おはようございます。今日はビリー・ジョエルの「ウィーン(Vienna)」です。
Slow down, you crazy child
You're so ambitious for a juvenile
But then if you're so smart
Tell me why are you still so afraid?
Where's the fire, what's the hurry about?
You'd better cool it off before you burn it out
You've got so much to do
And only so many hours in a day
But you know that when the truth is told
That you can get what you want
or you can just get old
You're gonna kick off
before you even get halfway through
When will you realize Vienna waits for you?
Slow down, you're doin' fine
You can't be everything
you wanna be before your time
Although it's so romantic
on the borderline tonight, tonight
Too bad, but it's the life you lead
You're so ahead of yourself,
that you forgot what you need
Though you can see when you're wrong
You know you can't always see when you're right
You're right
You've got your passion,
you've got your pride
But don't you know that
only fools are satisfied?
Dream on, but don't imagine
they'll all come true,
When will you realize Vienna waits for you?
Slow down, you crazy child
And take the phone off the hook
and disappear for a while
It's all right,
you can afford to lose a day or two,
When will you realize Vienna waits for you?
And you know that when the truth is told
That you can get what you want
or you could just get old
You're gonna kick off
before you even get halfway through,
Why don't you realize Vienna waits for you?
When will you realize Vienna waits for you?
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落ち着くんだ、君はクレイジーな子どもだね
若いのに野心にあふれてる
でもそんなに賢いなら
どうしてまだそんなにおびえてるの?
どうして急いでるの?何に慌てているの?
そんなに焦っていたら燃え尽きちゃうよ
やるべきことはたくさんあるけど
一日は限られた時間しかないんだ
だけど確かに真実を言えば
欲しいものを手に入れるか、さもなくばただ年を取るかのどちらかさ
君は道半ばも行かないうちにあの世に行ってしまうかもよ
いつになったら気づくんだい?
ウィーンが君を待っているってことを
ゆっくりいこう、君は順調だ
死ぬまでに君はなりたいものすべてになれるわけじゃないんだ
たとえすごくロマンティックだとしても
ボーダーラインにいることが、今夜
残念だけど、それが君が生きる人生なのさ
でも君は先を急ぎすぎて、大切なものを忘れている
自分の間違った時はわかるのに
正しいときには、いつもそれがわからないんだよね
君は正しいのにね
情熱も誇りも持っているけれど
満足するのは愚か者だけだって知らないの?
夢を見ていい、でもすべてが叶うって思わないで
いつになったら気づくんだい?
ウィーンが君を待っているってことを
ペースを落とすのさ、君はおかしな子どもさ
受話器を外したまま、しばらく姿を消せばいい
一日や二日くらい無駄にしても大丈夫さ
いつになったら気づくんだい?
ウィーンが君を待っているってことを
真実を言うなら
欲しいものを手に入れるか、さもなくばただ年を取るかのどちらかさ
君は道半ばも行かないうちにあの世に行ってしまうかもよ
どうして気づかないんだい?ウィーンが君を待っていることを
いつになったら気づくんだい?
ウィーンは君を待っているんだよ (拙訳)
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サブスク時代のホール&オーツの人気NO.1曲は昨日ご紹介した「ユー・メイク・マイ・ドリーム」でした。では、Spotifyで一番再生されているビリー・ジョエルの曲はというと、それは「アップタウン・ガール」です。納得できますよね。そして、2位は「ピアノ・マン」。これもまあ理解できますね。じゃあ、3位は?というと、この「ウィーン」なんです。「素顔のままで」でも、「ロックンロールが最高さ」でも、「オネスティ」でもなく、です。実は僕が生まれて初めて買ったLPがこの「ウィーン」が収録されていた「ストレンジャー」なのですが、この結果にはびっくりしました。この曲は「素顔のままで」のシングル盤のB面で、アルバムの中でもかなり地味な存在でしたから。
ということで、今日は「ウィーン」がなぜ人気なのかについて、調べてみました。
まず、この曲の成り立ちについては、彼の父親が大きく関わっています。
ビリーの父、ヘルムート・ジョエル(のちにハワードと改名)は、ドイツ生まれのピアニスト兼実業家でした。しかし、ビリーがまだ幼い頃両親は離婚し、ヘルムートはヨーロッパへ戻り、移り住んだ場所がウィーンでした。そこで彼は再婚し、新たに子供ももうけていました。
ビリーはこう語っています。
「彼はヨーロッパへ戻り、それからほとんど連絡を取らなかった。生きているのかどうかすら分からなかった。20代前半で初めてヨーロッパツアーをしたときに、彼を探してみたんだ…… そしたら、父がオーストリアのウィーンでオフィス勤めをしているという情報を得た。『なんてことだ、生きていたんだ』と思ったよ。」(American Songwriter November 28, 2023 )
そして、彼は父に会うためにウィーンを訪れました。そして、父とともに街を歩いているときに、道端で高齢の女性が通りを掃除している姿を見かけこう父親に言いました。
