まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「兄弟の誓い(He Ain't Heavy, He's My Brother)」ホリーズ (1969)

 おはようございます。

 今日はホリーズの「兄弟の誓い」を。

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The road is long
With many a winding turn
That leads us to who knows where
Who knows where
But I'm strong
Strong enough to carry him
He ain't heavy, he's my brother

So on we go
His welfare is of my concern
No burden is he to bear
We'll get there

For I know
He would not encumber me
He ain't heavy, he's my brother

If I'm laden at all
I'm laden with sadness
That everyone's heart
Isn't filled with a gladness
Of love for one another

It's a long, long road
From which there is no return
While we're on the way to there
Why not share

And the load
Doesn't weigh me down at all
He ain't heavy, he's my brother

He's my brother
He ain't heavy, he's my brother

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道は長く

いくつも曲がりくねっている

それが僕たちをどこに導くのか

誰にもわからない 誰にもわかるはずもない

だけど僕は負けない

彼を運べるほど強いんだ

重くなんかないよ、僕の兄弟なんだから

 

だから、僕たちは進む

彼が幸せに暮らせるかどうかが気がかり

負担なんかじゃない

僕らはたどり着くさ

 

そうなんだ、彼は僕の重荷じゃない

重くなんかないよ、僕の兄弟なんだから

もし僕が何かを背負っているとしたら

それは、みんなの心が愛し合う喜びで

満たされていないという悲しみを背負っているのさ

 

それは長い、長い道

もう引き返せない場所から続いている

その道の途上にいるのだから

分かち合おう

 

この道は 僕を決して押しつぶしたりしない

重くなんかないさ、僕の兄弟なんだから

 

彼は僕の兄弟さ 

重くなんかない 僕の兄弟なんだから
               (拙訳)

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 いつからか、同じ時代にヒットしたサイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」やビートルズの「ロング・アンド・ワインディング・ロード」より、この曲のほうが胸にグッとくるようになっていました。

   1969年に全英3位、全米7位、イギリスでは1988年にビールのCMに使われたことで再発され見事ナンバー・ワンになっています。

 

 この”He Ain't Heavy, He's My Brother”というタイトルは、1917年にカトリック司祭のエドワード・フラナガン神父によってネブラスカ州オマハ設立されたコミュニティ"Boys Town"のモットーが由来になっています。"Boys Town"は住む家がなかったり、さまざまな問題を抱えた少年たちを保護する施設でした。

 

 翌1918年に、母親から捨てられ、ポリオを患っていた少年を"Boys Town"で引き取ったのですが、歩行が困難な彼を年長の少年たちが背負って階段を上り下りするようになり、あるとき神父が少年に重くないか?と尋ねたところ、こう答えたそうです。

“He ain’t heavy, Father… he’s m’ brother.”

(重くないですよ、神父さま、彼は僕の兄弟です)

 

 それから月日が経って1941年にフラナガン神父は『Loui Allis Messenger』という雑誌に年長の少年が年少の少年を背負っている画像を見つけます。キャプションには "He ain't heavy, mister... he's my brother. "と書かれてあり、かつての自身のエピソードを思い出した彼はその雑誌社に連絡し、その言葉を”Boys Town”のモットーにする許可を取ったのだそうです。

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 ”Boys Town”とフラナガン神父の物語は1938年に「Boys Town(少年の町)」というタイトルで映画になり、神父を演じたスペンサー・トレイシーがアカデミー最優秀主演男優賞を獲得しています。1941年にはその続編である「Men Of Boys Town(邦題:感激の町)」が作られ、そこでは”He ain't heavy, Father, he's my brother”というフレーズが使われていたそうです。

   そして”Boys Town"には少年が少年を背負った銅像が建てられ、そこにこの言葉が刻まれました。

 

 というわけで、この言葉を有名にしたのは”Boys Town"とフラナガン神父でしょうが、神父が『Loui Allis Messenger』でこの言葉を見つけたということは、ルーツは他にあるようです。

