まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「テンダー・ラヴァー(Tender Lover)」ベイビーフェイス(1989)

 おはようございます。

 今日はベイビーフェイスの「テンダー・ラヴァー」です。


Babyface - Tender Lover

Eleanor Rigby spends half her life
All alone
No fault of her own

Made a decision
Love has no place in her home
Love
It has a right to go


Love has no limit
If you believe in love
It'll open up so

Don't even give in
'Cause if it starts to give
Just hold on

We didn't  make it
But love'll get you by
If you only try
Just don't give up on love
'Cause it didn't work out this time


Tender lover
Girl, I'm so sorry
I never meant to hurt you
I never meant to break your heart

Tender lover
So broken hearted
I never meant to break your
Break your little tender heart


Don't ever give up in spite of our love
Love is much too precious
It's greater than both of us

There's more than enough
Keep looking for love
Just be a believer
It'll give you what you want


Sky is the limit
If you believe in love
It'll open up so


Don't ever give in
'Cause if it starts to give
Just hold on

We didn't make it
But love'll get you by
If you only try
Just don't give up on love
'Cause it didn't work out this time

Tender lover
Girl, I'm so sorry
I never meant to hurt you
I never meant to break your heart

Tender lover
So broken hearted
I never meant to break your
Break your little tender heart

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エリナー・リグビーは人生の半分を
ひとりぼっちで過ごす
自分のせいじゃないのに

彼女は決心をした
この家に 愛の居場所はない
愛にだって立ち去る権利がある


愛に限界はない
キミが愛を信じれば
それは開かれるさ

くじけないで
たとえ、もし負けそうになっても
持ちこたえるんだ

 

僕たちはうまくいかなかった
だけど愛はやってくるさ
もしキミが行動すれば
愛をあきらめないで
今回うまくいかなかったからといっても


やさしい恋人
ガール、本当にごめんよ
キミを傷つけるつもりはなかった
キミの心を傷つけるつもりはなかった

やさしい恋人
ひどく傷ついて
決してそんなつもりじゃなかった
キミのの優しい心を傷つけるなんて


僕らの愛がうまく行かなかったからって
あきらめないで
愛はあまりにかけがえのないもの
僕ら二人よりも偉大なものなんだ

 

十分すぎるほどあるから
愛を探し続けるんだ
信じる人になるのさ
キミが望むものが与えられるよ


限界なんてない
キミが愛を信じれば
きっと迎え入れてくれ

 

くじけないで
たとえ、もし負けそうになっても
持ちこたえるんだ

僕たちはうまくいかなかった
だけど愛はやってくるさ
もしキミが行動すれば
愛をあきらめないで
今回うまくいかなかったからといっても


やさしい恋人
ガール、本当にごめんよ
キミを傷つけるつもりはなかった
キミの心を傷つけるつもりはなかった

                    (拙訳)

 

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 ポピュラー・ミュージックの世界にはいつもヒット・メイカー、ヒット・プロデューサーと呼ばれる人がいて、その人の作った曲調やサウンドのスタイルが広く大衆にまで広まり、その中のいくつかは他の文化やファッションなどとも結びつき”時代のシンボル”にまでになります。

 後になってその時代を思い出すときの”重要なトリガー”にもなります。曲を聴くことが引き金になって、当時の思い出がいろいろ浮かんでくるという。

 

 1990年代を思い起こした時、洋楽で最も成功したソングライター、プロデューサーはベイビーフェイスじゃないでしょうか。マドンナ、マライア・キャリーホイットニー・ヒューストンなど当時の超ビッグ・アーティストたちがこぞって彼に曲やプロデュースを依頼していました。

 

 日本でも、90年代後半から宇多田ヒカルをはじめとして、R&Bをバックグラウンドにしてデビューしたアーティストの多くが好きなアーティストして彼の名前をよくあげていました。

 

   僕も1980年代後半から1990年代半ばまでR&Bばかり聴いていて、その中でもベイビーフェイスが一番好きだったのですが、レコード会社勤務時代にラッキーなことに彼の「The Day」というアルバムの担当をやらせてもらえました。

 

 *「The Day」からはこの曲がヒットしました。マライア・キャリーをフィーチャーした「Every Time I Close My Eyes」。

www.youtube.com

 

 「The Day」がリリースされたのは1996年のことで、この年彼がプロデュースしたエリック・クラプトンの「チェンジ・ザ・ワールド」が世界的に大ヒットしていて、まさに世界一のヒットメイカーの座に君臨している時期でした。

