まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲を選曲しました(苦笑)。古今東西のポップ・ソングをエピソード、歌詞の和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。みなさんの音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの情報や思い出話などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「Shape of You」エド・シーラン(2017)

 おはようございます。

 今日はエド・シーランの代表曲であり、2017年の世界最大のヒットとなったこの曲です。


Ed Sheeran - Shape of You [Official Video]

 

 エド・シーランは、クラブ・ミュージックやHIPHOPのクリエイターと積極的にコラボしていますが、彼自身はギター弾き語りのオーソドックスなスタイルのシンガー・ソングライターです。自分でも”アコースティックな”人間だと自己評価しています。

  ポール・サイモンにも繋がるような、センスと叙情性を併せ持つ才能だと僕は思います。

 そんな彼が、これほど大きくブレイクしたのは、自分の世界の中で完結せず、オープンな姿勢で創作し続けているからだと僕は思います。

 

 この「Shape of You」が収録された「➗(DIVIDE)」というアルバムの制作時の彼を追った「ソングライター」という映画があって、なかなか興味深い内容でした。

 

 彼は自分が得意ではないトラック・メイキングをするクリエイターだけじゃなく、自分と同じようにギターを弾きながら曲を作る他のソングライターたちとも積極的に共作しているのです。

 曲作りのウェイトは圧倒的に彼が大きいと思うのですが、曲を少しでも良くするようなアイディアや何らかの化学反応を求めるのと同時に、常に客観的な視点を彼は取り入れようとしているのだと僕は感じました。

 

 それから、この映画の中で、彼は自分の母校に行って生徒たちに”ソングライティング”について語る場面があって、とても面白いものでした。

 彼はこんなことを語っていました。

 

「古い家の水道の蛇口をひねると、汚水が出てくる。泥や粘土やらいろんなものが混じって、それが10分くらい続く。でもそれもだんだん減ってきて、最後はきれいになる。

 僕が初めの頃に書いていた歌も、蛇口から出てくる汚水のようにひどいものだった。それでも、毎日2〜3曲作り続けてゆくと、良い曲が出てくるようになる。

 もしひどい曲だと思っても最後まで書き上げて、悪いものを出し切ったほうがいい。そうしないと次に書く作品に悪い影響が出てしまう。

 君たちは水の流れのようなものだ。

 たとえひどい曲でも書き続けて汚れを出し切ったほうがいい。そうすれば5年後にはそれまでで最高の曲ができるはずだ」

 

 書き続けることで”上手になる”というのはわかりますが、”汚れを出し切る”という視点には少し驚きますが、深くうなずけるものがあります。

 若い人が曲をはじめて書き始めるとき、たいていは自分の”不平不満”や”自己満足”を吐き出すことで終始してしまいます。しかし、ひたすら作る続けることで、そういう”汚れ”はやがて薄らぎ、淘汰されて、本当に自分にとって切実なものだけが残り、それは同時に他の人たちと深層で共鳴できるものであり、すなわちそれは曲にするに値すべきものだ、ということなんじゃないかと僕は思います。

 

 また、この映画の最後の方で彼は「アデルくらいビッグになってやろうって思わないヤツは、この音楽業界では負けだ」と言い切っていて、ソングライティングに関してあれほど純粋な哲学を持ちながらも、同時に相当タフな野心を持っている人、なのだと気付かされます。だからこそ、彼は成功しているのでしょう。

 

 さて、この「Shape of You」はアルバムがほぼ出来上がったときに、レーベルから売れるシングルが欲しいという要望を受けて仕上げたものだったようです。

 

 もとは、エドとスティーヴ・マックとスノウ・パトロールというバンドのメンバー、ジョニー・マクデイドの三人で他のアーティストに提供するものとして共作したものでした。

 提供する相手は最初はリトル・ミックス、それから曲を作るうちにリアーナが合っているんじゃないかという話になったそうです。

   曲作りは、スティーヴの作った、あの印象的なキーボードのリフからはじまったそうです。そして、そこにリズム要素を加えてゆくという、いわゆるR&B的なソングライティング手法です。

 そして、三人の誰もこの曲にのめり込むことなかったようで、ただ淡々と作業をし、同じ日に他にもう2曲作ったそうです。

 結局、リアーナが歌わなそうな歌詞がついたことや、レーベルサイドがこの曲を気に入ったことなどもあって、この曲はアルバムに入れることになり、シングル候補になります。

 曲の構造は、一つのパターンを反復するだけのシンプルなものなので、それを単調に聴こえないように、アレンジやミックスには苦労したようです。オリジナルとは別の新しいヴァージョンも作ったようですが、オリジナルをやり直すことを選んで試行錯誤するエドの姿を映画「ソングライター」で見ることができます。

 

 ともかく、エド・シーラン最大のヒット曲は、もともと自分が歌うつもりじゃなく女性シンガー向けで、かつ本来はギターを弾きながらメロディ先行で作ることの多い彼が、リフ先行でトラックにのせて曲を考えるというHIP-HOPやR&Bの制作スタイルで作ったものだったわけです。

 

 本当に何が当たるのかわからないのが、音楽の世界なんですね。

 しかし、彼のオープンな創作姿勢と、自分が一番売れてやるという野心がなければ間違いなくこの曲はできなかったと思います。

 

   ちなみに、この曲のサビのメロディーの一部がTLCのヒット曲「No Scrubs」に近いということで、「No Scrubs」の作者も共作者としてクレジットされています。


TLC - No Scrubs

 ほんの2小節程度のメロディーの動き方が似ているだけですが、R&Bっぽいループするビートと伴って伝わる印象から、盗作騒ぎになるのを事前に防ごうという危機管理なんでしょうね。

 ロビン・シックの「ブラード・ライン」がマーヴィン・ゲイの「黒い夜」の盗作だと訴えられて敗訴したというのが、かなり大きかったんじゃないでしょうか。 

popups.hatenablog.com

 

 「No Scrab」を書いた三人は、ものすごい額の”棚ぼた印税”が入ったはずです。

 うち二人は、1990年代に活躍したXscapeというグループのメンバーで、彼女たちは2017年にリユニオンしているので、”Shape of You"景気が後押ししたんじゃないかって、僕は一人で勘ぐっていますけど、、。

  

÷(ディバイド)

÷(ディバイド)

 

 

SHAPE OF YOU

SHAPE OF YOU

  • アーティスト:SHEERAN, ED
  • 発売日: 2017/02/24
  • メディア: CD