まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「Baby , It's Cold Outside」ジェイムス・テイラー&ナタリー・コール(2006)

 おはようございます。

 

 「もう帰らなくなくちゃ」   「でも外は寒いよ」

 

 男性の部屋に立ち寄った女性を男がああだこうだ言って引き留めようとする、そんな歌ですが、アメリカではクリスマス・シーズンのスタンダード曲です。本当にたくさんのアーティストが取り上げているのですが、僕が一番好きなのが、ジェイムス・テイラーナタリー・コールのヴァージョンです。

 


NATALIE COLE JAMES TAYLOR Baby It's Cold Outside

 

 さて、昨年(2018年)この曲が思わぬ方面からクローズアップされたことを覚えている方もいると思います。

 相手を無理やり引き留めるようとする歌詞が女性へのハラスメントにあたるんじゃないか、ということで、この曲の放送をいくつかの放送局が取りやめるという事態にまでなったのです。以前からそういう意見はあったようですが、ちょうど昨年「#MeToo」の動きが拡大するとともに、この曲を非難する声がネットで大きくなりました

 特に、歌詞の中の”What's In This Drink?"(このお酒に何入れたの?)というところが、「デート・レイプ」にあたるという話になったようです。

 

 さて、この曲が作られたのは1944年。今から75年も前です。そんな大昔の曲が、なぜバッシングの矢面に立つことになったのでしょう?

 

 この曲はもともと、作詞、作曲家のフランク・レッサーという人が作ったのですが、自分たちが主催したパーティで奥さん(歌手のリン・ガーランド)と歌うためだったそうです。お客さんにパーティのお開きの時間が近づいたことを知らせる合図だったというます。

 レッサーはもともと作詞をメインにしてミュージカルなどで活動してきていた人ですから、歌詞を工夫したんですね。ストレートなお別れの歌ではなく、男女の軽妙なやりとりにすることで、お客さんを喜ばせようということでしょう。

 

 レッサーは1969年に亡くなってしまっていますが、彼の娘さんは、昨年の騒ぎについて、ラジオが放送取りやめたのを知ったら父親は激怒していただろうと言っています。”What's In This Drink?"も実際にドラッグを入れるなどという意図は全くなく、当時はお酒が回ったことを意味するだけの言葉だった、と。

 レッサー夫妻はパーティーの度にこの曲を披露していたようですが、1949年にレッサーは曲の権利を映画会社に売ってしまいます。

 それを知った奥さんは激怒します。「旦那が他の女とベッドにいるのを見つけたような、裏切られた気持ちだった”とまで言っていたそうです。

 

   しかし、この曲は「水着の女王」という映画で使われ大ヒットします。この曲はアカデミー賞の最優秀主題歌賞まで取ってしまいます。映画自体は全然受賞していませんから、この歌は相当な人気だったんですね。

 「水着の女王」の中では、二組の男女がこの歌を歌うのですが、二組目は男女逆転して、女性が引きとめ役になっています。”寒いからコートを貸してくれる”というところでは、男性が女性のコートを借りて身に着ける、なんていうギャグも入っています。


Baby it's cold outside

 引き留められている女性も「あとお酒を半分だけ」とか「煙草を一本だけ」とか言って名残惜しい気持ちがあることを匂わせています。

 本来、この曲は、女性のほうもまんざらでもない、少なくとも不快ではない、ということが前提になっているわけです。

 かと言って、昨年のハラスメント騒ぎを、誤解だとか過剰な反応、と断ずる気持ちになれないのも確かです。作者にその意図はなくとも、当事者が実際に傷ついたり、不快な思いをしたのであればそれをとやかく言えません。

 

 ただ、上に張り付けた「水着の女王」のシーンを見ればわかる通り、そこに映し出されているのは遥か遠い時代の世界観で、アメリカが栄華を誇っていた頃ならではのものです。

 今の時代の感覚と相当ギャップがあると思います。

 では、なぜわざわざそういう”前時代の曲”が避難されることになったかというと、この曲は21世紀に入ってから俄然カバーされるようになったんですね。しかも、2000年代より2010年代のほうが多いかもしれないくらいです。

 

 曲として本当によくできていますし、クリスマスに男女デュエットで歌える数少ないレパートリーだということもあって、クリスマス・アルバムを作るアーティストにとっては、取り上げたくなる曲なのかもしれません。

 前時代的な男女のやりとりが”古き良きアメリカ”を思い出さてくれる、そういうこともある気がします。

 とはいえ、女性へのハラスメントが社会問題化していく時代の中で、この曲をラジオやTVで聴く機会が増えるわけです、しかも、レディ・ガガなど”今の”アーティストが歌い直すことで、この曲の世界感が”現役”として聴こえてくる、その中には歌い手の解釈によって異なったニュアンスも立ち上がってくる、そういうこともあったのではないかと僕は思います。

「#Me Too」の動きの拡大と同時に、この曲がどんどんカバーされている状況があったとことも大きかったのだと僕は思います。

 

 さて、その騒動をうけてこの曲をアップデートしたのがジョン・レジェンドです。

 彼は今年発売したクリスマス・アルバムでこの曲を取り上げたのですが、歌詞を大幅に書き換えています。

 男のセリフはほぼ全部変更、女性のセリフも例の”What's In This Drink?"などを変更しています。

 「もう帰らなくちゃ」という女性に対し「じゃあ、車呼ぶよ」とか「うち着いたらメールして」とか全く引き止めません。

 「もう一杯だけ飲もうかしら」と言ったら「君の体だから、きみのご自由に」

とこんな調子です。

 原詞の問題になった個所を直すということではなくて、今風なコミカルさを演出したかったようです。

 彼はこの歌詞を、ナターシャ・ロスウェルと共同で書いています。彼女は「サタデー・ナイト・ライヴ」の構成作家をやっていたこともあるコメディアン、女優です。

  ジョンとデュエットしているのはケリー・クラークソン。彼女は2013年の自分のクリスマス・アルバムでもこの曲を取り上げています(こちらは、もちろん原詞です)


John Legend - Baby, It's Cold Outside (Official Audio) ft. Kelly Clarkson

 このヴァージョンも、オリジナル曲を支持する人から非難されたそうです。キリがない状況のようですね。

 夫婦がハウス・パーティで仲睦まじく披露した余興の歌が、70年たって「デート・レイプ」の歌と解釈される、これは極端な例ですが、時代の変化で言葉や表現というのは解釈が大きく変わってゆくものなんだなあとつくづく思います。

 久しぶりにジェイムス・テイラーのヴァージョンを聴きながら、JTのヒューマンな歌声はハラスメントとはかけ離れてる、などと思っていたのですが、こういう優しい男が豹変するパターンはよくあるしなあ、とか思い始めてしまって、結局以前のようにリラックスして聴けなくなってしまいました、、、。

 

 

 

 

James Taylor at Christmas

James Taylor at Christmas

  • アーティスト:James Taylor
  • 出版社/メーカー: Sony
  • 発売日: 2006/10/10
  • メディア: CD
 

 

Baby, It's Cold Outside

Baby, It's Cold Outside