まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「How's and Why's」フランク・ウェーバー(2010)

 おはようございます。

 フランク・ウェーバーの「How's and Why's」です。

www.youtube.com

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Sweet surprises constant arise,

we analyze ,we categorize ,we've

Got to know the how's and why's

I know life's been kind of on a downslide ,you talk a good game baby,

But that's all on the outside, it's just show and tell time again

 

Rosie, I know how much you've been hinding but

where're you going to run to when there's no place left to go?

Rosie, I know Rose, how much you've been lonely, and it

feels like you're the only one who's ever felt this way

 

You know that I'd never try a strong arm, never rush baby

Never Steer you wrong darlin'-I just like to see you smile .go on and smile-

So how about my place,  candle in the window, long sweet embrace,

You need to hear me speak low, I need to hold you all night long.

 

Rosie, I know how much you've been hinding but

where're you going to run to when there's no place left to go?

Rosie, I know lately you've been lonely and it feels 

Like you're the only one who's ever felt this way

 

(Got to know , Got to know...)

Sweet surprises constant arise, we got to know the how's and why's

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甘い驚きが  絶えず生まれる

僕たちは、分析し、分類して、

その方法と理由を知らなくちゃいけない

僕は人生の下り坂にきていることはわかってる

君は口先では上手いことを言うね、ベイビー

でも、それはうわべだけ、

発表会の時間がまた来たってことだけさ

 


ロージー、君がどれだけ隠し続けていたか知ってるよ

行き場が無くなったら どこに逃げるつもりなの?

ロージー、わかってるさ、 君がどれだけ孤独だったか、

こんな思いをしているのは自分だけだって思っていることを

 


僕は強要したりしないし 急かしたりもしないよ、ベイビー

間違ったアドバイスは絶対しない

ただ、君の笑顔が見たいんだ  笑顔でいてほしい

僕の部屋はどう?窓のキャンドル、長く甘い抱擁

僕の一晩中君を抱きしめていたいんだ

 


ロージー、君がどれだけ隠し続けていたか知ってるよ

行き場が無くなったら どこに逃げるつもりなの?

ロージー、わかってるさ、 最近ずっと君が孤独だったこと

こんな思いをしているのは自分だけだって思っていること


(知らなくちゃ、知らなくちゃ...)

甘い驚きが、絶えず生まれる

その方法と理由を、僕らは知らなくちゃいけない

                (拙訳)

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  これは1980年にリリースされたフランク・ウェーバーのセカンド・アルバム「ニューヨークのストレンジャー(原題:Frank Weber)」以来、なんと30年ぶりに、しかも日本だけでリリースされたサードアルバム「ビフォア・ユー(Before You)」に収録されていた楽曲です。

 

 ウェーバーニュージャージー出身のシンガー・ソングライター/ピアニスト。彼は1977年に「ストレンジャー」をリリースして話題になっていたビリー・ジョエルのようなアーティストを探していたRCAレコードの目にとまり、1978年にアルバム「アズ・ザ・タイム・フライズ」でデビューしています。

 クラシックとジャズを本格的に学び、ジェームス・テイラーに傾倒していたという彼のスタイルは、ビリー・ジョエルをよりソフトに洗練させたものでした。ビリーと同じくニューヨーク・スタイルのピアノ・マンでしたが、本質的にはマイケル・フランクスやケニー・ランキンのほうに近いアーティストだと思います。

 セールス的には成功することができず、1980年のセカンド・アルバム以降、彼の作品を聴くことはできず、少なくとも日本の音楽関係者で彼の行方を知る人はいませんでした。

 

「ビフォア・ユー」のライナーノーツには彼の発言が掲載されています。

 「僕がアーティスト活動を休止したのは、レコードビジネスに失望し、夢を持てなくなってしまったからなんだ。アーティストとして信じていることを試したり、人々に伝える最善の方法を探すという自分の信念が貫けなくなった。それから2~3年の間、ピアニスト/シンガーとしてヨーロッパを旅しながら、なんとか自分の気持ちに踏ん切りをつけようと努力したよ。そんな時に、僕が若い時から音楽以外でもっとも興味を持っていたこと、つまり心理学への思いを発見したんだ」

 

 ヨーロッパ滞在中にスイスのチューリッヒにある「ユング研究所」を訪れたことが、自身が元々持っていた心理学への興味に気づかせるきかっけになったようで、彼はユング心理学をベースにしたサイコセラピストになることを決意します。

 そして、心理学を正規に学んだ彼は、1990年代後半からはサイコセラピストとミュージシャンの活動を並行してやるようになっていたようです。

 どこのレーベルとも契約はありませんでしたが、オリジナル曲のデモも作っていました。

 