 

 僕はロンドンで行われた「The Day」のリリース・パーティに出席し、彼のインタビューにも立ち会うことができうました。彼はイメージ通り物腰の柔らかい人で、でもどこか物憂げな表情をしていたのがすごく印象に残っています。

 

 取材用にホテルの豪華なスィート・ルームが押さえてあり、リビングの中央にはゴージャスなソファーがありました。

 部屋に入ってきた彼にそこに座るようにすすめると

 「そんなソファーに座ると、なんか落ち着かないよ」と言って、彼はダイニングからシンプルな椅子を自分で運んできて、そこに浅く腰かけました。

 

 その時の取材で今でも覚えていることは、アルバムの中にスティーヴィー・ワンダーとの共演曲(「How Come,How Long」)が入っているのですが、それについて質問されたときの彼の返答と表情です。

 「スティーヴィーは僕の小さいころから憧れていて、いつかあんな曲を書きたいと思ってたんだ。今もまだ、いつかスティーヴィーみたいな曲を書くことができたらいいなあと思ってるよ」

 それまで、うつむき気味だった顔を上げ、少し遠くを見るような表情で、彼はぼそっとつぶやきました。

 

 当時すでに世界一のヒットメイカーと言われ、書いた曲の売り上げ総数が1億枚を超えると言われていた彼だったのですが、音楽における彼の中の”物差し”は、売上ではなく、あくまでも自分が若い頃に憧れたような曲を作りたいということにあるのだと知って、すごく感動しました。

 

 成功を目標にして実際に成功を手にしたことで、クリエイティヴなモチベーションを失ってしまうアーティストは今までたくさんいるように思います。しかし、スティーヴィーやポール・マッカートニーみたいな偉大な曲をいつか書けるようになりたい、と、もし思い続けることができたら、その創作活動は決して死ぬまで終わらないものになるでしょう。

 

 偉大な先人たちへの憧れやリスペクトを失わないアーティスト、それはすなわち根っからの音楽好きであることであり、結局そういうアーティストが息長く活動できているのだと僕は思います。

 


Babyface - How Come, How Long (Official Video)

 

 おっと、肝心の「テンダー・ラヴァー」について触れていませんでしたね。。

 

 この頃の彼はボビー・ブラウンが大ヒットしたことで一躍世界中に知られるようになっていました。新進気鋭のヒットメイカーという感じですね。

 彼は本来はミディアム~スローな曲が得意でしたが、ドラマーでありビジネスセンスに非常に長けたLA.リードという相棒と組むことがきっかけになり、当時大流行し始めていたニュー・ジャック・スウィング調の曲も作るようになっていました。

 

 「テンダー・ラヴァー」はもともとはライオネル・リッチーやジャクソンズに提供したのですが採用されなかったため、自分で歌おうということになったそうです。

 

 孤独な女性に対して、行動すれば愛は手に入るよ、と励ます内容の歌で、

 冒頭で「エリナー・リグビーは人生の半分を一人っきりで生きてきた」という歌詞から始まります。

 もちろん、「エリナー・リグビー」はビートルズの曲ですよね。孤独なまま亡くなって、葬儀には誰も参列しなかったという、ポップ・ミュージック史上最も孤独な登場人物と言ってもいいでしょう。

 そのエリナーに向かって、心を開いて愛を見つけようよと、励ましの声をかける、という”ツカミ”が効いているんですね。

 実際この曲の反応はよく、全米14位、R&Bチャートでは見事1位になっています。

 

 またこの曲が収録されたアルバム「テンダー・ラヴァー」は「It's No Crime」(全米7位R&B1位)「Whip Apeal」(全米6位R&B2位)という大ヒットが生まれ、彼はソロ・アーティストとしても大成功を収めています。

 

 

 ちなみに彼は2015年に『RETURN OF THE TENDER LOVER』という、「テンダー・ラヴァー」の100%続編とは言えませんが、彼がひさしぶりに彼らしい”テンダー”な作風に回帰し、かつ音楽的熟成も感じさせるアルバムをリリースしています。

 

 「Exceptional」

www.youtube.com

 

 最後にもう1曲、ベイビーフェイスのソロ・アーティストとしての代表曲「When Can I See You 」(1994年全米4位)を。

www.youtube.com

 

 

Tender Lover

Tender Lover

  • Solar/Epic
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 ベイビーフェイスがプロデュースした大ヒット曲

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ベイビーフェイスが曲を書きプロデュースした大ヒット曲

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