まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。(現在は不定期で更新中)古今東西のポップ・ソングを、エピソード、和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などを交えて紹介しています。親しみやすいポップスは今の時代では”ニッチ(NIche)”な存在になってしまったのかもしれませんが、このブログがみなさんの音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。追加情報や曲にまつわる思い出などありましたらどんどんコメントしてください!text by 堀克巳(VOZ Record

「マニアック(Maniac)」マイケル・センベロ(Michael Sembello)(1983)

おはようございます。今日はマイケル・センベロの「マニアック」です。

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Just a steel town girl on a Saturday night
Lookin' for the fight of her life
In the real-time world, no one sees her at all
They all say she's crazy
Locking rhythms to the beat of her heart
Changing movement into light
She has danced into the danger zone
When the dancer becomes the dance

It can cut you like a knife
If the gift becomes the fire
On the wire between will and what will be

She's a maniac, maniac on the floor
And she's dancing like she's never danced before
She's a maniac, maniac on the floor
And she's dancing like she's never danced before

On the ice-blue line of insanity
Is a place most never see
It's a hard-won place of mystery
Touch it, but can't hold it
You work all your life for that moment in time
It could come or pass you by
It's a push-shove world, but there's always a chance
If the hunger stays the night

There's a cold kinetic heat
Struggling, stretching for the peak
Never stopping with her head against the wind

She's a maniac, maniac at your door
And she's dancing like she's never danced before
She's a maniac, maniac at your door
And she's dancing like she's never danced before

It can cut you like a knife
If the gift becomes the fire
On the wire between will and what will be

She's a maniac, maniac at your door
And she's dancing like she's never danced before
She's a maniac, maniac at your door
And she's dancing like she's never danced before
Maniac, maniac at your door

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土曜の夜、製鉄所のある町の少女は
人生を懸けた戦いを探している
現実の世界では、誰も彼女を見ようとしない
みんな彼女はクレイジーだ言う

心臓の鼓動にリズムをロックして
動きを光へと変えていく
彼女は危険地帯へと踊りながら入ってゆく
ダンサーがダンスそのものになってしまうとき

もし、その才能が炎となれば
ナイフのように君を切り裂くこともある
意志と運命を繋ぐ綱渡り

彼女はマニアック、フロア上のマニアック
まるで今まで踊ったことがないみたいに踊っている
彼女はマニアック、フロア上のマニアック
まるで今まで踊ったことがないように踊っている

氷のように冷たく青い境界線は
ほとんどの人が決して見ない場所
それは手に入れることが難しい神秘の場所
触れても、つかむことはできない

人生すべてをその瞬間のために懸ける
それは訪れるかもしれないし、通り過ぎてしまうかもしれない
押し合いへし合いの世界でも、いつだってチャンスはある
もし、その渇望が夜通し続くのなら

冷たく動的な熱
頂点を目指してもがき手を伸ばす
逆風でも決して止まらない

彼女はマニアック、君のドアに現れるマニアック
まるで今まで一度も踊ったことがないように踊っている
彼女はマニアック、君のドアに現れるマニアック
まるで今まで一度も踊ったことがないように踊っている

もし、その才能が炎となれば
ナイフのように君を切り裂くこともある
意志と運命を繋ぐ綱渡り

彼女はマニアック、君のドアに現れるマニアック
まるで今まで踊ったことがないように踊っている
彼女はマニアック、君のドアに現れるマニアック
まるで今まで踊ったことがないように踊っている

マニアック、マニアック、君のドアに現れる (拙訳)

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 ここ何年もの間1980年代のポップ・ミュージックが世界的に注目を集めています。ポップでキャッチーでノリノリの曲がたくさん生み出された時代です。そして80年代の音楽の最大のキーワードと思えるのは”映像”でした。MTVが大人気になってミュージックビデオなしではヒットは作れない、そんなムードになりました。映画の世界でもまるで”ミュージック・ビデオ”みたいなシーンが売り物の”音楽映画”が作られ破格のヒットになりました。

 その代表が「フラッシュダンス(Flashdance)」です。 「フラッシュダンス」からは主題曲であるアイリーン・キャラの「フラッシュダンス…ホワット・ア・フィーリン」が大ヒットしましたが、もう一つ全米1位の大ヒットになったのがこの「マニアック」でした。

 映画ではこんな感じで使われました。

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 実は「マニアック」はこの映画のために書かれた曲ではなかったそうなんです。

 マイケル・センベロの曲作りのパートナーだったデニス・マトコスキーは、自分が住んでいる街で起きた連続殺人犯に関するニュースを見ていたときに、すぐに頭に浮かんだ歌詞を紙に書き留めたそうです。それはこんなフレーズだったそうです。

'He's a maniac. He just moved in next door. He'll kill your cat and nail it to the floor.' 

