まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ベイビー、外は寒いよ(Baby , It's Cold Outside)」ジェイムス・テイラー&ナタリー・コール(2006)

  おはようございます。

 今日は「ベイビー、外は寒いよ(Baby , It's Cold Outside)」。

 「もう帰らなくなくちゃ」   「でも外は寒いよ」

 男性の部屋に立ち寄った女性を男がああだこうだ言って引き留めようとする、そんな歌ですが、アメリカではクリスマス・シーズンのスタンダード曲になっています。本当にたくさんのアーティストが取り上げているのですが、僕が一番好きなのが、ジェイムス・テイラーナタリー・コールのヴァージョンです。

www.youtube.com

I really can't stay
>Baby, it's cold outside
I've got to go away
>Oh darling, it's cold outside
This evening has been
>Just hoping that you'd drop in
So very nice
>I'll hold your hands, they're just like ice
My mother will start to worry
>Beautiful, what's your hurry?
My father will be pacing the floor
>Listen to that fireplace roar
So really I'd better scurry
>Oh beautiful, please don't hurry
Well, maybe just a half a drink more
>Why don't you put some music on while I pour
The neighbors will think
>Baby, it's bad out there
Say, what's in this drink?
>There's no cabs to be had out there
I wish I knew how
>Your eyes are like starlight now
To break this spell
>I'll take your hat, your hair looks swell
I ought to say no, sir
>Mind if I move in a little closer?
At least I'm going to say that I tried
>Oh, what's the sense in hurting my pride?
I really can't stay
>Baby, don't hold out
Ah, but it's cold outside

 

"What are you doing with your coat?
You don't need your coat
What are you putting your coat on for?
It's warm in here"
"You don't understand"


I simply must go
>Baby, it's cold outside
Oh, the answer is no
>Oh darling, it's cold outside
This welcome has been
>Lucky that you dropped in
So nice and warm
>Look out the window at that storm
My sister will be suspicious
>Please but your lips look so delicious
My brother will be there at the door
Waves upon a tropical shore
My maiden aunt's mind is vicious
>Oh but your lips look delicious
Well, maybe just a half a drink more
>There was never such a blizzard before
Ooh, I got to go home
>Baby, you'll freeze out there
Say, lend me your coat
>It's up to your knees out there
You've really been grand
>I thrill when you touch my hand
But don't you see
>How can you do this thing to me?
There's bound to be talk tomorrow
>Think of my lifelong sorrow
At least there will be plenty implied
>If you caught pneumonia and died
I really can't stay
>Get over that old out
Ah, but it's cold outside
Ah, but it's cold outside

Baby, it's cold outside
Baby, it's cold outside
It's cold outside
It's cold
Baby, it's cold outside
You know that it's, you know that it's cold outside
Ah, it's cold outside


"Darling, as a friend"
"Sure, James"
"As a friend you, you must stay and, and warm up by this fire little bit
Let me get you, let me get you a hot toddy or something"
"Well, I really can't, I mean, my mother will worry about me"
"People are so suspicious, it's just an innocent suggesting
You stay warm and keep yourself healthy that's all
It's nippy out there, it's cold"
"Oh, you know that drink does look kinda nice"
"It is a perfectly nice drink"

Baby, it's cold out; baby, it's cold
It's warm in here
Baby, it's cold out
Baby, it's cold outside

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ほんとに帰らなきゃ
>ベイビー、外は寒いよ
もう行かなくちゃ
>ああ、ダーリン、外は寒いよ
今夜は
>君が家に来てくれないかって思ってたんだ
すごく素敵だった
>君の手を握ろう、氷のよう冷たいじゃないか
ママが心配し始めるわ
>美しい人よ、何を急いでるんだい?
パパはイライラしてるわ
>暖炉の音に耳を傾けて
だからほんとに急がないと
>ああ、美しい人よ、どうか急がないで
うん、じゃあグラスに半分くらいなら
>僕が注ぐ間、音楽をかけてもらえる?
近所の人たちは勘ぐるんじゃないかしら
>ベイビー、外はひどい天気だ
ねえ、飲み物に何を入れたの?
>タクシーはつかまりっこないさ
わかったらいいのに
>君の瞳は今、星の光のようだ
この呪文を破る方法を
>帽子を取ってあげるよ 君の髪はすばらしいね
NOと言うべきなのよ ね?
>もう少し近づいてもいいかな?
少なくともそう言おうとしてると言うわ
>ああ、僕のプライドを傷つけてどうするんだい?
本当に帰らないと
>ベイビー、我慢しないで
ああ、だけど外は寒い

