おはようございます。
今日はボビー・フラー・フォーの「I Faught The Law」。
Bobby Fuller Four - I Fought The Law(1966)
さて、この曲も前に紹介しました、レオ・セイヤーの「星影のバラード」と同じく、オリジナルはバディー・ホリーのバンドだったザ・クリケッツで、作者はソニー・カーティスの作品です。
オリジナルはこんな感じです。
The Crickets - I Fought The Law
"灼けつく太陽の下で 岩石を砕いている
オレは法律と戦って 法律がオレに勝ったから
オレは法律と戦って 法律が勝ったんだ
オレは金が必要だった 一文無しだったから
オレは法律と戦った 法律がオレに勝った
かわいい彼女を残してきて まったくひどい気分だ
いよいよ運も尽きたんだな 今までで一番の女だったのになあ
オレは法律と戦った 法律がオレに勝った
リボルバーで強盗を働いたんだ
オレは法律と戦った 法律がオレに勝った
彼女を失い 楽しいこともなんにもなくなった
オレは法律と戦って 法律がオレに勝ったから”
(拙訳)
強盗をしてつかまって、鉄道敷設のためでしょうか岩や岩盤を砕く労働を強いられている囚人の”一人語り”の歌です。
作者のソニー・カーティスもバディ・ホリーやクリケッツはみなテキサス州の出身。カントリー・ミュージックの土地ですね。ソニー・カーティスは後年カントリーに戻っていきましたから、この曲もカントリー・ミュージックによく出てくる西部の荒くれ者の歌、を当時流行していたロックンロール・スタイルでやったものと理解するのがいいのでしょう。
ボビー・フラー・フォーのヒットを受けて、翌1966年にソニー・カーティスがこの曲のセルフカバーをやっています。ストーリーを語るカントリー調で、これがこの曲の本来の形なのかもしれません。
Sonny Curtis ( The Crickets ) - I Fought The Law (1966) - 1st Of Sonny Curtis LP
同じテキサス州出身のクリストファー・クロスも、ソフトなAORのイメージなのに「風立ちぬ」の歌詞は”西部劇の逃亡者”を扱ったものだったことを思い出しました。こういう土地に根付いた感覚というのは日本人にはなかなかわかりにくいものではありますが。
そしてこの曲をカバーしてヒットさせたボビー・フラーも同じテキサス出身、地元のヒーローだったバディ・ホリー&ザ・クリケッツと同じ編成で作ったのがボビー・フラー・フォーでした。彼らはローカルで活動し「I Fought The Law」も一度リリースしていましたが、メジャーと契約しヒットが必要になった時に再度レコーディングをしたそうです。
この曲が全米最高9位の大ヒットになった翌年、ボビー・フラーは自宅前の車の中で亡くなっていたのが見つかります。まだ23歳でした。マフィアに殺害されたという説もあって、死因はいまだに解明されていないようです。
それから、13年後の1978年、セカンド・アルバムのダビングのためにサンフランシスコのスタジオにやってきて、そこにあったジュークボックスでボビー・フラーのこの曲を初めて聴いて夢中になったのが、ザ・クラッシュのジョー・ストラマーとミック・ジョーンズでした。彼らがカバーした(1979年)ことで、この曲に新たな命が吹き込まれることになります。
The Clash - I Fought the Law (Official Video)
1978年と言えば、パンクがガンガン盛り上がってきて頃です。
"I Fought The Law and The Law won"(オレは法律と戦って、法律が勝った)
というフレーズが、彼らの心をとらえたのでしょう。
このPVを見てもわかる通り、彼らは、法律を体制や権威の象徴として表しています。体制や権威に反抗し、たとえ負けるとわかっても歯向かう、というのはパンクの本質的な姿勢であり、それはロックンロールの本来のスピリッツでもあるでしょう。
彼らによって、この曲は”権威に立ち向かう者たちのアンセム”に生まれ変わったのです。
いわば、
”テキサスの荒くれ者の歌が、ロンドンの怒れる若者の歌として蘇った”のです。
それは、作者のソニー・カーティスの意図するところとは離れているかもしれませんが、創作物というのは最初に作られたときに完結するものではなく、聴き手の自由な解釈によって”作られ続ける”ものだと思いますし、新たな解釈で命が吹き込まれるということは、オリジナルがそれだけのポテンシャルを持った優れた作品だったと言う証明なんだと思います。
付け加えるなら、ボビー・フラーがカバーしていなかったら、間違いなくクラッシュのカバー・ヴァージョンは存在していなかったはずです。
その後は、本当にたくさんのロック・バンドがこの曲をカバーするようになりました。
その中で、真島昌利のカバーを今回初めて聴いたのですが、勝手な先入観できっとクラッシュっぽいんだろうなどと思っていたら、なんとカントリー風のアレンジで日本語歌詞も英詞に忠実、この曲の本来の世界を引き出したものでした。素晴らしい。動画が見つからなかったのですが、興味のある方はぜひ。
最後に数多あるカバーの中から、誰も選びそうもないもの(?)を。
クリス・クリストファーソンとリタ・クーリッジ。1978年のアルバム「Natural Act」に収録。そう、ザ・クラッシュと同時期でよりちょっと早いんです。もちろん、この2組がこの曲をカバーした関連性はまったくないのですが、、。あと、ブルース・スプリングスティーンやトム・ペティも1978年にライヴで演奏していたようで、シンクロしたんじゃないかなどと、勝手に僕は思っています。
I Fought The Law Kris Kristofferson and Rita Coolidge