まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「アイ・ウォント・ハー(I Want Her)」キース・スウェット(1987)

 おはようございます。

今日はキース・スウェット。ベテランR&Bファンには懐かしい、”ニュー・ジャック・スウィング”最初の大ヒット曲です。


Keith Sweat - I Want Her

 この曲を作ったのはテディ・ライリー。彼の作ったサウンドが”ニュー・ジャック・スウィング”と呼ばれました。

 それまで、彼はヒップホップのトラック・メイカーで”ラップもの”しか作ったことはありませんでした。ニューヨークのクラブシーンでキース・スウェットと出会い、一緒に彼の作品を作ろうという話になります。キースは昼は証券マンをやり、夜はクラブで歌うという活動をしていました。

 テディは自己流でラップのトラックを作っていただけで、R&Bの知識は皆無だったので、先達の作品から学ぶことにしたそうです。

 クインシー・ジョーンズ、プリンス、フィラデルフィア・ソウルのギャンブル&ハフ、1980年代の売れっ子プロデューサーであるカシーフやエムトゥーメなどを聴きこんで自分の中に取り込んでいきました。

ジェイムズ・ブラウン、プリンス、そしてクインシー・ジョーンズをジックリ聴いて、吸収して、自分の中にミックスしていった。ニュー・ジャック・スウィングはあらゆるサウンドブレンドだからね。僕がブレンダーになっただけなんだよ」

 (「bmrレガシー スーパー・プロデューサーズ」)

 新しいサウンドの発明というのはそういうことなのかもしれないですね。

誰々のここと誰々のこういうところを混ぜるという”小手先”の技術じゃなく、

自分の中に一回取り込む、自分自身がブレンダーになる、というのが肝心で、これはあらゆる創作表現の基本であるように思えます。

 

 ニュー・ジャック・スウィングは当時一世を風靡した、新しいR&Bサウンドでしたが、今振り返ってみるともっと大きな意味合いといいますか、音楽史の流れの必然性があったんじゃないかと僕には思えます。

 

 この当時(1980年代半ば~後半)、R&Bとヒップホップは対照的なものでした。ヒップホップは、ストリートの貧しい若者たちのリアルを反映させていたのに対して、R&Bは都会のセレブのラブ・ストーリーを描くファンタジーが主流でした。

  例えば、当時最も人気があった男性R&Bシンガー、フレディ・ジャクソンはこんな感じです。 


Freddie Jackson - You Are My Lady (Official Video)

 ヒップホップとR&Bがそれぞれの流行を追い過ぎたせいであまりに両極端に行き過ぎて、”真ん中”がすっぽり抜けた状況が出来上がっていたわけです。

 ただ、ダンスミュージックで盛り上がりたいという一般層が置き去りになっていたわけです。

 

 まあ、両極端に行き切った状態でしたから、今度はヒップホップとR&Bが歩み寄り融合するほうに力学が働いても全く不思議はありません。

 ヒップホップのトラックメイカーがR&Bを吸収して作った、ラップも乗せやすいトラックによる新しいダンス・ミュージックであった”ニュー・ジャック・スウィング”は、時代のニーズにスカッと答えるものでした。そしてこの曲はビルボードR&B年間チャートで1位になるほどの大ヒットになりました。

 その後、90年代はHIPHOP SOULと呼ばれる、歌ものとラップが融合したR&Bが主流になります。(融合というよりは、ヒップホップがR&Bを飲み込んだ、吸収合併したようなものでしたが)そして、そのムーヴメントの先駆けになったのが”ニュー・ジャック・スウィング”だった、というのが今の僕の見解です。

 キースとテディの貴重なライヴ映像。R&Bとヒップホップのミックス具合がよくわかります。


keith sweat feat. teddy riley - i want her ( live )

 

 そして、近年ニュー・ジャック・スウィングを蘇らせたくれたのがブルーノ・マーズでした。


Bruno Mars - Finesse (Remix) (feat. Cardi B] [Official Video]

 

 日本ではEXILE TRIBEの総帥HIROがニュー・ジャックに大きな影響を受けていて、その名も”NEW JACK SWING"というレパートリーがあります。この曲はグループ間で伝承され、昨年RAMPAGEもカバーしていました。この曲を作っているT.KURAは、日本のニュー・ジャックの第一人者、最高峰のクリエイターです。

 

 それから、今年に入って、岡村靖幸が”岡村流ニュー・ジャック”の曲をアップしていますが、さすがのオリジナリティ、すごいです。


岡村靖幸「彼氏になって優しくなって(パーフェクト ver.)」

 

 

 

 

I Want Her

I Want Her