めるCBSのTV番組「インサイド・ポップ:ザ・ロックレヴォリューション」で、ブライアンはこの曲を弾き語っています。


Surf's Up Brian Wilson Solo Performance 1966 (Inside Pop: The Rock Revolution)

 ここでバーンスタインはナレーションでこう語っています

「この新曲は、複雑すぎて一回聴いただけでは全部を理解できない。それは今のポップ・ミュージック・シーンを特徴づけるものが発酵することによってのみ生み出されるようなものだ。ブライアン・ウィルソン、有名なビーチ・ボーイズのリーダーであり、今日、最も重要なポップ・ミュージシャンの一人だ。彼の歌う「サーフズ・アップ」はそのひっそりとした佇まいにあっても詩的で美しい、「サーフズ・アップ」は今のポップ・ミュージックで起きている新しいものを示す一つの側面でもある。それゆえに、これは若いミュージシャンが我々の未来に見出した変革のシンボルなのだ」

 

 しかし「スマイル」の制作は頓挫してしまい、幻のアルバムになってしまいます。

 

 そして、4年後に改めて録音しサーフズ・アップ」というアルバムのタイトル曲にもなりましたが、この頃ブライアンは精神面でも健康面でも問題が多く、弟のカールがメインでボーカルをとっています。

 

 その後、時が経つにつれて「ペット・サウンズ」の評価がぐんぐん上がってゆくとともに、もし「スマイル」が完成していたらすごいことになったんじゃないか、というムードが高まっていきます。ポップス、ロックの世界ではお蔵入り、または未完成の”幻のアルバム”は少なくありませんが、「スマイル」はその中でまさにNO.1の存在でした(例えば「幻のアルバム」という本では「スマイル」がトップで登場します)。

 

 そして、2004年にブライアン・ウィルソン本人が、作る予定だった「スマイル」を新録して発売しました。

 そこにはもちろん「サーフズ・アップ」も収録されています。


Surf's Up

 

 

 

 

 

サーフズ・アップ

サーフズ・アップ

 

 

 

スマイル

スマイル