 1924年アメリカの奉仕団体キワニスの雑誌編集者であるロー・フルカーソンが、「He Ain't Heavy, He's My Brother」というタイトルのコラムを書いていて、彼が、赤ん坊を抱えてフラフラ歩いている、やせっぽちで体の弱そうな若者に"小さな子供には大きな荷物だな”と声をかけたら、”Why, mister, He ain't heavy; he's my brother. と笑って答えたという話だったようです。

 

  しかし、遡るともっとあるようで、スコットランド合同自由教会のジェームズ・ウェルズが1884年に出版した『イエス・キリストのたとえ話(Parables of Jesus)』の中で、小さな女の子が大きな男の赤ちゃんを抱っこして苦労している様子を見て、誰かが「疲れていないか」と尋ねると、彼女は驚いて"No, he's not heavy; he's my brother."と答えたとあります。

 

 兄弟愛もしくは、男の同胞愛をイメージさせるこの言葉のルーツをたどってゆくと、幼い弟を抱っこした小さな女の子にたどりつく、というのもとても興味深いことです。

 さて、この曲を書いたのはボビー・スコット(作曲)、ボブ・ラッセル(作詞)の二人。

 ボブ・ラッセルはコピーライターから映画音楽のソングライターになった人で、デューク・エリントンとも共作し、「ブラジルの水彩画」の英語詞も彼によるものです。

 

 ボビー・スコットはジャズ・ピアニストでシンガー、1960年代にはクインシー・ジョーンズチェット・ベイカーのアルバムでプレイしています。シンガーとしても味わい深い魅力がある人で、僕は1993年に小西康陽さんの監修で日本で再発した彼の「フロム・エデン・トゥ・カナン」(1976年作)で初めて知りました。

 

 ハーブ・アルパートのこの代表曲を作曲したのも彼です。

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 スコットとラッセルを引き合わせたのは、「ムーン・リバー」など数々のアメリカン・スタンダードを書いたジョニー・マーサーだったそうですが、ラッセルはスコットより20歳以上も年上で、このときにはすでに悪性リンパ腫を患っていて、二人は三回の顔合わせでこの曲を作り、発売された翌年に彼は亡くなってしまいます。

 

  この曲を最初にレコーディングし発売したのはアメリカのシンガー、ケリー・ゴードンでした。

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 ケリーのヴァージョンはヒットしませんでしたが、彼の歌いっぷりを聴いたイギリスの音楽出版社の人間はジョー・コッカーがカバーするといい思って提案したそうですが、コッカーは気に入らなかったと言われています。そして、たまたま曲を探しに来ていたホリーズのトニー・ヒックスに聴かせると、気に入って自分たちでやろうということになったそうです。

 ホリーズは中心メンバーの一人グラハム・ナッシュが脱退した時期で(クロスビー、スティルス&ナッシュを結成)、彼が脱退して2曲めのシングルでした。

 

  その後この曲は、ニール・ダイアモンド、グレン・キャンベルオリヴィア・ニュートン・ジョン、ビル・メドレー(映画「ランボー3」に使われヒット)など、120以上のカバーが存在するスタンダードになっています。

 

 近いところでは2012年に、ヒルズボロの悲劇(サッカースタジアムで起こった観客事故)のチャリティー・シングルとして、賛同するアーティストたちが”ジャスティス・コレクティヴ”という名義でリリースしたもの(全英1位)。ポール・マッカートニーも歌とギターソロで参加しています。

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    数多あるこの曲のカバーで僕が一番好きなのが、ダニー・ハサウェイ。ライヴ盤でもやっていて、それも素晴らしいですが、今日はセカンドアルバムに収録されていたヴァージョンを。

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 そして、最後は作者のボビー・スコットがホリーズの翌年に発表したセルフ・カバー。語りから曲に入る構成になっていますが、なかなか味わい深いヴォーカルです。彼は1990年に亡くなっているのですが、個人的にじっくり研究してみたいなと思うアーティストです。

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「兄弟の誓い」を含むアンソロジー

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  • アーティスト:Hollies
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