 

「コートなんか持ってどうしたの?
コートは必要ないよ
なんのためにコートを着るの?
ここは暖かいよ」
「あなたにはわからないの」


ただ行かなくちゃいけないの
>ベイビー、外は寒いよ
ああ、答えはNO
>ああ、ダーリン、外は寒いよ
あなたのおもてなしは
>君が来てくれてラッキーだった
とても素敵でくつろげたわ
>窓の外は嵐だよ
妹はきっと疑うわ
>ああ、君の唇に惹かれてしまう
兄さんがドアの前まで来るかも
>南国の海岸に打ち寄せる波のよう
私の叔母はいじわるなの
>ああ、でも、君の唇はおいしそうだね
まあ、もうグラス半分だけなら
>こんな吹雪は初めてだよ
ああ、家に帰らなくちゃ
>ベイビー 、外に出たら凍えちゃうよ
ねえ、あなたのコートを貸して
>君の膝くらいまで雪が積もってる
あなたは本当に素晴らしい人
>君の手に触れただけでゾクゾクする
だけど、わからないの?
>どうしてこんなことをするんだい?
きっと明日もお話はできるわ
>僕が一生悲しむって考えてみて
少なくとも、そのつもりはあるのよ
>もし君が肺炎になって死んだりしたら...
本当にいられないのよ
>我慢なんかしないで
ああ、だけど、外は寒い
ああ、だけど、外は寒い

ベイビー、外は寒い
外は寒い
寒いわ
ベイビー、外は寒いんだ
分かってるだろ、外は寒いんだ
ああ、外は寒い

 

「ダーリン、友達として」
「もちろん、 ジェームス」
「友人として、君はこの暖炉のそばで暖まらなくちゃいけないよ
ホット・トディ*かなにか持ってくるよ」
「ねえ、無理なの ママが心配するわ」
「人は疑うものさ、これは他意のないただの提案だよ
暖かくして、体を大事にするんだ それだけさ
外は凍てつくように、寒いから」
「ああ、その飲み物はすごくおいしそうね」
「申し分なくおいしいよ」

 

ベイビー、外は寒いよ、ベイビー、寒いね
ここは暖かいよ
ベイビー、外は寒いよ
ベイビー、外は寒いよ                (拙訳)

 

*ホット・トディ・・・蒸留酒に砂糖やはちみつ、レモンを加えてお湯で割ったホットカクテルのこと

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 さて、昨年(2018年)この曲が思わぬ方面からクローズアップされたことを覚えている方もいると思います。

 相手を無理やり引き留めるようとする歌詞が女性へのハラスメントにあたるんじゃないか、ということで、この曲の放送をいくつかの放送局が取りやめるという事態にまでなったのです。以前からそういう意見はあったようですが、ちょうど昨年「#MeToo」の動きが拡大するとともに、この曲を非難する声がネットで大きくなりました

 特に、歌詞の中の”What's In This Drink?"(このお酒に何入れたの?)というところが、「デート・レイプ」にあたるという話になったようです。

 

 さて、この曲が作られたのは1944年。今から75年も前です。そんな大昔の曲が、なぜバッシングの矢面に立つことになったのでしょう?

 

 この曲はもともと、作詞、作曲家のフランク・レッサーという人が作ったのですが、自分たちが主催したパーティで奥さん(歌手のリン・ガーランド)と歌うためだったそうです。お客さんにパーティのお開きの時間が近づいたことを知らせる合図だったといいます。

 

 レッサーはもともと作詞をメインにしてミュージカルなどで活動してきていた人ですから、歌詞を工夫したんですね。ストレートなお別れの歌ではなく、男女の軽妙なやりとりにすることで、お客さんを喜ばせようということでしょう。

 

 レッサーは1969年に亡くなってしまっていますが、彼の娘さんは、昨年の騒ぎについて、ラジオが放送取りやめたのを知ったら父親は激怒していただろうと言っています。”What's In This Drink?"も実際にドラッグを入れるなどという意図は全くなく、当時はお酒が回ったことを意味するだけの言葉だった、と。

 

 レッサー夫妻はパーティーの度にこの曲を披露していたようですが、1949年にレッサーは曲の権利を映画会社に売ってしまいます。

 それを知った奥さんは激怒します。「旦那が他の女とベッドにいるのを見つけたような、裏切られた気持ちだった」とまで言っていたそうです。

 

