まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ディズニー・ガール(DISNEY GIRLS)」ブルース・ジョンストン(1977)

 おはようございます。

 今日はブルース・ジョンストンの「ディズニー・ガール」を。


Bruce Johnston - Disney Girls

 

 ”空が晴れ渡ると 涙もかわいて 今では君の笑顔も見える

  暗闇は去り 柔らかな光が 変わってゆく様子を映し出す  

  ちょうどぎりぎりで 言葉が韻を踏めた

  ああ 、君に感謝を込めて

  その両手をキスと”トッツィー・ロール”(キャンディ・バー)でいっぱいにしよう

 

  リアリティなんて僕には向いてない 笑ってしまうんだ

  おとぎ話と ディズニー・ガール

  そこに僕は帰ってゆく

 

     パティ・ペイジと”オールド・ケイプ・コッド”の夏の日々

   家のガレージでワインを作った幸せな時間

   田舎の木陰でレモネード   気持ちもゆったりしてゆく


  僕が連れ戻された世界には 小さな町の地元の女の子がいる

     オープンカーと澄んだ星空 それは僕が失くしていたもの

 

   ああ、おとぎ話とディズニー・ガールズ 僕は帰ってゆく

 

   あのさ、ねえリック、デイヴ ねえパパ おはよう、ママ

   あのね、 起きてよ、なんだと思う?

   僕はある女の子を見つけて恋しているんだ

   本当に素敵な子なんだ 

   だって彼女は教会とビンゴのチャンスと昔風のダンスが好きなんだから

 

  これまでの人生 僕はずっと君を夢見て夜を過ごしてきた

  そして 失くした温もりも 願っていたものも

  みんな叶いそうなんだ

 

   僕には捧げられる愛があり 生きてゆく場所があり

   ずっとここにいるだろう

   それは心安らぐ暮らし 永遠に連れ添ってくれる奥さんと

   いつか子供も作って

 

   まだ夜は始まったばかり 枕投げをして

   君の優しい笑い声を聞く

   おとぎ話とディズニー・ガールズ

   そこに僕は帰ってゆく      ”(拙訳)

 **********************************

Clearing skies and drying eyes
Now I see your smile
Darkness goes and softness shows
A changing style

Just in time words that rhyme
Well bless your soul
Now I'll fill your hands
With kisses and a Tootsie Roll

Oh reality, it's not for me
And it makes me laugh
Oh, fantasy world and Disney girls
I'm coming back

Patti Page and summer days
On old Cape Cod
Happy times making wine
In my garage
Country shade and lemonade

Guess I'm slowing down
It's a turned back world
With a local girl
In a smaller town

Open cars and clearer stars
That's what I've lacked
But fantasy world and Disney girls
I'm coming back

Love...Hi Rick and Dave
Hi Pop...Well good morning mom
Love...get up guess what
I'm in love with a girl I found
She's really swell
Cause she likes
Church, bingo chances and old time dances

All my life I spent the night
With dreams of you
And the warmth I missed
And for the things I wished
They're all coming true

I've got my love to give
And a place to live
Guess I'm gonna stay
It'd be a peaceful life
With a forever wife
And a kid someday

It's earlier nights
And pillow fights
And your soft laugh
Fantasy world and Disney girls
I'm coming back
************************************************

 もともとこの曲は、彼がビーチ・ボーイズのメンバーとしてアルバム「サーフズ・アップ」の中で発表していたものです。


Disney Girls (1957)

 

 タイトルは「Disney Girls(1957)」と”(1957)”がついていました。1957年はブルースが15歳のときです。彼自身の郷愁が具体的に曲に反映されているのでしょう。

 村上春樹もこの曲を訳していて、タイトルを「1957年のディズニー・ガールズ」としています。

「実に真正面に懐古的で感傷的な曲である。でも、いんだよね。五十年代のアメリカの小さな町の風景。人々は教会に通い、子供たちはディズニー映画に夢中で、自動車はあくまで大きく、コンパーチブルの屋根を開けるとそこに満点の星があった。ラジオからはパティ・ペイジの「オールド・ケープ・コッド」が流れている。どこはもう幻想の世界だ。そんなものはもうどこにも存在しない。しかし彼がみつけた恋人は、彼をもう一度そんな世界に連れ戻してくれる。」