(彼は狂人、ヤツが隣に越してきた、ヤツはお前の飼ってる猫を殺して床に釘つけるだろう

 なんかゾッとする歌詞ですが、彼はその歌詞をセンベロに見せに行くと、彼は興味を持ってすぐにその場で二人で曲にしてみることになりました。ただちゃんとした曲を作るというより、友達を笑わせるためのジョークみたいなものとして取りかかったようです。

 その頃、友人のフィル・ラモーンからセンベロに電話がありました。フィル・ラモーんはビリー・ジョエルストレンジャー」、「ニューヨーク52番街」やポール・サイモン「時の流れに」など数々の名作を作ってきた人です。彼は「フラッシュ・ダンス」という映画の曲を探しているので何かあったら送ってくれと言ってきました。そして、彼がフィルに送ったデモ・テープの中に、間違って「マニアック」も入っていたそうです。

 すると、この曲はダンス・シーンにぴったりだと監督のエイドリアン・ラインが判断して撮影や仮編集でも使われ、最終的に映画の本編にも使うことになりました。しかし、猟奇殺人鬼の歌詞じゃ映画に合わないということで、彼らは歌詞を書き直しあらためてレコーディングしたというわけです。

 「マニアック」はもともとは文字通り”狂人”の歌として書かれ、その後、映画に合わせて、ダンスに”過度に熱中する人”の歌に修正されたんですね。

 

 さて、マイケル・センベロについても少し。彼はフィラデルフィア出身で、セッション・ギタリストとして音楽のキャリアをスタートさせています。

 彼はずっとジャズをやっていたのですが、友人に誘われてスティーヴィー・ワンダーのオーディションに、スティーヴィーの曲をよく知らないままで行ったところ、そこでスティーヴィーがジョン・コルトレーンの曲をセッションし始めたため、うまく演奏できた彼は気に入られ、アルバム『ファースト・フィナーレ(Fulfillingness' First Finale)』(1974)で2曲参加することになったといいます。センベロがまだ20歳の時でした。

 そして、1977年にリリースされたスティーヴィーの最高傑作『キー・オブ・ライフ(Songs in the Key of Life)』では中心ミュージシャンの一人として、アルバムに大きく貢献しています。

 そして彼は1981年にデニス・マトコスキーと共作した「Mirror Mirror」ダイアナ・ロスに提供し、全米8位のヒットになっています。いわゆる白雪姫の「鏡よ、鏡よ、鏡さん、、」をモチーフにしたことが明白な歌詞で、デニスさんは一つの”面白いアイディア”に引っ張られて歌詞を書くのが得意のようですね。

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 そして、彼は”とてつもなく大きな魚”を逃すことになります。1983年、マイケル・ジャクソンが彼の書いた「Carousel」という曲を「スリラー」用に録音し収録される予定でしたが、その後届けられた「ヒューマン・ネイチャー」のデモをクインシーたちが気に入ったことで、お蔵入りになってしまったんです(その後「スリラー」の再発盤にめでたく収録されています)。

 このブログでも書きましたが、「ヒューマン・ネイチャー」はデヴィッド・ペイチクインシー・ジョーンズに送ったカセット・テープの中に消し忘れて”間違って入っていた曲”なんですね。

 もし、ペイチが違うカセットテープにデモを録音していたら、クインシーが「ヒューマン・ネイチャー」を聴くことはなかったわけですから、予定通り「Carousel」が収録されていたかもしれないわけです(「Carousel」の歌詞がアルバムの方向性と違った、という説もあるのでなんとも言えませんが)。

 しかし、考えてみると「マニアック」もカセットに間違って入っていた曲です。マイケル・センベロは”デモ・テープに間違って入っていた曲によって、大きく泣いて、大きく笑った人”なのかもなあと僕は思うんです。

 しかも「Carousel」の録音は1982年の8月から9月ごろ、「マニアック」はたぶん翌1983年の初めくらいの録音なので、時期がすごく近いんです。これはきっと「Carousel」で大きな魚を逃した代わりに神様が彼に与えたチャンスが「マニアック」だったんじゃないか、と僕は思うんですよね。プラスマイナスゼロの法則というか。

 また馬鹿げたことを、、と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、40年近く音楽業界で働きながら、そして、こうやっていろんなアーティストや曲のエピソードを集めてブログを書きながら、こういうことは本当にあるんだよなあ、と僕は確信を持っています。音楽やエンタメの世界は<運>の影響がとりわけ大きい世界なんですよね。

 最後はその「Carousel」を聴いて今日は終わりにします。

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「Carousel」も収録された「スリラー」40周年記念盤

popups.hatenablog.com

”間違った”デモ・テープの話はこちらで読めます。

popups.hatenablog.com

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