   しかし、この曲は「水着の女王」という映画で使われることになり、大ヒットします。おまけにアカデミー賞の最優秀主題歌賞まで取ってしまいます。映画自体は全く受賞していませんから、この歌だけが評価されたというわけです。

 

 「水着の女王」の中では、二組の男女がこの歌を歌うのですが、二組目は男女逆転して、女性が引きとめ役になっています。”寒いからコートを貸してくれる”というところでは、男性が女性のコートを借りて身に着ける、なんていうギャグも入っています。


Baby it's cold outside

 引き留められている女性も「あとお酒を半分だけ」とか「煙草を一本だけ」とか言って名残惜しい気持ちがあることを匂わせています。

 本来、この曲は、女性のほうもまんざらでもない、少なくとも不快ではない、ということが前提になっているわけです。

 かと言って、昨年のハラスメント騒ぎを、誤解だとか過剰な反応、ときっぱりと断ずる気持ちにもなれないのも確かです。作者にその意図はなくとも、当事者が実際に傷ついたり、不快な思いをしたのであればそれをとやかく言えません。

 

 ただ、上に張り付けた「水着の女王」のシーンを見ればわかる通り、そこに映し出されているのは遥か遠い時代の世界観で、アメリカが栄華を誇っていた頃ならではのものです。

 今の時代の感覚とは相当なギャップがあるのは間違い無いでしょう。

 

 では、なぜわざわざそういう”前時代の曲”が非難されることになったかというと、この曲は21世紀に入ってから俄然カバーされるようになったからなんですね。しかも、2000年代より2010年代のほうが多いという、右肩上がりの人気曲になっていたんですね。

 

 曲として本当によくできていますし、クリスマスに男女デュエットで歌える数少ないレパートリーだということもあって、クリスマス・アルバムを作るアーティストにとっては、取り上げたくなる曲なのかもしれません。

 前時代的な男女のやりとりが”古き良きアメリカ”を思い出さてくれる、そういうこともある気がします。

 とはいえ、女性へのハラスメントが社会問題化していく時代の中で、この曲をラジオやTVで聴く機会が増えるわけです、しかも、レディ・ガガなど”今の”アーティストが歌い直すことで、この曲の世界感が”今の時代”のものとして聴こえはじめ、その中には歌い手の解釈によってまた異なったニュアンスも立ち上がってきてしまう、そういうこともあったのではないかと僕は思います。

 

「#Me Too」の動きの拡大と同じ時期に、この曲がどんどんカバーされている状況があった、これがこの曲へのバッシングを加速化させた背景だったのです。

 

 さて、その騒動をうけてこの曲をアップデートして見せたのがジョン・レジェンドです。

 彼は今年発売したクリスマス・アルバムでこの曲を取り上げたのですが、歌詞を大幅に書き換えています。

 男のセリフはほぼ全部変更、女性のセリフも例の”What's In This Drink?"などを変更しています。

 「もう帰らなくちゃ」という女性に対し「じゃあ、車呼ぶよ」とか「うち着いたらメールして」とか全く引き止めません。

 「もう一杯だけ飲もうかしら」と言ったら「君の体だから、きみのご自由に」

とこんな調子です。

 原詞の問題になった個所を直すということではなくて、今風なコミカルさを演出したかったようです。

 彼はこの歌詞を、ナターシャ・ロスウェルと共同で書いています。彼女は「サタデー・ナイト・ライヴ」の構成作家をやっていたこともあるコメディアン、女優です。

  ジョンとデュエットしているのはケリー・クラークソン。彼女は2013年の自分のクリスマス・アルバムでもこの曲を取り上げています(こちらは、もちろん原詞です)


John Legend - Baby, It's Cold Outside (Official Audio) ft. Kelly Clarkson

 このヴァージョンは、かえってオリジナル曲を支持する人からは非難されたそうな気がするもしますが、そんなこと言っていてはもうキリがないですね。

 夫婦がハウス・パーティで仲睦まじく披露した余興の歌が、70年たって「デート・レイプ」の歌と解釈される、この曲の場合は極端な例ですが、時代の変化で言葉や表現というのは解釈が大きく変わってゆくものなんだなあとつくづく思います。

 

 久しぶりにジェイムス・テイラーのヴァージョンを聴きながら、やっぱりJTのヒューマンな歌声はハラスメントとは無縁だよなあ、などと思っていたのですが、こういう優しい男がサイコパスだったなんてパターンはよくあるし、、とかふと思い始めてしまって、もはや以前のようにリラックスして聴けなくなってしまいました、、、w。

 

 

James Taylor at Christmas

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