 確か2007年ごろだったと思いますが、彼のアルバム「アズ・ザ・タイム・フライズ」を愛してやまない僕がブログでそのことを書いたところ、サイコセラピストとしての彼と交流のあった日本人女性の方が、それを見つけ連絡をくださいました。

 

 フランク・ウェーバーが新しい作品を作っていて、日本で発売したいと考えているのですが、彼と直接やりとりしてもらえませんかと。

 

 僕は本当にびっくりしましたが、すごく嬉しいことでしたので、彼とメールでやりとりしてみることにしました。

 そして、彼から新曲の入ったCDRがエアメールで送られてきたのですが、それが素晴らしかったのです(最初に聴いた時は正直涙が出ました)。

 

 AORの再評価によって、彼の2枚のアルバムは日本だけでCD化されていたので、可能性はなくはないと思って、さっそく、メジャーのレコード会社の洋楽部にいくつか出向いて交渉したのですが、CD化されていた2枚もそこまで売れていたわけじゃなく、どちらからもリリースはむずかしいとの返事でした。

 同じ頃に彼のCDのライナーを書かれていた金澤寿和さんにも相談すると、違うルートから彼が新曲を作っているという情報を得ていたようで、その後は金澤さんに託すかたちで、彼とやりとりをしてもらうことにしました。

 

 そして、2年ほどかかりましたが、金澤さんの御尽力でリリースされたのがこの「ビフォア・ユー」でした。

 

 アルバムは決して大きな話題になったわけではありませんが、日本各地にいた彼の音楽を好きな人々と彼を結びつけるきっかけになり、彼が来日するたびにその輪は広がっていきました。

 特に、小樽で「Muse」というレストランをやられていて、奥さんがキャンドル・アーティストでもある米澤さんというご夫婦は、今では彼にとって日本のファミリーのような存在になり、マネージメントしての動きもされ、彼が2019年にリリースした新しいアルバムのアートワークを手がけ、彼の音楽とコラボレーションした「銀河鉄道の夜」の朗読会も実施されていました。

 米澤さんはフランクの詳細で実に丁寧なHPも作られていて、お店のHPからもリンクされています。

www.otaru-muse.com

 

 また、小野リサをきっかけにブラジル音楽に傾倒していた彼がファンだというパーカッショニストの石川智さんを、ちょうど僕が知っていたので、二人をつなぐと、今度は石川さんの御尽力で2019年に日本での彼の初めてのライヴが行われることになりました。

 僕は長い間ビジネスとして音楽と関わる仕事に身を置いているので、気づかないうちにシニカルになってしまうことも多いのですが、彼をめぐる本当に純度の高い人間の輪の広がりからは、正直見失っていたものを教えられた思いがしました。

 

 しかし、フランク・ウェーバーの日本での活動がどんどん本格化し始めた矢先に起こったのが、今回のコロナ渦でした。本来なら彼のパフォーマンスが日本で見れたと思うのですごく残念です。

 彼の日本での活動が再開できることを強く期待するばかりです。

 

 さて、彼のアルバムからこの「How's and Why's」を選んだのは、最初に彼から送られて来たCDRの1曲めがこの曲だったからです。

 すごく期待しながら、一方で、もしあまり良くなかったら英語でなんて言えばいいんだ、日本語でさえ伝えるのが難しいのに、、、なんて不安もありながら、かけたのですが、この曲が始まった瞬間、そんな不安は霧散していって、すっかり入り込みました。

 

 アルバムのライナーで彼はこの曲についてこう語っています。

「物事を深く考え過ぎ、弱い自分をさらけ出すことを恐れている人々に書いた曲。自分の中には数人のモデルがいたけれど、人間誰しもそうした面を持っていると思うね。この曲も古い仲間たちが一緒にプレイしてくれた。アレンジのスタイルとか使徒が良いブレンドになった」

 サイコセラピストらしい、アプローチですね。彼とは今まで何度も会って話をしていますが、本当にいつも穏やかで誠実で、こういう人になら深い悩みも話せるかも、なんて思ってしまいます。

 

 最後に「ビフォア・ユー」からもう1曲。「The 100%  Perfect Girl」。村上春樹の短編「四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことにつて」からインスパイアされています。

「村上ソングス」でも紹介されていたブルース・ジョンストンの「ディズニー・ガール」にスティーヴン・ビショップっぽいニューヨーク感がブレンドされたようなこの曲は、世の中の村上ファンの人たちにもアピールしそうに思うのですが、、。

 

 ちなみに、村上春樹の大ファンだという彼は、特に「海辺のカフカ」が好きで、こう評していたのをおぼえています。心理学的にも、とても深い作品、だと。

 

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