まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「’71」フランク・ウェーバー(1978)

   おはようございます。

 今日はフランク・ウェーバーの「'71」です。

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When I was younger I used to be

A little less crazy and lot more free

I guess the years are catching up to me, at last

 

I never cared too much for money or fame

I never wondered should I change my name

And love was just another painless game,

that always came around again...

 

None of my buddies never did me wrong

All of my girlfriends used to like my songs

Everyone I knew felt happy and strong, and alive

 

I never knew it took so much to survive

I never knew I'd deal with so much jive

You know if I had a crystal ball

I might have cashed it all in back then...

 

Tell me did you feel the same about '71

Was it my imagination.

or did we seem to have more fun

But those years are gone

now there's nothing to be done

with all these memories

'cause I got twenty-five behind me

and a lot more left to come 

 

'cause I got twenty-five behind me

and a lot more left to come 

 

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若かった頃の僕は

今ほどクレイジーじゃなくて、ずっと自由だった

ようやく歳月が僕に追いついたのだと思う

 


お金や名声なんて気にもかけなかった

名前を変えようと思ったこともなかった

愛はただの痛くもないゲームの一つに過ぎなかった

いつも繰り返しやってくるだけの

 


仲間たちの誰も僕を裏切ったりしなかった

ガールフレンドはみんな僕の歌が好きだった

知っている人は誰もが幸せで強くて生き生きしていた

 

生きていくのがこんなに大変だなんて思いもしなかった

こんなたくさんのでたらめの相手をしなきゃいけないだなんて

もし僕が占いの水晶球を持っていたら

あの時、全部お金にしていたかもね、、

 


教えてほしい、71年のあの時、君も同じように感じていたのかい

それは僕の幻想だったのかな

それとも、僕たちはもっと楽しんでるように見えたのかな

だけど、もうあの日々は消え去ってしまった

この残された記憶で 僕らにできることは何もない

僕の後ろには25年の年月があって

これからもっと長い年月が待っている

25年の歳月が過ぎたけど

もっと長い年月がやってくる

          (拙訳)

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 フランク・ウェーバーはNY出身のピアノマン/シンガー・ソングライター。少しコアなAORファンなら知っているアーティスト、という感じでしょうか。

 

  1980年代にAORブラコンこそが今の時代の若者の気分を象徴する音楽だと説いた田中康夫の「たまらなくアーベイン」(僕が買った時は「僕だけの東京ドライブ」というタイトルに変わっていましたが)という音楽ガイドブックがあって、そこで彼の「As The Time Flies」というアルバムが紹介されていました。

 

 聴いてみるとビリー・ジョエルマイケル・フランクス寄りに優しくしたようなタッチのとても素敵なアルバムで、僕は毎年秋が来ると聴いてしまうような愛聴盤になりました。

 

   ヒット曲やヒット・アーティストが生まれると、”二匹目のドジョウ”を狙うのが音楽業界の常です。彼がデビューのきっかけを掴むことができたのは、ビリー・ジョエルの「ストレンジャー」の大ヒットのおかげだったと思われます。

 

 ”ニューヨークに他にピアノマンはいないか?”なんて探した人がいたんでしょう。

 そして、日本のレコード会社もそういうラインを狙ったようで、彼のセカンド・アルバムには「ニューヨークのストレンジャー」という邦題がつけられました。。。

 

 僕はビリー・ジョエルともフランク・ウェーバーとも会ったことがありますが(ビリーは一回握手しただけですが、、)、まったく正反対のタイプの人物です。

 ビリーは不愛想ですが相当な”圧”というかエネルギーを持つ人物、フランクは柔らかくジェントルです。どちらが、業界で成り上がるかは勝負ははじめからはっきりしていたのかもしれません。

 余談ですが、ビリー・ジョエルの最初の奥さんの弟でビリーのマネージャーもやっていた人物が同姓同名、フランク・ウェーバーといいました。こちらのフランクはゴリゴリ押していく人のようでしたが。

 

 ジェントルなピアノマン、フランクは成功できないまま、ある時期から音楽業界から長く遠ざかって、サイコセラピスト(心理療法士)などもやっていたそうです。

 

 ただ、音楽への情熱は消えていなかったようで、2010年に30年ぶり(!)のニュー・アルバムを作り日本だけでリリースしています。2007年ごろ、彼のついて書いた僕のブログがきっかけに、彼と知り合うことになった僕は微力ながら、日本での発売に向けて協力させてもらいました。

 

 今回ご紹介する「’71」は彼のデビューアルバム「As The Time Flies」の1曲めに入っています。

   この頃彼は25歳くらいだと思いますが、さまざまな現実に戸惑っている今の自分が、まだ十代だった1971年、一緒の時間を過ごした仲間たちにむけて、あの頃のみんなは同じ思いを持っていたのか、それとも自分だけが勝手に夢見ていたのだろうか?と問いかける内容になっています。

 でも、結局はもう過ぎたことなんだから何を思ってもしょうがない、と主人公は割り切ろうとして、

最後は、

 ”僕の後ろには25年という年月があり、目の前にはもっとたくさんの年月がある”

 という、現実を静かに受け止める言葉を繰り返して終わります。

 

 そこにあるのは希望でも絶望でもありません。現実を受容しようとする心の揺れ、のようなものです。デビューアルバムのオープニングとしては、あまりにドラマ性がなさすぎる気もします。

 しかし、そこにメロディーとアレンジが加わって、その微妙な情感をさりげなく彩ります。じわっと心にしみて来ます。僕はその感じとても好きです。

 あと、サビがクリストファー・クロスの「ニューヨーク・シティー・セレナーデ」に少し似ていますが、こちらの方が先だと付け加えておきます。

 

   彼のアルバム「アズ・ザ・タイム・フライズ」には、初期のビリー・ジョエルをもう少しジェントルに洗練させたような曲がたくさん入っています。

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   今年(2019年)デビュー41年目にして彼は初めての来日公演を行いました。サポートしたのは日本のミュージシャンたちで、コンサートを運営したのは、彼を応援する有志でした。僕もその場にいましたが、やっぱり、日本の音楽ファンは素敵だなあ、としみじみ思いました。

 

 最後は、来日公演より少し前、2018年11月12日に代官山のWEEKEND GARAGE TOKYO(追記:2020年末に残念ながら閉店しています)で急遽弾き語りをやった時の「’71」の動画を。

 

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彼の30年ぶり!の新作は日本のみでリリースされました。

popups.hatenablog.com

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