                          (「村上ソングス」)

 

 この歌詞の演出に大きな役割を果たしているのが、パティ・ペイジの「オールド・ケープ・コッド」です。


Patti Page - Old Cape Cod *****

  ”もし、あなたが砂丘と潮風がお好みならば

   趣のある小さな村があちこちにある

   懐かしいケープ・コッドに恋すること間違いなし

  <中略>

       手招きするように曲がりくねった道

  青空の下 ずっと続いてゆく緑

  日曜の朝には教会の鐘が鳴り

  あなたの生まれた町を思い出させるわ

  <後略>                  ”(拙訳)

 

 1957年の4月にリリースされ全米最高3位で100万枚以上を売り上げた大ヒット曲です。

 ケープ・コッドはマサチューセッツ州の大西洋に突き出た半島。「ウォールデン-森の生活」で有名な作家ヘンリー・デイヴィッド・ソローや画家のエドワード・ホッパーも愛した場所とのこと。アメリカ人の”原風景”を感じられる”なつかしい”場所のようです。

 

 1957年の懐かしい風景を歌ったこの曲に流れるのは、そのときのヒット曲であると同時に、もっと昔の”古き良きアメリカ”へ誘う曲だった、という”二重のタイム・スリップ感”が起こっているわけです。

 そんな技巧的なSF作家みたいな演出を彼が意図的にやったのかどうかは不明です。シンプルにロマンティックな素敵な曲ですから、ただ彼が好きだったからかもしれませんが。

 

 ブルース・ジョンストンは1950年代後半まだ十代の頃からアメリカ西海岸の音楽シーンで活動を始め、フィル・スペクターとバンドを組んだこともあったそうです。60年代始め頃からソロ・アーティスト、プロデューサー、ソングライターとしてサーフ・ミュージックを中心に活動していました。1965年にビーチ・ボーイズブライアン・ウィルソンがライヴ活動を辞めた時に、ブライアンの代役だったグレン・キャンベルのそのまた代役として参加し、その後正式なメンバーになりました。

 

 「5人の人に電話したらしいけれど、誰からもオーケイが取れずに、結局僕のところに回ってきたのさ。本当は2日間だけのはずだったのが、いつの間にかそれが8年間になっていた」(本人談「ビーチ・ボーイズ THE DIG SPECIAL EDITION)より)

 

 また、テリー・メルチャーと組んだ”ブルース&テリー”は、日本のポップス・マニアからも人気が高く、彼らの”Don't Run Away”(1966)という曲は山下達郎の人気曲「Only With You」を作る元になった曲として知られています。


Bruce and Terry - Don't run away

 彼の魅力はなんといってもロマンティックで人間的な温かみのある作風です。

この「ディズニー・ガール」も彼のパーソナリティが強く反映されているように思います。

 ”Rearity、It's not for me  and it makes me laugh”

 (リアリティなんて僕には向いてない 笑ってしまうんだ)

  男たるものリアリティに向き合わなければいけない、なんて昔から世間では言われがちですが、ポップ・アーティストたるもの、オレはファンタジーに生きるんだ、と言い切るところが素晴らしい、”ソフトな男気”を感じてしまいます。

 

 最後にこの曲のカバーをいくつか。

まずはママス&パパスのママ・キャス(1972年)。ブルース自身とカール・ウィルソンが参加。


Mama Cass - Disney Girls

 ビーチ・ボーイズのサポート・メンバーでもあったキャプテン&テニールのヴァージョン(1975年)


Disney Girls

 アート・ガーファンクルのヴァージョン(1975年)。バック・コーラス、ピアノ、そしてエンディングの口笛はブルース本人がやっているそうです。


Art Garfunkel - Disney Girls

 

歌の贈りもの

歌の贈りもの

 

 

サーフズ・アップ

サーフズ・アップ

 

 

キャス・エリオット

キャス・エリオット

 

 

愛ある限り

愛ある限り

 

 

愛への旅立ち(期間生産限定盤)

愛への旅立ち(期間生産限定盤)

 

 

村上ソングズ (村上春樹翻訳ライブラリー)

村上ソングズ (村上春樹翻訳ライブラリー)

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2010/11/01
  • メディア: 単行本