「父さん、年老いた女性がこんな仕事をしなければならないなんて悲しいよね?」
すると、父親はこう答えたそうです。
「いや、彼女には仕事があり、社会の中で役割を果たしている。自分が必要とされているんだよ。」
この言葉を聞いて、彼はこう思ったそうです。
「アメリカでは年を取ると社会から切り離されるけれど、ヨーロッパでは高齢者も役割を持ち、必要とされ続ける。これは、僕のような若者にとって大事な考え方だと思ったんだ。人生のすべてを20代や30代で詰め込む必要はない。アメリカンドリームを追いかけて、競争社会の中で自分をすり減らす必要なんてない。人生は長いんだから。」(American Songwriter November 28, 2023 )
”ウィーン”は父親が住む街であり、敬愛する音楽家ベートーヴェンが活動していた音楽の都でもあって、彼にとっては特別な場所でした。そして、父親との再会によって”高齢になってもちゃんと社会の役割を持って生きることのできる場所”という新たな意味づけができたわけです。そしてそれが曲の着想にもつながったのです。そして、若者たちにあせることはない、歳をとってからでも生きがいはあるんだ、ということを伝えていくうえで、ウィーン”という彼にとっての”聖地”を象徴的に使うことで、そのメッセージはより印象的強くなったわけです。
そして、この曲のメッセージはリリースから50年近く経って、、世の中の努力主義、競争主義の苦痛から救済してくれるアンセムとして、特にZ世代の女性たちから大きな支持を集めることになりました。
イギリスの新聞「The Gurdian」の昨年2024年7月1日にアップされた記事でこの現象を紹介しています。
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TikTokでは、多くの若い女性たちがこの曲を自分のアイデンティティの一部として取り入れています。
- 「この曲をきっかけにオーストリアのウィーン旅行を決めた」という投稿をするクリエイター
- 歌詞の一部をタトゥーにする人々
- 「子どもの名前を『Vienna』にしたいけど、みんなソーセージを連想するって言うの」というコメント
3月に投稿されたある動画では、「すべての10代の少女は、この曲に説明できないほどの感情的な愛着を持っている。理由はわからない。ただ、これは"少女時代"の象徴的な曲なんだ。」というキャプションが添えられ、19.5万以上の「いいね」を獲得しました。さらに、「20代の女性をビリー・ジョエルほど理解している人はいない」という投稿は、42.4万以上の「いいね」を集めています。
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かなり驚くような反応ですね。また、この記事ではエリザベス・マクダーモット(23歳、ニューヨーク在住)という女性のコメントも紹介しています。
「Z世代には独特の問題があり、ある意味では世界がかつてないほどひどい場所になっているように感じます」
「でも、『Vienna』は数十年前に書かれた歌であり、私たちがこの感情を抱いているのは一人だけではないという事実を再確認させてくれます。Z世代の多くの人々がこの歌に共感し、また私たちの親世代も共感しているということが、孤立感に対する一種の解毒剤のようなものだと思います。」
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またThe Albion College Pleiad という学生新聞では、2023年10月18日に、自分の限界を超えて抱え込みすぎてしまい精神的に苦しんでいたという女子学生がこういう文章を投稿していました。
「そんなストレスの中、久しぶりにアメリカのシンガーソングライター、ビリー・ジョエルの「Vienna」を聴きました。すると、この曲がどれほど私の心を癒してくれるかを思い出したのです。私は両親ととても仲が良く、子どもの頃から一緒に1970年代から1990年代のさまざまな音楽を聴いてきました。ビリー・ジョエルを教えてくれたのも、両親です。高校生の頃、クリスマスプレゼントにジョエルのアルバム『The Stranger』のレコードをお願いしました。そして、「Vienna」を初めてレコードで聴いた瞬間のことを今でも覚えています。
<中略>
この曲の中心的なメッセージは、「Vienna waits for you(ウィーンは君を待っている)」ということ。つまり、「今の年齢ですべてを決めなくてもいい」ということです。ウィーンは何にでも例えられますが、私にとっては夢の象徴のように思えます。」
若い頃特有の不安やプレッシャーというのは多くの人が経験してきたものだと思います。行き先もゴールも何も見えてもいないのに何か成し遂げなければいけないんじゃないかという焦り、僕もありました。そして、ネットやSNSにいろんな情報やコメントが溢れかえっている現在の世界を見たときに、今の若者が感じる切迫感、混乱は、僕が若かった頃とは比較できないほど強いものかもしれないな、と思えてきます。
そして、先ほどご紹介したコメントから、その苦しさを和らげてくれる曲が、同世代のアーティストではなく、50年近くも前の曲だということにも意味があったことが伝わってきます。
自分より上の親たちの世代も、いつの時代でも自分のような悩みはあったのだという、少し客観的な目線で自分のことを捉えることができたんですね。
そして、その曲が時代をこえいつも巷でよく耳にするようなスタンダードじゃなかったため、いっそう自分のための曲のように感じられたのでしょう。
それから、ビリー・ジョエルの中では単調な構成の「ウィーン」のような曲の方が今の若い世代には、しっくりくるのかもしれないとも僕は思いました。今の時代の洋楽、特に欧米の曲はメロディの起伏の少ない反復する構成の曲が圧倒的に多いですから。また、そういう曲の方が歌詞が耳に入ってくる、というのは間違いなくあると思います。
また、ビリー本人はこの曲が女性たちに支持されるきっかけになったものとして2004年の映画「 13 ラブ 30 サーティン・ラブ・サーティ」をあげています。この映画は13歳の少女が突如として30歳の女性になったことから巻き起こる騒動を描いたファンタジック・ラブコメディです。30歳になった主人公は13歳の頃に夢見たセレブな女性になっていたのですが、その過程で自分にとって大切な人たちを傷つけてしまっていたことに気づいて実家に戻るという重要なシーンでこの曲は使われています。
この動画にも「ウィーン」の歌詞に救われたという人々のコメントが本当にたくさん寄せられています。
ビリー・ジョエルはこう語っています。
「私にとって世界のいろいろなことが突然ウィーンで解明しました。だからこそこの歌で伝えたいことがあります。スローダウンして、まわりを見渡して、あなたの人生の良いことに感謝の気持ちを持ちなさい、ということです。それが僕にとって「ウィーン」が意味することなんです」(Billy Joel Interview - What does Vienna Mean to Him? | Vienna 2020)
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